1.警備員・三谷
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゆすり屋の男が、人気のない廃工場で殺害された。 犯人と目されるのは、彼に殺意を抱く二人の男。 互いの存在を知らぬまま現場へ向かった二人の行動には、奇妙な食い違いがあった。 何気ない発言や不自然な行動、現場に残された小さな痕跡をつなぎ合わせたとき、事件の構図は思いもよらぬ形へ反転する。 二つの殺意が交錯した先に待つ真相とは――。
本文
午後七時少し前。いつもより早めの夕食を終え、夜勤の支度に取り掛かろうとしていた三谷の携帯電話が鳴った。
「はい、三谷ですが」
右手人差し指で画面をタップし、応答する。
「俺だよ。黒須だよ」
「お、お前か……」
電話の声を聞くなり、三谷の表情が険しくなる。
「そろそろ懐が寂しくなってきたからさあ、またお願い出来ないかなあ」
黒須はケチなゆすり屋で、偶然三谷の弱みを掴んだ彼は、たまにこうして金を無心していた。
「まだ一か月も経ってないじゃないか。無理だ」
「いいのかなあ? あのことを警察に話しちゃっても」
三谷には隠しておきたい過去があった。
警備員の仕事をしている彼は、夜勤明けの早朝に車で帰宅途中、自転車を相手に接触事故を起こしたことがあった。相手は重症を負い救急車で運ばれたが、打ちどころが悪かったらしく搬送先の病院で息を引き取ったという。
相手の自転車は無灯火のうえ車道を逆走、さらにはスマートフォンの画面を見ながらの、ながら運転だった。相手側にも落ち度があったのは間違いないのだが、三谷は警察を呼ぶことをせず、その場から逃げていた。
後日、どこからかそのことを知った黒須は、三谷をゆすりのターゲットにしたというわけだ。
「わ、分かった。金は何とか都合する」
「それじゃあ今夜、いつもの場所で待ってますよお」
それだけ言い残し、黒須からの電話は切れた。
(クソ、どうすればいいんだ)
現在の三谷は、金銭的な余裕などなかった。
黒須に渡す金を工面するため、彼はすでに各方面からの借金が膨れ上がっていた。
(これ以上俺に金を貸すところなどない。もう無理だ)
ふとテーブル上の、果物の入ったカゴに目をやる。傍らには果物ナイフが置かれていた。
(……殺るしか、ないのか)
彼はナイフを手に取った。
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