第22.2話 勝利の確信
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第22.2話 勝利の確信
本文
『マスター、敵はサラマンダー・エイプの能力を使用。突撃の体制に入っています。速度、および破壊力は過去の測定データを大幅に超過すると予測されます』
アカシャがスキルを遮断してくれたおかげで、少し楽になった。
「炎神化っていうのかよ……。仰々しい技名だな」
俺は、意識が遠のきそうな脳に、無理やり冷水を浴びせるように思考を研ぎ澄ませた。
「アカシャ。今から俺の『作戦』を伝える。成功するかどうか、演算してくれないか」
頭の中で、俺はアカシャに、ある無謀極まりないプランを提示した。
『ッ……!? それではマスター自身が――!』
「アカシャ。もしこの作戦の成功率が数パーセントしかなくても、俺はやるよ。今のところ、あいつを確実に仕留められる方法は、俺にはこれしか見つからないんだ」
『……分かりました。全力でサポートいたします』
「ありがとな。頼りにしてるよ、相棒」
俺はフラフラと立ち上がった。
そして、全身を炎のような熱気で包み込んでいるグリフォンに向けて、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。
「おいおい。結局、あの猿と同じ『脳筋突撃』かよ。浅はかすぎて笑っちまうな」
喋りながら、俺は顔面から足元に至るまで、今できる限りの超密度のマッド・ゴーレムを張り巡らせていく。
「あんな小猿のゴミ能力と一緒にするな……ッ! 塵も残さず、消し飛ばしてくれる! 死ね!アルチャ!!」
グリフォンが低く、恐ろしい姿勢をとる。そして
ボォォォンッ!!!
一瞬、音が消えた。
地面を蹴る凄まじい衝撃波が、背後の大地をクレーター状に陥没させる。
瞬時に『思考加速』のスキルを最大限に稼働させたが、グリフォンの巨体がこちらに向けて「一瞬で巨大化する」ような錯覚を覚える程の超スピードだ。
しかも奴は落とし穴などの地中トラップを警戒し、地面からわずかに数センチ浮いた、超低空滑空の姿勢で突っ込んできている。
戦闘の抜け目なさに関してだけはマジで尊敬するわ。
そして実際の時間にしては、おそらく0.1秒にも満たない、刹那の出来事だっただろう。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
森全体を揺るがすような、天変地異のような大爆発音が轟いた。
大岩の広場は一瞬にして巨大な土煙と、すさまじい量の蒸気ホワイトアウトに包まれた。
同時に衝撃波によって、周囲に生えていたはずの頑強なアイアンオークの木々が、根こそぎ大地から引き剥がされて宙を舞う。
大岩の広場は、その直撃の衝撃だけで、さらに直径で20から30メートルほど抉られ、広がったように見えた。
降り注ぐ泥の雨と、もうもうと立ち込める白い蒸気の中の爆心地。
そこに巨大な影がゆっくりと佇んでいるのが見え始めた。
――グリフォンだ。
グリフォンは、激しい息を吐きながら、眼前の大岩の壁を見つめていた。
そこには、全身に纏わせたゴーレムが文字通りボロボロに剥げ落ち、ピクリとも動かずに倒れている永灯の姿があった。
グリフォンは、その醜悪な顔に、これまでにないゲスな笑みを浮かべた。
「我の攻撃を防ぐつもりだったのだろうが、無駄だったな。衝撃に耐えきれず、大岩に叩きつけられたか」
永灯の右手の指が、ピクッと、弱々しく動いた。
「ほほう。まだ生きておるか。しぶとい虫ケラめ。我と衝突する直前、水人形や土人形を目の前に出現させたな。我が目は誤魔化せんぞ」
「……」
「我のまとう熱と、貴様の水ゴーレムを衝突させ、瞬間的な『水蒸気爆発』を引き起こして我を吹き飛ばそうとしたのだろうが、残念だったな!我が顔面に受けたエネルギーから逆算し、その程度のダメージなど想定内だわ!」
「ゴハッ……!!!」
永灯の口から、どす黒い血液が激しく吹きこぼれた。
グリフォンはそれを見て、自らの絶対的な勝利を確信し、満足そうに胸を張る。
「大岩への衝突エネルギーをどうやって殺したかは知らんが、貴様の小細工はもう、我には一切通用せん!」
そうだ。我はここ一帯の覇者、グラトニー・グリフォン。我が負けるはずがないのだ!
結局、こいつの行動は、自分が生きたいがための「生存本能」に基づいたものに過ぎない。
我と激突した時に与えるダメージなど、「自分が死なない程度」で抑えるしかないのだ。
そんな脆弱な、中途半端な攻撃が、この肉体に届くはずがない。
その証拠に、こいつは結局吹き飛ばされて瀕死ではないか。
勝った!
確実に、我が勝ったのだ!
あんなゴミのような存在に、我が敗北するなど、最初からあり得なかったのだ。
「さあ、その不快な頭部を、微塵に踏み潰してくれるわ」
グリフォンが、勝利の凱歌をあげるように右足を一歩前へ踏み出した。
――その瞬間。
グリフォンの巨体が、グラリと不自然に傾いた。
「……ぬ?」
バランスを保とうと、反射的に左足を踏み出そうとするが、足が、何かに引っかかる。
まだ視界を遮る白い蒸気と砂埃の向こうに、地面に転がっている「何か」が見えた。
「なんだ、これは……?」
グリフォンが不快そうに目を凝らし、その足元を見つめた、次の瞬間。
その瞳孔が、その生涯において最も大きく見開かれた。
グリフォンの巨体が、まるで極寒の地に取り残されたかのように、小刻みに、ガタガタと激しく震え始める。
「な、な、なぜだ……。なぜ、我の、我の翼が……」
そう。
自らの前脚が触れたもの。
それは、グリフォンの背中に生えているはずの、美しく、そして強靭な――『片翼』だった。
「どうなっているんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
これまでにない、精神の崩壊が始まったかと思われるような絶叫が、森に響き渡る。
その狂気と動揺に満ちた姿を、泥と血に塗れた地面に横たわりながら、俺は――血まみれの口角を吊り上げ、不敵に笑って見つめていた。