食後が1番うるさい。
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
十年前の事故で両親を亡くした。 そこから彼女の人生は全て変わってしまった。 でも、諦めずに立ちあがろうとする。 _この先どんなことが起こるかも知らずに__
本文
夕食を食べ終わって少しした頃、凪がゲームをやり始めた。
「闇莉〜勝負しようぜ」
といきなり凪は闇莉にいった。
「別にいいけど…」
闇莉は愛づらしく受け入れた。
ゲームの対戦モードを選択画面に置いたまま凪はふと視線を部屋中に走らせた。
「ところでさ」
凪がコントローラーを机の上に放り出し椅子の背もたれに寄りかかる。
その目は闇莉のデスク周りに設置された機材群へと向けられていた。
大型モニター、スタンドマイク、防音スポンジが貼られた壁紙。
そして高性能なPC。
「お前の部屋、なんでこんなに機械多いんだ。高そうだけど」
闇莉は瞬きをした。
心臓が一つ跳ねる。
気づかれた、という一瞬の恐怖。
だが、凪の表情には疑念よりも純粋な好奇心しかない。
彼はこれが配信環境だとは夢にも思っていない。
ただの「マニアックな趣味」として見ているのだ。
「……趣味、だよ」
闇莉は素っ気なく答えた。
「趣味にしては本格的すぎない?マイクとか、
なんかレコーディングスタジオみたいな」
凪は立ち上がりマイクスタンドに近づいて触ろうとする。
「あ、触らないで」
反射的に声が鋭くなる。
凪の手が空中で止まった。
「…ん?なんだよ、汚れてるとか?」
「…違う。壊れるから」
嘘ではない。
敏感なコンデンサーマイクは衝撃に弱い。
だがそれ以上にこの空間が自分と他人との境界線であることを示したかった。
凪は肩をすくめて引き下がったが、すぐにまた別の疑問をぶつけてきた。
「にしても、これ全部お前が買ったの?親の金使ってるわけ?」
「自分で稼いでる」
「は?」
凪の目が丸くなる。
「高校一年生が何稼いだっていうんだよ?バイト?そんな時間あったけ」
闇莉は言葉を選んだ。
真実は言えない。
Vtuberとして活動していることは、それで収益を得ていることは、
凪にとって衝撃以外の何物でもないだろう。
彼が推しだと公言している『泡沫めろ』が目の前にいる黒羽 闇莉である、
という事実はまだ明かすべきではない。
少なくとも。
今は。
「…内緒」
簡潔に告げる。
「内緒って何?怪しいぞ。悪いことしてないよな?」
凪が茶化すように笑う。
その笑い声が部屋の緊張を少しだけ解いた。
「してない。普通に生活してるだけ」
闇莉は椅子を回して窓の外を見た。
夜風がカーテンを揺らす。
凪は納得いかない顔だがそれ以上追求しなかった。
幼馴染としての勘所を心得ているのかあるいは単に自分の世界に浸っているのか。
「…まあ、いいけど。でも、そんな高いものばっかり置いてたら盗まれるぞ?
鍵、ちゃんとかけてるか?」
「かけてる。ポストに入れた合鍵で入ってきたのは誰かさんだけど」
「あー、はいはい。俺のせいだ。ごめんごめん」
凪は軽く謝罪すると再びゲーム機に向かって座り直した。
「よし話戻すぞ。勝負だ。俺が買ったら朝、起きるまで布団剥がさないでくれる?」
「……条件がおかしい」
「じゃあ負けたら俺が明日も朝食作る。メニューは闇莉の好きなやつ」
闇莉はため息をついた。
フラッシュバックの恐怖がまだ心のどこかに澱んでいる。
だが、凪の軽やかな意地悪と明るさがそれを少しずつ上書きしていくようだった。
重苦しい空気よりくだらない言い争いの方が今は救いになるかもしれない。
「…二番勝負ね」
闇莉が小さく呟くと凪は満足そうに鼻を鳴らした。
「了解。では、開始!」
テレビの電源が入り画面が青白く光る。
窓の外では夜風が桜の花びらを散らせているが、部屋の中だけはかつてないほど
賑やかで、無邪気な喧騒に満ちていた。