十五夜、お月さまの分け前
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
それは、彼方から届いた、ちょっと不思議な物語。ショートショート
本文
窓辺の三方に積まれた、真っ白な月見団子。
その一番上から、まるまるとした白い影が、ぴょんと飛び降りました。
「あ」
リビングの隅で、お兄ちゃんが息をのみます。
妹が指さした先には、本物のうさぎ。
いや、どこからどう見ても、真っ白でふかふかした野うさぎがいました。
うさぎは器用に前足を使い、お供えのお団子を、もぐもぐと頬張っています。
驚いて声を上げかけた子どもたちでしたが、うさぎは逃げるどころか、ぴんと耳を立てて、じっとこちらを見つめました。
赤く澄んだ目が、まるで、
「これ、すごくおいしいね」
そう言っているように見えます。
「……ねえ、一緒に食べる?」
お兄ちゃんがそっと近づき、お団子をひとつ転がしてやると、うさぎは嬉しそうに鼻をひくつかせ、小さな口でちょこちょこと食べ始めました。
子どもたちも負けじと、自分たちのお皿からお団子をひとつ。
ぱくり。
十五夜の静かな夜。
月明かりの下で、子どもたちとうさぎの、ささやかなお茶会が始まりました。
ところが、そこへ。
「ちょっと、何をしてるの!」
台所から、お母さんがやってきました。
慌てて子どもたちが身構えます。
「お母さん、違うの。この子が……」
「ダメでしょ。お月さまにお供えする大切なお団子を、全部食べちゃったら」
お母さんは呆れたようにため息をつき、うさぎと子どもたちを交互に見つめました。
けれど、うさぎはまったく悪びれる様子もありません。
お母さんの足元にちょこんと座り、ぴくぴくと耳を動かしています。
その姿を見た瞬間でした。
お母さんの表情が、ふっと緩みました。
どこか懐かしそうに、遠くを見るような目をしています。
「……まあ、いいか」
お母さんはふふっと笑うと、自分のぶんのお団子をひとつ摘み上げ、うさぎの前に、ぽんと置きました。
「実はね」
お母さんは子どもたちに言いました。
「お母さんも小さい頃、同じことをしたことがあるの」
「え?」
「十五夜の夜に窓を開けたらね、やっぱりこんなふうに、白い子がやってきたのよ」
「このうさぎ?」
妹が尋ねると、お母さんは少し考えてから、にっこり笑いました。
「もしかしたら、同じ子かもしれないね」
子どもたちの目が、ぱっと輝きます。
「それでね、一緒にお団子を食べたの」
「本当?」
「本当よ」
お母さんは子どもたちの頭を、優しく撫でました。
「だからきっと、うさぎはお月さまからの使いだけじゃなくて、子どもたちの秘密の友達でもあるのよ」
その言葉を聞いたうさぎは、まるで返事をするように、ぴょこんと耳を動かしました。
窓の外では、まん丸の十五夜お月さまが、部屋いっぱいに優しい光を注いでいます。
お皿の上のお団子は、いつの間にかずいぶん減っていました。
けれど、お母さんは何も言いませんでした。
今夜はきっと、お月さまにも分け前があるのでしょう。
そして、その夜。
子どもたちは、うさぎに小さな約束をしました。
「来年も、また来てね」
うさぎは答える代わりに、月を見上げました。
そして、ぴょんと窓辺へ跳び上がると、一度だけ振り返ります。
「約束だよ」
お兄ちゃんが言うと、
うさぎは、ぴくんと耳を動かしました。
それから月明かりの中へ、静かに消えていきました。
子どもたちは知らないことですが。
その夜、お母さんも窓辺に小さな団子をひとつだけ残しておいたのでした。
来年の十五夜まで続く、秘密の約束のために。