◆果てなき忘却の監獄―カカオの残滓―◆
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> 深夜、すっかり静まり返った『カフェ・ド・レクリプス』</p><p>フロアにはただ、先ほどの迷い人が遺していった甘美なカカオの残滓と、珈琲の焦げ付いた香りが静かに漂っている。</p><p>カウンターの奥で、ジェラルドは一切の生活ノイズを立てずに銀の器具を磨き、トパーズ・イエローの瞳を細めた。</p>
本文
深夜、すっかり静まり返った『カフェ・ド・レクリプス』
フロアにはただ、先ほどの迷い人が遺していった甘美なカカオの残滓と、珈琲の焦げ付いた香りが静かに漂っている。
カウンターの奥で、ジェラルドは一切の生活ノイズを立てずに銀の器具を磨き、トパーズ・イエローの瞳を細めた。
眼鏡のレンズには、まだ先ほど崩壊していったヴァイオレットの絶望の残光が薄く写り込んでいる。
ジェラルド:「――ふふ。本日の営業も、無事に終了ですね。あの方の魂がヴァイオレットの絶望に融けていく様は、実に耽美で、極上のレシピでした……」
その優雅な低音ボイスの囁きが空間に溶けた、まさにその刹那。 壁裏の隠し螺旋階段を、無音のなかに最速の【トトン、……トンッ】というリズムで駆け下りてくる人影があった。
前髪に『銀の一粒石の髪留め』を光らせたアルベリックが、一点のシワもない純白のシャツを揺らし、硬質で冷徹なポーカーフェイスのままカウンターの前へと立ち塞がる。
アルベリック:「……チッ、駄犬(ジェリー)が。プロの顔のまま、先ほどのお客様にルベウスの面影を重ねられて悦に浸っていたな。看破の硝子(アナライズ・レンズ)越しに何を見ていたかは知らんが……影たるこの俺が、分子レベルでその不粋な私情を許さんぞ」
ジェラルド:「おや、手仕事のショコラを地階で練り上げていたにしては、ずいぶんと耳が早いですね、アルベリック。……僕がこの薄い感情のなかに宿している想いを剥き出しにする相手は、世界でただ一人。 二階の書斎で高みの見物をされている、あの尊きお方だけですよ」
ジェラルドはにこやかな微笑みの仮面を一切崩さず、蜘蛛の糸のように静かにアルベリックの視線を絡め取る。
二人の間で、二階にいらっしゃるオーナーへの狂おしいほどの独占欲(嫉妬の濃度)が静かに、激しく跳ね上がっていく。
そのにぎやかな大衝突の気配を完全に遮断するように、ハニープラチナの髪を揺らしたエレーヌが、一切の足音も生活ノイズも立てずに二人の間へと音もなく滑り込んできた。
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