第23.1話 おせーよ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第23.1話 おせーよ
本文
『タ、――スタ、――マスター、聞こえますか?』
脳内に響くのは、相棒であるアカシャの、いつも通り冷静でありながらも、どこか緊迫感を孕んだ声音だった。
ああ……聞こえてる。
『直ちに肉体のダメージを分析します』
分析、頼むわ……
意識の底から這い上がるようにして、俺は心の中で応じた。
『肋骨の数箇所に亀裂、左肩の脱臼、全身の広範囲に及ぶ打撲と裂傷』
息を吸うだけで胸の奥が灼けるように痛む。
客観的に見ても、かなりの大ダメージを追っていることが分かった。
『本当に無茶をしますね、マスター。一歩間違えれば、肉体が消滅していましたよ』
呆れたような、しかし微かに安堵のニュアンスを含んだ声でアカシャが伝えてきた。
でも……おかげで、あいつの翼を一枚落とせたよ
声にはならず、ただ血の混じった呼気だけが口唇から漏れる。
『確かに私も、あの瞬時のアイデアには驚かされましたが。まさか、あの極限状態であれをやってのけるとは。』
アイデアだけさ。アカシャの力がなきゃ、今頃は肉塊になってたわ。ありがとな。
本当に、コンマ数秒の世界――一瞬の出来事だった。
超巨大なグリフォンが、その圧倒的な質量と速度をもって、俺を圧殺せんと正面から突撃してきたあの瞬間。
俺は自分の目の前に、マッド・ゴーレムとウォーター・ゴーレムを交互に、列をなすようにして一瞬で配置した。
大きな目的は2つ。
一つは奴の直撃の軌道から、自分自身を強制的に退避させること。
衝突によって発生する急激な熱量変化と圧力変化を暴発させ、その爆風を利用して俺の身体を後に吹き飛ばす。
もう一つは俺に意識を集中させる事。
グリフォンは俺が放った土と水の壁を単なる防御壁だと誤認し、まんまと突っ込んできた。
だが、本番はそこからだった。
奴が突入し、盾のゴーレムたちに衝突するまさにその一瞬、俺はアカシャに『ある特殊な構造のゴーレム』を生成するよう、指示を飛ばしていた。
まず、中心となるウォーター・ゴーレムを生成する。
その全周を包み込むようにして、エア・ゴーレムを纏わせ、限界まで圧縮。
気体の圧縮限界を高めたエア・ゴーレムを、極限まで硬度と密度を高めたマッド・ゴーレムで再度包み込んだ。
準備が整った瞬間、中心のウォーター・ゴーレムを瓦解させ、『ただの水』に戻す。
言わば『高圧水タンクゴーレム』だ。
グリフォンの巨躯がウォーター•ゴーレムにぶち当たる直前、奴の死角である真横にそのゴーレムを出現させた。
そして、グリフォンの翼の付け根に向けた指鉄砲の形状をした部位の先端に、本当に小さな、直径1ミリメートルにも満たない微細な穴を空けたその瞬間。
押し出された水流は、瞬時に音速の壁を突破。
ウォータージェットカッターをも凌駕する、超音速の『水のレーザー』となって射出された。
超高圧水流のせん断力は、グリフォンの強靭な翼を一瞬で切断したのだ。
同時に、グリフォンの突撃による衝撃の余波と熱、水蒸気爆発の衝撃が加わり、そのゴーレムも連鎖的に爆発。
周囲を巻き込む大爆発が起こり、俺はラグドールのように吹き飛ばされた。
これが、あの一瞬の間に起こった物理現象の全貌だった。
『首を落とせなかったのは、本当に残念でしたね。出現位置を調整できれば、頸椎を両断できていたのですが』
アカシャが淡々と、冷さを含んで言った。
仕方ないさ。あいつは目がいいし、勘も鋭いようだし。
最初から首を落とせる位置にあのゴーレムを出現させていたら、最悪、回避される可能性もある。
だからこそ、奴の意識の外、完全な死角からの一撃が必要だったのだ。
それにしても……大岩に激突する瞬間に、アカシャがエア・ゴーレムのクッションを作って衝撃を吸収してくれなきゃ、俺は今頃即死だったわ。
『完全には衝撃をカバーしきれませんでした。申し訳ありません』
いやいや、十分でしょ。むしろ、この程度の負傷で済んだのは奇跡だよ。生きてるだけで丸儲けさ。
それにしても――と、俺は自分の動かない身体を呪う。
片翼を落とすためだけに、ここまでの代償を支払わなきゃいけないなんて。
とんでもない化物だな、あいつ。
痛む首をどうにか動かし、うつ伏せのまま前方を見ると、クレーターの向こうでグリフォンがまだ半狂乱になって暴れていた。
「お、俺の、俺の翼がぁあああああ――ッ!!」
空気が震えるような絶叫。
当初グリフォンが纏っていた、全人類がひれ伏すような威厳は今は微塵もない。
片翼を失った巨躯は、一歩を踏み出すたびにバランスを失い、無様に傾いて地面へ倒れ伏す。
奴はそれを、何度も、何度も繰り返していた。
さながら餌を求めて歩き回る必死な鳩のようだ。
本来なら……今が最大のチャンス、なんだけどな……
もう一度、あのウォータージェットのゴーレムを作って、至近距離で首をはねる。
理屈の上ではそれが最適解だ。
だが、今の俺には、ゴーレムを再構築するための精神力が残っていない。
精神力の回復も到底追いついていなかった。
結構、というより、だいぶ、やばいな。
しかし、ここでやり遂げなければ、待っているのは文字通りの死だ。
『マスター……本当にやるのですか?』
小さく頷くと、俺は残された全ての力を振り絞り、大きく息を吸い込んだ。