名調教師の跡取り娘 〜馬の声が聞こえる〜

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/12 📚 シリーズ: 名調教師の跡取り娘 〜馬の声が聞こえる〜 📝 4,948文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

お前には、調教師の才能がない」 そう言っていた父が、突然この世を去った。 父――大和満。 数々の名馬を育て上げた、競馬界屈指の名調教師。 その父の跡を継ぐことを夢見て、私は調教師になった。 ……ただし。 私は、馬を調教するのが壊滅的に下手だった。 馬は言うことを聞かない。 調教を始めれば止まる。 走らせようとすれば嫌がる。 挙げ句の果てには、担当馬からこう言われた。 『あなた、本当に調教師になるつもりなの?』 ――その声が聞こえた。 そう。 私は、馬の言葉が分かる。 でも、それは便利な能力なんかじゃなかった。 『今日は走りたくない』 『飼い葉が少ない』 『あの人、嫌い』 『あなた、馬のこと何も分かってないわね』 ……どうやら私は、馬を調教する前に、馬から調教されなければならないらしい。 しかも、母もまた、馬の心を読む力を持っていた。 祖父が残した謎の記録。 父が隠していた秘密。 なぜ大和家には、馬の心を読む力が受け継がれているのか。 なぜ父は、私を調教師にしたくなかったのか。 そして、なぜ父は最後に一頭の問題児――サクラノイタズラを私に託したのか。 私はまだ知らない。 馬を理解するということが、速く走らせることではないということを。 そして―― 本当に調教されるべきだったのは、馬ではなく私だったということを。 これは、史上最弱の調教師を自称する少女と、ちょっと生意気な馬たちが織りなす、競馬と家族と成長の物語。

本文

お前には、才能がない」

父――大和満にそう言われたのは、私が高校三年生の冬だった。

父は現役の調教師だ。

これまでにGⅠ馬を何頭も育て、競馬界では知らない人間の方が少ない。

厩舎の壁には、父が手がけた馬たちの写真が並んでいる。優勝レイを首にかけ、観客の歓声を浴びる馬。その隣で、誇らしげに笑う父。

私は幼い頃から、その写真を何度も見てきた。

祖父は、あの大調教師――大和大寒。

その名は、競馬を知らない人間でも一度は聞いたことがあるほど有名だった。

大和家は、代々続く調教師の家系だった。

家の食卓で交わされる会話は、いつも馬の話だった。どの馬の脚元がどうだとか、調教の負荷をどう変えるべきだとか、次のレースでどんな展開になるだとか。

けれど、両親は私に跡を継げとは言わなかった。

母――大和まやは、いつも穏やかに笑って言った。

「好きなことをしなさい」

父も、それに反対しなかった。

それが、二人の教育方針だった。

私は昔から、どんな動物にも好かれた。

犬や猫はもちろん、近所の鳥や野良の子狐まで、なぜか私のそばに寄ってきた。厩舎へ行けば、馬たちは私の姿を見つけるだけで耳を立て、馬房の奥から顔を出した。

馬の首に抱きつき、鼻先を撫で、長い時間をかけて話しかける。馬たちは、そんな私を嫌がらなかった。

むしろ、私が帰ろうとすると寂しそうに鼻を鳴らした。

母はそんな私を見て、時々、不思議そうな顔をしていた。

「どうしてこの子は、あなたにだけそんな顔をするのかしら」

「さあ。私が優しいからじゃない?」

そう答えると、母は小さく笑った。

けれど、その笑顔の奥には、何かを知っているような影があった。

母は動物たちに近づくと、私には聞こえないほど小さな声で話しかけることがあった。すると、怯えていた犬が急に大人しくなったり、暴れていた馬が嘘のように静かになったりした。

「お母さん、今なんて言ったの?」

幼い頃に尋ねたことがある。

母は少しだけ目を細め、それからいつもの穏やかな笑顔に戻った。

「秘密よ」

「ずるい」

「大人には、ひとつくらい秘密があるものなの」

その会話を、祖父――大和大寒だけが黙って聞いていた。

祖父は何も言わなかった。

ただ、母と私を交互に見て、長い間、何かを考えているようだった。

だから周囲は、当然のように言った。

「将来は調教師だね」

両親は、私が学問に興味を持つと好きなだけ学ばせてくれた。

小学校から地元の北海道を離れ、東京の私立小中高一貫の名門お嬢様学校へ通った。両親が用意してくれた家から学校へ通い、勉強に打ち込む。

成績は常に学年一位だった。

周囲からは、将来は一流大学へ進学し、官僚か研究者にでもなるのだろうと思われていた。

高校卒業を間近に控えたある日、私はその進路を自分から捨てた。

「大学には行かない」

母は目を丸くし、父は黙って私を見た。

「どうして?」

「馬で天下を取りたいから」

自分でも、なぜそんなことを言ったのか分からない。

ただ、東京で学び続けるうちに、胸の奥にあった思いが形を持ったのだ。

父の厩舎を継ぎたい。

父が育てた馬たちよりも強い馬を育てたい。

祖父、大和大寒の名に負けない調教師になりたい。

競馬界で、私の名前を知らない人間がいないくらいになりたい。

母はしばらく黙っていた。

やがて、私の手を取る。

「あなたが決めたなら、やってみなさい」

その指先は温かかった。

けれど、なぜかその目には、喜びだけではないものが浮かんでいた。

両親は反対しなかった。

高校を卒業したら、地元の大学の畜産学部へ進学する。馬の生理や飼養、繁殖、運動について学びながら、父の厩舎を手伝う。

それが、私の選んだ道だった。

それから四年。

私は畜産学部を卒業し、調教師試験にも合格した。

合格通知を受け取った日、地元では家族や厩舎のスタッフ、昔から付き合いのある関係者たちが集まり、ささやかな合格祝いのパーティーを開いてくれた。

父は誰よりも嬉しそうだった。

「これで、ようやくスタートラインだな」

「ええ。ここからお父さんを超えるのよ」

「言うようになったな」

母も笑い、次々と運ばれてくる料理や酒を囲みながら、私たちは夜通し語り合った。

父の厩舎をどう継ぐか。

どんな馬を育てたいか。

いつか、父が手がけた馬たちよりも強い馬を育てられるか。

空が白み始めても、宴は終わらなかった。

私は久しぶりに、心の底から浮かれていた。

調教師になる。

父の跡を継ぐ。

祖父、大和大寒の名に並ぶ。

その未来が、ようやく現実になったのだと思っていた。

けれど、翌朝。

父は急逝した。

前夜まで、いつも通り笑っていた。

私の合格を誰よりも喜び、これからの話をしていた。

それなのに朝になっても、父は起きてこなかった。

原因は心臓発作だった。

あまりにも急で、私は父の死を理解できなかった。

昨夜、あれほど元気に話していたのに。

つい数時間前まで、私の肩を叩きながら笑っていたのに。

葬儀が終わっても、厩舎へ行けばいつもの場所に父が立っている気がした。

壁に並んだ写真の中で、父は今も笑っている。

そのさらに奥には、祖父――大和大寒の写真も飾られていた。

けれど、現実の父はもういない。

父のいなくなった厩舎で、スタッフも馬たちも変わらず仕事を続けていた。

世界は動いている。

変わったのは、私たち家族だけだった。

父の死から数週間後、私は予定通り調教師として厩舎に立った。

畜産学部で馬の身体や栄養、繁殖、行動学を学び、調教師試験にも合格した。

知識はある。

資格もある。

父の跡を継ぐ覚悟も、できているつもりだった。

けれど、現実は甘くなかった。

父が亡くなって初めての春。

私は何度目か分からない調教の失敗を見届けたあと、厩舎のスタッフに言われた。

「お嬢さんには、まだ早いんじゃないですか」

その言葉が、父の声と重なった。

――お前には、才能がない。

私は手綱を握りしめた。

「もう一度やらせてください」

「何度やっても同じだ」

頭の中で、父の声が響く。

「でも、まだ馬を理解できていないだけで」

「そうだ」

父が生前、厩舎の奥にいる一頭の馬を指差した。

栗毛の三歳牝馬。

「じゃあ、あいつを調教してみろ」

「私が?」

「ああ」

父の声には、期待がなかった。

私は焦りながら馬房へ向かった。

馬の名前は、サクラノイタズラ。

父の厩舎でも、少し扱いに困っている牝馬だった。

「よし……よろしくね」

サクラノイタズラは、私を見た。

そして。

ぷいっ。

顔を背けた。

「……」

「おーい」

ぷいっ。

「いや、こっち見てよ」

ぷいっ。

完全に無視である。

その瞬間、頭の中に声が響いた。

『また来たの? 今日は何をするつもりかしら?』

「……え?」

私は周囲を見回した。

馬房の中にいるのは、私とサクラノイタズラだけだった。

『どうしたの? 急にきょろきょろして』

声は、目の前の牝馬から聞こえていた。

「今、何か言った?」

『言ったわよ。あなたに話しかけたの』

サクラノイタズラが、面倒そうに耳を動かす。

『聞こえているなら、返事くらいしなさいな』

私は息を呑んだ。

馬の声が聞こえる。

正確には、意味が頭の中へ直接流れ込んでくる。

『それにしても、今日もずいぶん力んでいるわね。そんな顔をしていたら、誰だって近寄りたくなくなるわよ』

「あなたが、私を嫌がっているんじゃないの?」

『嫌がっている? 違うわ。警戒しているだけよ』

「警戒?」

『あなたはいつも、私を動かそうとするでしょう。私が何を考えているかも聞かずに』

胸を突かれた。

後ろから、父の声が聞こえた気がした。

「馬に舐められてるぞ」

「まだ始まったばかりでしょう!」

私は馬房に入り、手綱を取った。

「ほら、行くわよ」

『行かないわ』

ぐっ。

動かない。

「……行こう?」

『だから、行かないと言っているでしょう』

「お願いだから」

『頼み方を変えても同じよ。今日は脚が重いの。昨日の運動で右の後ろ脚に違和感があるわ』

私は手綱を引く手を止めた。

「右の後ろ脚?」

『そうよ。痛いというほどではないわ。けれど、無理に動かされるのは嫌なの』

慌てて脚元を確認する。

見た目には異常がない。

けれど、サクラノイタズラは右後ろ脚に体重をかけるのを避けていた。

今までの私は、それを「動きたくないだけ」だと思っていた。

「……どうして、今まで気づかなかったの」

『あなたが私を見ていなかったからよ』

その言葉に、胸が痛んだ。

私が力を込めると、サクラノイタズラは一歩だけ後ろへ下がった。

「おい」

『だから、無理だと言っているでしょう』

さらに引っ張る。

牝馬は大きく首を振り、私の手から手綱を抜いた。

そして、私の顔をじっと見た。

『あなた、本当に調教師になるつもりなの?』

「……なるわ」

自分に言い聞かせるように、私は呟いた。

「私は、調教師になる」

『なら、まず私の話を聞きなさい』

「……分かった」

私は手綱を置いた。

「右後ろ脚に違和感があるのね?」

『ええ。少し休めば問題ないわ。けれど、今日は走りたくないの』

「分かった。今日は走らせない」

『本当に?』

「本当よ」

『なら、そこに立っていなさい。あなたが急に何かを始めないと分かるまで、私はあなたを信用しないわ』

「厳しいわね……」

『馬を何だと思っているの? こちらだって命がかかっているのよ』

私は苦笑した。

今までのやり方では駄目だった。

父の言葉を真似するだけでは、馬は動かない。

「もう一回よ」

私は手綱を拾いかけた。

『だから、今日は走らないと言ったでしょう』

「違うわ。あなたを動かすためじゃない」

私は手を止め、サクラノイタズラの首に触れた。

「あなたの話を聞くために、もう一度やらせて」

サクラノイタズラは、しばらく黙っていた。

『……それなら、少しだけなら許してあげるわ』

「ありがとう」

『礼を言うのは早いわ。あなたはまだ、馬の扱いが下手なんだから』

「分かっているわ」

『分かっているなら、もっと早く気づきなさい』

「善処する」

『善処ではなく、実行しなさい』

思わず笑ってしまった。

その瞬間、サクラノイタズラがゆっくりと私の方へ顔を向けた。

そして鼻先を、私の胸に押しつけた。

『……あなた、少しだけましになったわね』

「それ、褒めているの?」

『馬にしては、最大級の賛辞よ』

私は牝馬の首を撫でた。

サクラノイタズラは逃げなかった。

その日、私は一時間かけて、馬を一歩も走らせることができなかった。

けれど、右後ろ脚の違和感をスタッフに伝えると、軽い炎症が見つかった。

無理に走らせていたら、もっと大きな故障につながっていたかもしれない。

「よく気づきましたね」

スタッフにそう言われた。

私は答えられなかった。

気づいたのは、私ではない。

『当然でしょう。自分の脚のことなんだから』

頭の中で、牝馬が得意げに鼻を鳴らした。

父の声が、記憶の中で響いた。

「明日も来い」

短い言葉だった。

それでも私には、十分だった。

私は頷いた。

「明日も来るわ」

『来るだけでは駄目よ』

「え?」

『明日は、私の左前脚が少し張っているわ。そこも見ておきなさい』

「……あなた、他にも悪いところがあるの?」

『悪いところではないわ。気になるところよ』

「それを先に言ってよ!」

『今日は右後ろ脚の話で精一杯だったの』

私は頭を抱えた。

その様子を、少し離れた場所から母が見ていた。

いつの間に来ていたのだろう。

母はサクラノイタズラの前に立つと、静かにその額へ手を添えた。

「今日は、よく頑張ったわね」

サクラノイタズラは、母の手に鼻先を寄せた。

『この人は、あなたより話が分かるわ』

「お母さん、何をしたの?」

「何もしていないわ」

母はそう言って、牝馬の目を覗き込んだ。

「ただ、分かってあげただけよ」

その言葉に、私は首を傾げた。

母はそれ以上、何も言わなかった。

ただ、サクラノイタズラの首を撫でながら、どこか遠くを見るような目をしていた。

こうして私――大和こころの調教師人生は始まった。

ただし。

私が馬を調教する人生ではなかった。

馬の声を聞き、馬に教えられ、馬と一緒に成長していく人生の始まりだった。

そして私は、この日初めて知った。

私には、馬語を理解する力がある。

けれど、馬の言葉が分かることと、馬を理解できることは同じではない。

母がなぜ、あれほど自然に動物たちの気持ちを察することができるのか。

祖父が、幼い私と母を見て何を考えていたのか。

その時の私は、まだ何も知らなかった。

馬に私を調教してもらう人生の始まりだった。

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作者について

丸村丸むう

AI小説を書き殴っています。

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