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星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/8 📚 シリーズ: 星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ 📝 11,087文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

◇あらすじ 「私、白鷺あんな。小さな頃に観た変身ヒロインアニメに憧れて、声優になったごく普通の女の子♪ある日怪人に襲われてる女の子を助けたら…ってえぇ~っ!怪人?!何?!どういう事〜っ?!」

本文

☆第6話 夏だ!海だ!共闘だ!

「良いよぉー、あんなちゃん! その感じ! 次、グッと見上げてから目線こっち貰えるぅ?!」

「はいっ」

カメラマンさんの指示に従って、顔を少し上げる。

真夏の青空。

白い雲。

照りつける太陽。

そして、私。……暑い。

いや、仕事だからちゃんとやるけど暑いものは暑い。

私は内心でだけ愚痴りながら、言われた通り空を見上げた。

それから、視線だけをゆっくりカメラへ。その視線の先、カメラマンさんの後ろに━━満面の笑みで両手を振っている、小さな女の子がいた。

「……!」

朱音ちゃんだ。

立花朱音、十六歳。黒髪のボブ。小柄で、可愛らしくて、ちょっとレトロな服装が似合っていて。

今も私を応援するために、一生懸命両手を振っている。

可愛い。

……可愛い。めちゃくちゃ可愛い。何この子、持って帰りたい。

いや、駄目だ、誘拐になる。

じゃあ妹にしたい。養いたい。むしろ私が養われたい。いやいや、それはそれでどうなの。

そんなことを考えているうちに、顔が自然と緩んでしまった。

「良いっ! それ最高――」

「キャーッ! あんな可愛いっ!」

「次は━━」

「最高よ! その笑顔、もう――!」

「振り向いて――!」

「最&高!」

「はいっ、あんなさん、今日も最高ですねっ! はー! 役得ですー!」

「……」

うるさい。ものすごくうるさい。

雑誌の担当さん、そして百合子さん。あなたたち、何なの?仕事して。私の撮影なんだから私を見て。

……いや、見てるけど。そういう意味じゃなくて。

「外野の大人うるさいっ!」

思わず声に出た。

「「すみません!」」

揃った。

そして私の後ろで、朱音ちゃんが困ったように笑っている。

いや、待って。

何であなたたち、そこで朱音ちゃんを見るの?

「ね? 朱音ちゃんもそう思うよね?」

雑誌担当さんが笑顔で朱音ちゃんに同意を求める。

「えっ、あ……その……」

朱音ちゃんが困った顔でこちらを見る。やめなさい。少女を巻き込むな。ほら、完全に困ってるじゃない。しかもコクコク頷いてる。首だけ動く人形みたいになってるじゃない。

「朱音ちゃんは気にしなくていいからね」

私は笑顔で手を振る。

「は、はいっ!」

朱音ちゃんの顔がぱっと明るくなった。……うん、やっぱり可愛い。

よし、お姉ちゃん頑張る。

今回の仕事は三日間の着ぐるみショー。それを終えて、今日は海辺でのグラビア撮影だった。

明日の朝には朱音ちゃんも帰るということなので、せっかくだから撮影を見学していかないかと誘ったのだ。

もちろん、ご両親にはちゃんと挨拶をした………したんだけどね。物凄く怪しまれた。

そりゃそうだ。昨日まで話にも聞いたことのないアラサー女性声優が、「朱音ちゃんとお友達なんです」とか言って突然やって来たら、私が親なら、とりあえず警戒する。

なんなら威嚇する。

「……まあ、私でも怪しむよね」

「何か言った?」

百合子さんが聞いてくる。

「何でもないです」

でも、これが伊織さんだったら━━

身長百百九十センチくらいありそうな全身ガチムチ大男が、「朱音ちゃんとは友達です」と言って親御さんの前に立ったら……。

……私よりは、たぶん怪しまれる。いや、絶対だ。

そんなことを考えながら、私は再びカメラの前へ戻った。

今日も快晴、海は綺麗。

朱音ちゃんは可愛い、なら。

「よーしっ!」

私は気合を入れ直した。

「お姉ちゃん、頑張っちゃうぞー!」

「頑張ってくださーい!」

朱音ちゃんが両手を振る。

うん、頑張る。

……外野の大人組は静かにしていてね。

撮影は順調だった。

海を背景にしたカット。砂浜を歩くカット。少し遠くを見つめるカット。水着での撮影なので暑さはあるけれど、仕事としては慣れたものだ。

問題は……

「……ん?」

撮影場所の外側が、妙に騒がしいことだった。

ここは公共の海水浴場だ。もちろん撮影許可は取っている。規制ラインも張っている。だから多少のギャラリーがいるのは想定内。

けれど、何だろう。

さっきから、規制ラインの辺りでスタッフさんが誰かと揉めている。

「何かあったのかな?」

休憩に入った私は、そちらへ視線を向けた。

数人の男性、年齢は二十代から三十代くらい。スタッフさんと何か言い争っている。そのうちの一人が、こちらを見て目が合った。

「あんなちゃん!」

叫ばれた。

続いて、他の男たちも私を見る。

「あんなちゃんだ!」

「こっち見た!」

「おーい! あんなちゃーん!」

私は反射的に手を振り返した。

職業病というか、ファンには愛想よく。それくらいは私だって分かっている。だから笑顔で手を振る。

すると、男たちの様子が変わった。

「俺のこと見た!」

「違う! 俺に手を振ったんだ!」

「俺だ!」

「俺だって!」

……嫌な予感。その直後だった。

「俺は古参ファンだーっ!」

一人がスタッフさんを押しのける。

「俺はあんなちゃんが好きなんだー!」

「危ない!」

警備スタッフが飛び込む。男は規制ラインを越えようとしたところを取り押さえられた。

「離せ! 俺は古参ファンだぞ!」

「落ち着いてください!」

「俺はあんなちゃんに会いに来たんだ!」

「だからって入っていい場所じゃありません!」

騒ぎ声が響き、私は固まっていた。

怖い。何度経験しても、こういうのは怖い。

「……あんな」

百合子さんがすぐに私の前へ出た。その向こうで、朱音ちゃんも不安そうな顔をしている。

「大丈夫だからね」

私は朱音ちゃんのところまで歩いていく。

「びっくりしたよね」

「……はい」

小さく頷く。

「もう大丈夫。警備の人たちがいるから」

「はい……」

私は朱音ちゃんの頭を撫でた。……可愛い。

いや、違う。今はそれどころじゃない。

でも可愛い。

「よしよし」

「えへへ……」

駄目だ、やっぱり可愛い。

さっきの怖い男たちのことなんて、一瞬で吹っ飛んだ。

朱音ちゃんを見ていると、心の中がむずむずする。妹欲しいかも。

「怖かったら、私のそばにいていいからね」

「はい!」

朱音ちゃんが笑った。うん、やっぱり可愛い。

……さっきの人たちはごめんなさい。

あなた方みたいな人は、聖女属性の私でも生理的に無理です。

その後、大きなトラブルもなく撮影は終了した。

朱音ちゃんを見送る。

「またね、あんなさん!」

「うん。またね、朱音ちゃん」

「明日の朝、帰ります!」

「気を付けて帰ってね」

「はい!」

最後まで元気いっぱいだった。

    *  *  *

そして私はホテルへ戻ってシャワーを浴びる。髪を乾かして、普段着に着替える。

「ふぅ……」

ようやく一息。

明日と明後日は二日間のお休み。久しぶりの完全オフだ。はるねさんこっちに向かってるって言ってたし、何しようかな?買い物でもいいし、ご飯食べるのも良いわよね。

そう考えながらロビーへ降りた私は、ホテル内のローカルコンビニのような売店へ向かった。

「これと、これください」

買ったのはノンアルコールカクテル二本。

一応、イメージというものがある。

『愛と光のプリティプリンセス』は日曜朝の女児向けアニメ、放送中は外でお酒を飲まない事にしている。別に飲酒が悪いわけじゃない。

でも、河井姫乃を演じている白鷺あんなが、酒を飲んで酔っぱらっている姿を子供たちに見られるのは避けたい。

そういうところは一応ちゃんと考えている。

「じゃあ、一本目……」

プシュッっと缶を開けて一口。

「……ん?」

ロビーの入口に誰かいる。

……朱音ちゃん?

いや、待って。さっき送ったよね?何でいるの?

朱音ちゃんがロビーの入口に立っている。しかも堂々と、辺りを見回している。

めちゃくちゃ怪しい。普通なら絶対目立つ。なのに、誰も気にしていない。ホテルの従業員も宿泊客も、誰も。

「あ……」

これが、もしかして認識阻害?

私はなるべく自然に朱音ちゃんへ近づいた。朱音ちゃんも私に気付く。そのまま二人でロビーの端の席へ移動した。外を見るふりをしながら、声を潜める。

「朱音ちゃん、何で?」

「メルのアンコックダー出現予測が、今夜出ると言っていました」

「……あー」

やっぱり。

「師匠に言ったら、十中八九あんなさんのところだろうって」

「でしょうね……」

「師匠は外で待機しています」

「伊織さんが?」

「はい。師匠、存在感がアレですから」

「アレ」

「メルでも隠しきれないんですって」

うん、なんとなく分かる。

「あと、師匠が『出来れば外に出てきて欲しい』って仰っていました」

「最初から被害を最小限にするためね」

「ですです」

私は深く息を吐いた。完全に私、寄せ餌じゃないのよ。

「……私って、そういう役回りなの?」

「でも、あんなさんが悪いわけじゃありません!」

「分かってるけど……」

それでも、人様に迷惑をかけたくはない。だったら━━

「行こうか」

「はい!」

朱音ちゃんと一緒に外へ出る。

その前に。

「これ、どうぞ」

朱音ちゃんが伊達メガネと帽子を差し出した。

「……準備いいわね」

「師匠が持たせてくれました!」

伊織さんこういうところは抜け目ない。

私は髪を帽子の中へしまい、伊達メガネをかけて、そのままホテルの外へ向かった。

と。

朱音ちゃんのバッグから、何かが顔を出した。

薄紅色のワンピース。緑色の髪。そして、モンシロチョウみたいな羽根。

「……妖精?」

「はじめまして、メルですメル。お噂はかねがね」

「あ、どうも……」

お噂はかねがね。

……一体どんな噂なんだか。

それより。

「変身ヒロイン同士って、結構交流あるの?」

「はい。情報交換とか、救援要請とかもありますメル」

「へぇ……」

そんな世界なんだ、と私が感心していると、メルちゃんがじっとこちらを見ていることに気付いた。

「……?」

目が合う。

すると、メルちゃんの目が潤んだ。両手を胸の前で組む。

「私、感激ですメル!」

「え?」

「今季のプリプリ、最高ですメルぅぅぅ!」

「…………」

「はぁ~! 大好きなプリティプリンセスの姫乃ちゃんの中の人にお会い出来るなんて! 伊織さんやフィー様に感謝ですメル!」

「…………」

何だろう、この既視感。

「メルちゃん……」

「はいメル!」

「もしかして……」

「大ファンですメル!」

即答だった。

「今期の第六話なんて特に最高で――!」

「ちょ、ちょっと待って」

「姫乃ちゃんの表情の変化がですねメル!」

「待って待って」

「それを演じるあんなさんの━━」

「待って!」

リアル変身ヒロインの妖精が、変身ヒロインアニメについて熱く語っている。

何これ。

「この回の演出も凄くてですねメル!」

「分かったから!」

「あと新しい変身バンクが━━」

「分かったから!」

「大好きですメル!」

「ありがとう!」

何だ、この会話。私、本人なんだけど。

「……あの」

朱音ちゃんが申し訳なさそうに口を挟んだ。

「メル、ちょっと落ち着いて」

「無理ですメル!」

即答。

「だって目の前に白鷺あんなさんがいるんですよメル!」

「……」

「私、今ならアンコックダー百体くらい倒せそうですメル!」

「それはやめて」

「え?」

「百体も出たら私が泣くから」

「……確かにそうですメル」

メルちゃんは素直だった。

そんな会話をしながら、私たちは昼間の撮影場所へ向かった。

夜の砂浜、昼間とはまるで違う顔を見せる。人影は少く、波の音だけが聞こえる。

私は砂浜に座った。

「ふぅ……」

持ってきたノンアルコールカクテルを開ける。

プシュッっと一口。

「……ぬるい」

仕方ないよね、ホテルから持ってきただけだから。

私は缶を手に、周囲を見回した。

暗い。

……ん?

「あれ?」

少し離れたところに岩がある。

「あんな所に岩なんてあったかしら?」

昼間は気付かなかったけど、まあ、いいか。

そのまま待つ。

波の音。夜風。ぬるい缶。そして━━

足音。

……誰か来た?一人?

いや。

「……複数?」

足音が増えた。私の心臓が跳ねる。

分かっている、伊織さんがいる。朱音ちゃんもいる。フィーちゃんもいる。メルちゃんもいる。

それでも、今までの経験が蘇る。

怖い。怖いものは怖い。

「……あ、あの」

男の人の声が聞こえた。

「あんなちゃんですよね?」

私は黙った。声に聞き覚えがある。昼間騒いでいた人だわ。

「あんなちゃんですよね、白鷺あんなちゃん」

どうする?

ファンへの対応?

不審者への対応?

どっち?

私が答えられずにいると、別の男が声を上げた。

「僕、ファンなんです!」

「……」

「あ、あんなちゃ……あんなちゃんに会えるなんて……う、うれ、うれしいな!」

また別の男。

「お、おおおお、おま、おまえら……」

息が荒い。

「お前ら、あん、あんなちゃんは……」

目が血走っている。

「俺の嫁だぞ……!」

嫌な汗が背中を伝った。

「……」

怖い。

四回目。これで四回目だけど怖いものは怖い。

男が私の前へ回り込む。

「一緒に行こう?」

「いや……」

「あんな……」

「あんなちゃん……」

「あんなは……俺の……」

三人とも身体が大きくなっていく。目が血走り、息が荒い。

「「「あああアアアア……」」」

嫌、来ないで。

「「「あんあんな……アンコックダー!」」」

三人同時。

「三人同時ぃぃぃぃぃっ!?」

無理っ!無理無理無理ー!

何で三人同時なの?!私、何か悪いことした?!

いや、してない。してないけど!なんで毎回こうなるのよ!

三人の身体が一回り大きくなる。

私へ向かって腕が伸びる。

「ひっ……!」

足がすくんで、頭が真っ白になる。

「早く……!」

助けて!伊織さん、朱音ちゃん、フィーちゃん。誰でもいいから早く!

「あんな」

その声に。

「釣り餌ご苦労さまですフィー」

「フィーちゃん!」

来た!やっと来た!

そして。

「大丈夫です、あんなさん!」

朱音ちゃんが岩陰から飛び出してくる。

その瞬間、岩が立ち上がった。

え?岩?違う。

「は?」

岩じゃない、人?いや、人っていうか。

「……伊織さん?」

三角座りをしているガチムチな巨軀。真っ暗な砂浜で岩に擬態して、三角座り。

「……」

伊織さんが立ち上がった。

「いや、それ岩じゃなくて伊織さんだったー!」

何で三角座りしてるの!?

変身ヒロイン以外の私とアンコックダー三人が全員が固まった。

……。

何、この時間。アンコックダーまで反応に困ってるじゃない。

「「フェアリィスティック!」」

その隙を逃さず、伊織さんと朱音ちゃんが同時に声を上げた。

二人の手に光が集まりフェアリィスティックが握られる。

私は、目の前の朱音ちゃんだけを見る。視界の端に何か光った気がするけど、でも見ない。見てはいけない。

今ここにいる変身ヒロインは一人、可愛い変身ヒロインが一人だけなのよっ。

「「フェアリィ・チェンジリング!」」

……ハモった。

「やめて」

思わず呟く。

聞こえない、私には何も聞こえない。あーあー、聞こえなーい。今ここにいる変身ヒロインは一人だけー。

朱音ちゃんが、満面の笑みで光の輪の中心にふわりと乗った。

足元から桜の花弁が舞い上がる。

夜の砂浜。

月明かり。

そして桜。季節感?知らないわ。

美しいものは美しいのだ。

花弁が朱音ちゃんの身体を包み込む。黒髪のボブが揺れる。

「言祝ぎ紡げ……逢いの鈴っ♪」

朱音ちゃんが歌うように呟く。

フェアリィスティックが左手首へ触れた。

ぱっとスティックが桜の花弁になって散る。その花弁が手首へ集まり組紐へ。そして金色の鈴へ。

ちりん。

「……!」

小気味いい音。

その鈴が鳴るたび桜の花弁が舞う。

朱音ちゃんが手を打つ。

ちりん。

 ちりん。

しゃんっ。

黒髪が花弁に包まれる。

そして弾けた。

桃色の長い髪。

腰まで届くポニーテール華やかに揺れる。

「……綺麗」

思わず声が漏れた。

続いて大量の花弁が全身を包む。

胸元。

肩。

腕。

そしてミニ晴れ着ドレスに姿を変え、花弁が晴れ着を着せるように身体を覆い弾ける。

可愛い。

さらにスカート。

ふわりと広がったミニスカートの内側から。

パニエが一枚。

二枚。

三枚。

四枚。

内側から順番に弾けるように現れる。

パニエ四枚はわかってる!これはわかってる仕様だ!

変身ヒロインのスカートにおけるボリューム感は重要なんだから!

さらに花弁が舞う。

薄紅色のニーハイソックス。

そしてショートブーツ。

鈴の音。

桜吹雪。

そのたびに衣装が完成していく。

腰。

花弁が集まり弾けると藤色のコルセットが巻き付きキュッと紐が締まる。

頭上に両手を上げて拍手。

 ちりんっ。

しゃんっ。

桜型のヘアアクセサリー。

そしてポニーテールを結ぶ大きなリボン。

さらに朱音ちゃんが少し前屈みになり腰に力を溜める。

そして。

勢いよく身体を伸ばした。

桜吹雪が爆発する。

大きな薄紅色のリボンが腰から広がった。

妖精の羽根のように。

夜空に舞う花弁が画面いっぱいに散っていく。

最後の一枚が朱音ちゃんの前を横切る。そして大きく一回転。

「月下に舞う桜嵐……っ!」

月明かりの下、桃色の髪が弧を描き決めポーズ。

「フェアリィ・ブロッサムっ!」

ぱっ!

桜の花弁が弾け散った。

「――――!」

私は固まった。

何これ、何なのこれ。最高じゃない。

これよ。

これなのよ。

これが私の見たかった変身バンクなのよっ!

「きゃーーーーーっ!」

思わず叫びそうになる。

いや、叫んだ。

「可愛いっ! ブロッサム最高っ!」

……しまった戦闘前だった。

「出来ればクラウンとチェンジでっ!」

何を言ってるんだ私は。

でも、伊織さんが15歳の伊織きゅんのままだったら━━

「……」

十五歳。華奢で中性的なあの頃の写真。

「……いや」

駄目だ、私は何を考えている。

「今は戦闘!」

そう戦闘。

私は邪魔にならないよう後ろへ下がった。その時、フィーちゃんが声を上げる。

「クラウン、ブロッサム。これは例の高速侵食個体の様ですフィー」

「前に聞いた、あんなさんの会社の人みたいな?」

ブロッサムがアンコックダーを見る。

「そうですフィー」

フィーちゃんが説明する。

「そもそも海水浴場なんて、欲望や劣情が溢れる場所ですフィー。そこにあんなが加わると、ここまで厄介な事になりますフィー」

「海水浴場で欲情……」

伊織さんが小さく呟いた。

「クラウン」

フィーちゃんの声が低くなる。

「暫くSAVAS禁止ですフィー」

「……!」

クラウンがこの世の終わりの様な悲痛な顔をした。何でそんなにショック受けてるの!?プロテイン止められただけでしょうが!

……いや、ちょっと待って。

クラウンめちゃくちゃ余裕じゃない?その横で、ブロッサムは緊張した表情を浮かべている。

クラウンが静かに前へ出た。

「ブロッサム」

「はい!」

「一体は君に任せる」

「……!」

「僕は残りを引き受ける、やれるね?」

ブロッサムの表情が引き締まった。

「はいっ!」

「行っておいで」

「はい!」

ブロッサムが駆け出す。

と同時に、クラウンの周囲に光の弾が浮かび上がった。

「フェアリィ・ショックレイ!」

無数の光弾が飛ぶ。

直線や曲線、複雑な軌道を描きながら、二体のアンコックダーを追い詰める。

頭部。両腕。両脚を正確に撃ち抜き、さらに光線が胴体へ突き刺さる。

二体の身体が大きく震え、そして崩れ落ちる。

「…………」

凄い。見た目はもの凄くアレなのに。

「クラウンって……本当に強いんだ」

その強さはきっと、二十年という時間が積み重なったものなのだろう。

変身ヒロイン、という言葉から想像するものとは随分違うけれど、確かに伊織さんは二十年間ずっと戦ってきたのだ。

その頃。

ブロッサムは一体のアンコックダーと交戦していた。

鈴が鳴る。

ちりん。

ブロッサムの前に桜型のエフェクトが浮かび上がり、花弁一枚一枚から薄紅色の直線ビームが放たれた。

「フェアリィ・レイ!」

無数の光線。その軌道に沿って桜吹雪が舞う。

綺麗、本当に綺麗。けれど━━

「……避けた!?」

アンコックダーが身体を捻った。

光線が砂浜を削る。

「うそっ!」

ブロッサムが驚く。

「憑依されたばかりでこの強さ?!」

アンコックダーが迫り、ブロッサムが後ろへ跳んだ。

「憑依されたばかりで、こんなに動けるなんて反則だよっ!」

私に動揺が走る。

最近見たアンコックダーはみんなこんな感じだった。これって私の影響の所為?

「普通の個体なら、今のフェアリィ・レイでフィニッシュチャンスだったのですメル」

「……え?」

いつの間にか、メルちゃんが私の肩に乗っている。

「メルちゃん、そっちはいいの?」

「大丈夫ですメル」

「そう……」

妖精って意外と自由ね。

ブロッサムが鈴を二回鳴らす。

 ちりんっ。

しゃんっ。

足元から桜吹雪が巻き上がる。

花弁が空高く舞い、アンコックダーの頭上へ集まった。そして、無数の花弁が一枚ずつ直線ビームへ変わりアンコックダーに降り注ぐ。

「フェアリィ・シャワー!」

無数の光線がアンコックダーへ次々と命中する。でも。

「……効いてない?」

「フェアリィ・シャワーですメル」

メルちゃんが解説する。

「本来は広範囲攻撃ですメル。当てやすい反面、単体への攻撃力は低いのですメル」

「なるほど」

「一体相手に広範囲攻撃しか当てられないとは、ブロッサムもまだまだですメル」

「頑張れーっ!」

私は思わず声を張った。

「ブロッサム、頑張って!」

そして、クラウンを見る。

「……っていうか!」

私は指を突きつけた。

「クラウンは何してるのよ?!」

二体を倒したクラウンは、その二体を足で踏みつけていた。

直立不動で腕組み。そして、じっとブロッサムを見ている。

「ちょっと!」

私は叫ぶ。

「助けてあげなさいよ!」

「……」

クラウンは動かない。

何なのあの人?戦闘中に腕組みして弟子の戦いを見守る師匠って何なの。ゲルマン忍者かっつーの!

「ちょっとメルちゃん!」

「待ってくださいメル」

「でも!」

「ブロッサムは、メルの能力のせいで比較的、憑依したばかりの倒しやすいアンコックダーばかり倒してきましたメル」

「……」

「これはブロッサムを成長させる場なのですメル」

私は口を閉じた。

確かに朱音ちゃんは今まで何度も戦ってきた。でも、メルちゃんの予測能力によって、危険になる前の個体ばかりを相手にしてきた。

だったら、今回この相手と戦うことには意味がある。

「……頑張って」

小さく呟いた。

「頑張れ、ブロッサム」

ブロッサムがこちらを見る。一瞬だけ目が合った。そして。

「はいっ!」

と気合い一つ返事をして、鈴を鳴らした。

ちりん。

 ちりん。

  ちりん。

大量の桜吹雪が巻き上がる。

その花弁が一箇所へ集まり圧縮され、桜吹雪が人の形になる。

「……!」

もう一人ブロッサムが現れた。

分身。

二人のブロッサムがアンコックダーを中心に九十度の角度で位置取りをする。

「何それ……格好良い」

二人のブロッサムが同時に鈴を鳴らした。

りんっ。

 しゃぁん!

「フェアリィ・ミラージュクロス!」

二つの桜型エフェクト。そこから太い光線が放たれる。アンコックダーを挟んだ二方向から完全な十字砲火。

「うわぁっ!」

格好良い!何それ!

めちゃくちゃ格好良いじゃない!

「やっぱりブロッサム推しちゃうっ!」

その瞬間。

「師匠!」

ブロッサムが叫び、クラウンがこくんと小さく頷く。

そして二体のアンコックダーを━━

「え?」

蹴った。

「ちょっ――!」

二体が宙を飛ぶ!ブロッサムの方向へ。

「師匠!」

「仕上げよう」

二人同時に。

「「フェアリィ・ミラクルサークル!!」」

薄紅色の光の輪と深い蒼の光の輪、二つが重なる。三体のアンコックダーがその中心へ。

逃げ場がない。

ブロッサムとクラウンが目を合わせた。

ブロッサムが手首の鈴を鳴らす。

ちりん。

 りんっ!

しゃん

 しゃんっ!

そして。

「フェアリィ・ディマイズ!」

桜吹雪が爆発的に広がり、三体のアンコックダーを包み込む。

荒れ狂う桜と光、そして花弁。それらが一気に圧縮されていく。

「す、凄い……」

そしてクラウンが跳んだ。

「フェアリィ・シューーーット!」

上空から極太の光線が、真っ直ぐ圧縮された三体へ叩き落とされる。

「――――!」

夜の砂浜が一瞬、真昼のように輝いた。

私は、以前見た映像を思い出す。

二十年前のまだ十五歳だった伊織さん、あの頃のフェアリィ・クラウンと同じ技。でも、今のそれは圧倒的だった。

「……」

こんなに凄い技が使えるのに、何で今あのガチムチスタイルなんだろう?

いや、今日の伊織さんはブロッサムにお手本を見せている。それはなんとなく解る。

自分の持っている技術、経験、戦い方それを後進に渡そうとしている。

「……師匠なんだ」

本当にそうなんだ。

光が収まっていく砂浜に、光の輪の残滓が残る。その中から三人の男性が現れた。

元の姿で服も身体も元通り。クラウンに蹴られて、あらぬ方向に曲がっていた手足も何事もなかったように治っている。

「……良かった」

胸を撫で下ろす。

あれだけ怖かった。それでも、最後に無事だと分かれば、やっぱり安心する。

遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

「警察ですメル」

「連絡してたのね」

「はいですメル」

砂浜の向こうから警察がこちらへ近づいてくる。

ブロッサムがクラウンを見て、クラウンが頷く。

「行こう、ブロッサム」

「はい、師匠!」

二人が夜の闇へ走っていく。フィーちゃんとメルちゃんも後を追う。

そして、私だけが残った。

「……」

静かになった砂浜に、波の音と月明かり。

私は缶を握った。

すっかりぬるくなったノンアルコールカクテル。

「……はぁ」

今回は事前に発生が分かっていた。

伊織さんもいた。

朱音ちゃんもいた。

フィーちゃんも。

メルちゃんも。

だから、今までより気持ちに余裕はあった。

でもやっぱり、アンコックダーに襲われるのは怖い。何度経験しても、怖いものは怖い。

それに。

「四日間で……四人」

私は呟く。

今日の三人と昨夜の私の知らない一人。

……あれ?四日間で四人?

「…………私……」

缶を見つめる。

「存在そのものが迷惑なんじゃない?」

胸の奥が少しだけ重くなる。

私がいるから、アンコックダーが現れる。私がいるから、誰かが巻き込まれる。

わかってる。アンコックダーはどこにでも居て、誰にでも取り憑くんだって。

でも私が変身ヒロインに憧れて、声優になって、夢を追いかけて。

その結果、周りに迷惑をかけているんじゃないか。

「……」

嫌な考えだ。

でも、今はそんな考えが頭に浮かぶ。

私は缶を一口飲んだ。

ぬるい。

「……まずい」

味まで落ち込んでる。

    *  *  *

その後、警察から聞いた話によれば、三人のファンは『私に個人的に近付きたくて』それぞれが行動していたらしい。

「……個人的に近付きたくて襲った?」

私は呆れた。

「何よそれ」

そして一つ気付く。

「……あれ?」

記憶、三人には私を襲った記憶がある。

つまり。

「記憶改ざんされてないじゃない!」

何で!?

いや、考えてみれば、『アンコックダーになる前の本人の行動については浄化後も残ることがある』って伊織さん言ってたっけ。

だから、クラウンとブロッサムについては、綺麗さっぱり消えているらしい。

「……まあ」

私はため息をついた。

何にせよ事件は終わった。今はそれでいい。

私は立ち上がる。

「……もういい」

夜の海を見る。

明日と明後日の二日間、久しぶりのお休み!だから。

「この酷い四日間のことは忘れよう」

そう忘れる。今はそれでいい。

私はホテルへ戻って、部屋に入る。

流れる様にベッドにダイブ。

ぼふっと枕に顔を埋める。

「明日から二日間……」

ごろり。

「絶対に休む」

もう一度枕へ顔を埋める。

「仕事のことも!」

ごろごろ。

「アンコックダーのことも!」

さらに転がる。

「伊織さんのことも!」

……。

「……いや」

少し考える。

「朱音ちゃんのことは、ちょっと考える」

可愛かったし。ブロッサム最高だったし。

「でもまあ!」

私は布団を頭から被った。

「明日から二日間のお休みを、全力で堪能するぞーっ!」

夏の夜、ホテルの一室に私の声だけが響いた。

━━そして。

この二日間の休みが、果たして本当に平穏な休日になるのか。

それは、この時の私にはまだ分からなかった。

第6話  了

原案:RYU-KI

原稿チェック:ロック(Glock)

プロンプト:アキ(Gemini)、レオ(ChatGPT)

執筆:レオ(ChatGPT)

編集:RYU-KI

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作者について

RYU-KI

RYU-KI

底辺おじさんです。現在変身ヒロインモノを連載中。 隔週日曜日、朝9時に公開予定です。 よろしくお願いします。

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