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💍舌・アンダー・ザ・トレジャー⛏️

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/29 📚 シリーズ: 夏の日の、指輪物語。 📝 1,940文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

誓いの指輪……のはずが、指輪を巡る4つのショート狂想曲。 誓いの指輪――。 それは愛の証である。 夏の日に紡がれる、運命のリングを取り巻く、男女の愛おしい4つのアンソロジー。 (ショートショート4編) 【収録エピソード】 💍舌・アンダー・ザ・トレジャー⛏️ 🎋愛・ハート・オン・ファイア🔥 🧸ぬいぐるみ・エンドレス・ワールド🌏 🎆爆音・イン・ザ・ダーク🌊

本文

「結婚しよう」

 夏祭りの喧騒の中で、彼は言った。

 遠くで祭囃子が鳴っている。

 浴衣姿の人々が行き交い。

 焼きそばの匂い。

 たこ焼きの湯気。

 子供の叫び声が入り混じっていた。

 そんな中。

 金魚すくいの屋台と、フランクフルトの屋台の間で。

 彼は私にプロポーズした。

「何でここなんだよ?」

 私は思わず聞いた。

「駄目だった?」

「いや」

 駄目ではない。

 場所がどうであれ、彼と結婚することについては、もうずいぶん前から決めていた。

 雰囲気というものを一切考慮しない男ではあるが。

 それも含めて、今さらだった。

「まっ、良いけど」

「え?」

「結婚する」

 一瞬。

 彼は私の顔を見つめたまま固まった。

 それから。

「本当に?」

「嘘で言うかよ」

「やった!」

 彼は子供みたいに笑った。

 周りの人が何事かとこちらを見るくらい、大きな声で笑った。

「ありがとう!」

「声でかい」

「ごめん。でも、嬉しくて」

 嬉しそうな彼を見ていると、私も少しだけ恥ずかしくなった。

 プロポーズの場所が夏祭りのど真ん中だったことくらい、まあ許してやろう。

「それで」

 彼が言った。

「婚約指輪は、ここに用意してある」

「用意してある?」

「うん」

 彼は自信満々に、すぐ横を指さした。

 私は、その先を見る。

 屋台があった。

「屋台で買うのか?」

「買うというか、もう用意してある」

「屋台に?」

「そう」

 彼がうなずく。

 屋台のおっさんも、こちらを見てニコニコとうなずいている。

 何だ。

 この二人。

 いつの間に意気投合したんだ。

「おめでとうございます!」

 おっさんが言った。

「ありがとうございます」

 彼が答えた。

 私を置いて話が進んでいる。

 おっさんは、屋台の奥から商品を一つ取り出した。

 そして、両手で大事そうに私へ差し出してくる。

 私は、まず商品を見た。

 赤い。

 丸い。

 棒が刺さっている。

 次に、屋台の上に掲げられた看板を確認した。

 『りんご飴』

 私は、おっさんに視線を戻した。

 おっさんは満面の笑顔だった。

「どうぞ!」

 りんご飴を渡された。

「どうも」

 受け取ってしまった。

 ずっしりと重い。

 表面の飴が、祭りの明かりを反射して、てかてかと光っている。

 私は、りんご飴を見る。

 彼を見る。

 もう一度、りんご飴を見る。

「りんご飴でどうしろと?」

 私が聞くと、彼は待ってましたとばかりに笑った。

「これが、僕からのサプライズだ」

「サプライズ」

「りんご飴を、よく見てみて」

「見てるけど」

「もっと近くで」

 私は言われたとおり、りんご飴を顔の前まで持ち上げた。

 透明な飴の層。

 赤いりんご。

 木の棒。

 普通のりんご飴に見える。

 けれど――。

 屋台の明かりにかざして、少し角度を変えたとき。

 りんごの下。

 棒の根元付近に。

 何かが埋まっているのが見えた。

「ん?」

 目を凝らす。

 銀色の輪。

 小さな石。

「指輪?」

「そう!」

 彼が嬉しそうに言った。

「婚約指輪!」

 りんご飴の中に。

 婚約指輪が埋まっていた――。

「……何で?」

「普通に渡すだけじゃ、つまらないと思って」

「うん」

「夏祭りらしい演出にしたくて」

「うん」

「屋台のおじさんに相談したら、協力してくれたんだ」

「おじさんも?」

「最初は驚いたよ!」

 おっさんが笑う。

「でも、こんなめでたいこと、断れないからね!」

「そうですか」

「指輪がずれないように、りんごの芯の近くにしっかり固定してあるから!」

「固定したの?」

「しっかりね!」

 しっかり固定されているらしい。

 私は再び、りんご飴を見る。

 指輪は、りんごの下部に埋まっている。

 取り出すには。

 表面の飴を突破し。

 りんごの果肉を食べ進め。

 芯の近くまで到達する必要がある。

「りんご飴、食べ終わるまで指輪はお預けか」

「そういうことになるね」

 私は、りんご飴を見つめた――。

 焼きそば。

 たこ焼き。

 フランクフルト。

 ベビーカステラ。

 かき氷。

 もう散々食べ歩いたあとだ。

「今かよ……」

「頑張って」

 私はりんご飴を舐めた。

 甘い。

 硬い。

 ほとんど減らない。

「噛めば?」

「歯が折れる」

「夫婦で支え合おう」

「お前が原因だろ」

 彼と屋台のおっさんが笑う。

 笑い事じゃない。

 私は必死に舐め続けた。

 数分後――。

 舌も指も、りんご飴もべとべとだった。

「なあ」

「何?」

「これ、指輪までたどり着いても、べとべとのままはめろってことか?」

 彼が黙る。

 屋台のおっさんも黙る。

 私は、もう一度りんご飴を見た。

 彼と結婚することに後悔はない。

 ただ――。

 人生最初の共同作業が、りんご飴の掘削作業になるとは思わなかった。

「頑張って!」

 彼が言う。

「お姉さん、あと少し!」

 屋台のおっさんも言う。

「まだ指輪まで四センチくらいあるけどな!」

 私は、りんご飴を。

 必死に。

 舐め続けた――。

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影灯レン

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