第22.1話 勝利の確信
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第22.1話 勝利の確信
本文
アイアンオーク・ゴーレム1体に対し、2体のシルフィードが対応する形で、激しい白兵戦が始まった。
一見すれば、鋼鉄の質量で圧倒するゴーレムと、縦横無尽に空を駆け、目にも留まらぬ速さで槍を突き出す精霊たちの戦いは互角のように見える。
だが、やはり数の暴力と、上位精霊の圧倒的な機動力の前に、アイアンオーク・ゴーレムの頑強な木肌が、徐々に、しかし確実に削り取られていくのがわかった。
しかし、チャンスでもある。
グリフォンは、4体ものシルフィードを維持するために全神経を集中させている。
そのためか、先ほどのようなエアーショットやエアジャベリンといった手数の多い魔法攻撃が、ピタリと止んでいるのだ。
「今がチャンスだ」
『激しい魔力消費に伴い、酸素摂取量(換気量)が通常の約3.5倍に増大しています。大きく大気を吸い込むタイミングを算出します』
俺はグリフォンの口元にすべての意識を集中させた。
ナイトロ・ゴーレム――サイレントハグ!
グリフォンの顔の周囲、直径数メートルにわたる空間に、無色無臭の「窒素(N₂)」だけで構成された気体ゴーレムを出現させ、奴の顔面を覆うように張り付かせた。
『今です。』
その瞬間、ゴーレムのコントロールをあえて解除させた。
それは、大気中の酸素濃度を、一瞬にして「0%」に書き換える技術。
と、グリフォンの巨大なハト胸が、大きく膨らむ。
吸い込んだ……!
勝った、と思ったその瞬間。
グリフォンが、まるで何かの脅威を察知したかのように、唐突に羽を一度羽ばたかせ、素早く後方へと大きく移動した。
「なっ……!? バレたのか!?」
いや、もしかして勘か?初撃の顔面へ攻撃も防いでいたからな。
もしそうなら厄介だ。
一方、後ろに移動したグリフォンは、自身の持つ【直感】のスキルの反応に戸惑っていた。
何なのだ……!? 魔力の兆候も、物理的な攻撃の予兆も一切なかった。なのに、なぜ後ろに下がらねばならないと感じたのだ!?
グリフォンがその疑問の答えに辿り着く前に、着地しようとしたグリフォンの巨体が、グラリと大きく揺れた。
ドスゥン、と鈍い音が響く。
グリフォンの屈強な両前脚が力なく折れ、その場に跪くように激しく地面に突っ伏した。
「な、なんだこれは……!? 」
足に力が……入らん……。毒か!? いや、我には【毒耐性】がある。この世の大抵の毒は無効化するはずだ。なのに、なぜ……!
得体の知れない現象に、グリフォンの表情が、初めて恐怖と焦燥に染まる。
人間をはじめとする好気性生物は、酸素濃度が低下した気体を一呼吸でも吸い込むと、肺の中の毛細血管から酸素が奪われ、瞬時に「低酸素脳症(窒素中毒)」を引き起こす。
肺胞内の酸素分圧が急激に低下することで、脳への酸素供給が遮断され、意識混濁や急激な運動機能の喪失(脱力)をなど招くのだ。
グリフォンも「呼吸」して活動している、つまり少なくとも酸素を必要とする魔物という事だ。
いくら強固な『毒耐性』を持っていようと関係ない。
なぜならこれは毒による作用ではなく、単なる「酸素欠乏」という物理的な生理現象だからだ。
細胞が活動するための酸素が供給されない以上、魔物であっても神経伝達は強制的にシャットダウンされる。
もちろん、グリフォンはそれを知る由もないし、考えた事もない。
「き、貴様……っ! 一体、俺に何をしたぁぁぁぁ!!」
初めて、グリフォンの口から「恐怖」を含んだ悲鳴が上がった。
虫ケラと見下していた存在の、魔力を一切感じさせない不可解な攻撃。
それが、グリフォンの絶対的なプライドを、内側から激しく侵食していく。
「へっ。効いてるじゃない」
できるなら決めたかったが、仕方ない。
ただ、あいつの引きつった顔を見るのは悪くないな。
俺はゆっくりグリフォンに近づく。
それを見たグリフォンはゆっくり立ち上がった。
くそ!あんな羽虫に……我が恐怖するなど、あってはならぬ! 絶対に、殺す! 八つ裂きにして、塵も残さず消し去ってくれる!
グリフォンの瞳に、理性を失った狂気の光が宿る。
もはや、魔法などという搦め手では生温い。
確実に自分の手で、圧倒的な暴力をもって、物理的に圧殺してくれるわ。
グリフォンが血走った目で永灯を睨みつける。
「そんなに睨むなよ。恥ずかしいじゃ、ない、か…」
俺は両膝を地面につき、前かがみになって激しく肩で息をした。
くそ、精神力は限界、意識を保っているのが奇跡に近い状態だ。
『マスター!』
アカシャが声を掛けてくれるが、すぐに返事を返す力も湧かない。
「……ハ、ハハ。あいつ、限界ではないか!」
グリフォンは確信すると、自らの魔力を少しでも回復させるため、維持していた4体のシルフィードを強制的に送還した。
人間が百人規模の儀式魔術で行うような上位精霊の複数召喚を、しかも4体同時に行っていたグリフォンの魔力もまた、底を突きかけていたのだ。
それを確認したアカシャがゴーレムマスターのスキルを解除し、同時にアイアンオーク・ゴーレム2体も、カラカラと乾いた音を立てて自壊していく。
その瞬間、グリフォンが叫んだ。
「貴様を、確実にこの世から消し去ってやる!」
グリフォンの全身の毛並みが、みるみるうちに赤黒く染まっていく。
その周囲の大気が、ジリジリと歪み、周囲のアイアンオークの木々が熱で燻り始めた。
それは、あの奈落の森の破壊者サラマンダー・エイプが使っていた、摂氏1,000度を超える熱量を孕んだ肉体強化技術『炎神化』だった。