2.外科医・木村
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゆすり屋の男が、人気のない廃工場で殺害された。 犯人と目されるのは、彼に殺意を抱く二人の男。 互いの存在を知らぬまま現場へ向かった二人の行動には、奇妙な食い違いがあった。 何気ない発言や不自然な行動、現場に残された小さな痕跡をつなぎ合わせたとき、事件の構図は思いもよらぬ形へ反転する。 二つの殺意が交錯した先に待つ真相とは――。
本文
七時半。勤め先の病院から帰宅した木村が食後のひと時を過ごしていると、携帯電話が鳴った。
左手人差し指で画面をタップし、スマートフォンを右耳に当てる。
「はい、木村です」
「俺だよ。黒須だよ」
「またお前か……」
電話の声を聞くなり木村の表情が険しくなる。
「そろそろ懐が寂しくなってきたからさあ、またお願いしますよお」
ゆすり屋の黒須からの、金の無心だ。
「……分かった。金なら用意する」
外科医の木村にも、隠している秘密があった。
彼は半年ほど前に行った手術中の医療ミスで、担当患者を死なせていた。
書類の捏造などの隠蔽工作で、遺族に対しては何とか誤魔化し不問にすることが出来た。だが、どこからか情報を掴んだ黒須は、木村をゆすりのターゲットにしていた。
「先生え、悪いんだけど、今回は金額を上げさせてもらってもいいかなあ?」
「またか? 前回増やしたばかりだろう」
「そう言わずにお願いしますよお。こちらも色々と物入りでねえ」
黒須は百万を要求した。
「百万? 冗談じゃない!」
「医者ってのは儲かるんでしょう? 俺が全部バラしたら、あんた医者の資格を失くすんじゃないかなあ」
「くっ、分かった……何とかする」
「それじゃあ、またいつもの時間に例の場所で待ってますよお」
一方的な要求をして、黒須は電話を切った。
(どうすればいい? いくらなんでも、急に百万なんて無理だ)
木村はスマートフォンを置くと、仕事用の医療バッグに目をやる。
(もう終わらせるしか、ない)
彼はバッグから、手術用のメスが入ったケースを取り出した。