第24話 決着 前編
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第24話 決着 前編
本文
『……タ。……スタ……マスター!!』
脳内に響く、アカシャの声で、俺は再び目を覚ました。
「……生きてる」
口から出たのは、その一言だけだった。
『本当に無茶をしましたね。危うく転生人生が開始早々で終わるところでしたよ』
「はは…でも、うまくやってくれたんだ」
俺は水素爆発を起こした瞬間『シフトチェンジ』でこの森の探索用に置いてあるゴーレム1体と位置を入れ替えてくれとあらかじめアカシャに伝えていた。
爆発の規模も考慮してのシフトチェンジ。
「さすが、ア…がっ!!」
アカシャと言おうとした瞬間、俺の右腕に強烈な激痛が走った。
見ると、酷い火傷とダランと力が入らない右腕。冷や汗も出てくる。
完全に折れているな。火傷も…酷い。
『申し訳ありません、マスター。最も爆発に近かった右腕は…』
シフトチェンジでも完全に防げなかったって事か。
「仕方ないよ。腕が残っているだけでよしとしよう」
俺は、マッド・ゴーレムを添え木代わりに右腕にしっかりホールドさせた。
ダッコちゃん人形みたいで気が抜けるが、これで一時凌ぎにはなるはず…って
俺、普通にゴーレム生成できてる?
「…!!アカシャ、俺はどれくらい気を失ってた?!」
『時間にして、およそ30分程かと』
「――っ!?」
だから精神力が少し回復してるのか!
まずいな。想定していたよりも25分もオーバーしている。
でも「なんで起こさなかった!」とは言わない。
恐らくアカシャは俺の命を優先させたからだ。
それに対して感謝はすれど、文句をいうつもりは毛頭ない。
「奴が生きている場合、逃げられる可能性があるぞ!爆心地は!?」
『ここから直線距離で、およそ200メートルほど先です』
「すぐに行こう!」
俺は上半身を起こし、立ち上がろうとした。
だが、膝に力が入らず、ガクリと地面に崩れ落ちる。
同時に、内臓のダメージからか、激しい吐血。
「ごほっ……がはっ!」
『マスター――ッ!!』
「はぁ、はぁ……大丈夫、まだ大丈夫だ……」
しかし、自分の足で歩くのは不可能だった。
だが、こんな時だからこそ、俺には頼れる仲間がいる。
『ゴーレムに、あなたを運ばせましょう』
「それな……頼むよ」
周囲の土が集まり、一体の強固なマッド・ゴーレムが目の前に現れた。
ゴーレムは俺の身体を、優しく、いわゆる『お姫様抱っこ』の体制で持ち上げる。
「やだ……イケメン……」
『ふざけたことを言っていないで、行きますよ』
爆心地には、およそ5分ほどで到着した。
ゴーレムは極力俺の身体を揺らさないように動いてくれたため、移動は驚くほど快適だった。
だが、爆心地の周辺に辿り着いた瞬間、俺はあまりの光景に目を丸くした。
「これは思った以上に……」
ハイドロゲン・ゴーレムの爆発は、凄まじい破壊力だった。
爆心地から半径100メートルくらいの範囲は、アイアン・オークの巨木すら完全に消失しているか、炭化して粉々になっていた。
鬱蒼としていた奈落の森の一部が、ちょっとした大きな公園ほどの広さのクレーターに変貌し、更地にならされている。
そして、中央には巨大なすり鉢状の穴が空いていた。
「あそこか……」
ゴーレムに指示を出し、クレーターの縁まで移動してもらう。
穴を覗き込むと、深さは10メートルほどあるだろうか。
底の方は爆発の超高熱によってガラス化した土壌が、夕暮れの光を浴びてキラキラと輝いていた。
その中心に、ボロボロになった物体が横たわっている。
ピクリとも動かない。
『グリフォンです』
アカシャが冷静に言った。
「あの至近距離の水素爆発を受けて、木っ端微塵になってないのか……。なんてタフさだよ。」
あいつを一撃で倒すような攻撃って核ミサイルとかじゃなきゃ駄目なんじゃないのか?
まあ、それはさておき。
「…アカシャ、知ってたでしょ?」
『はい。グリフォンが動いていない事はゴーレムなどを使い確認していました』
やっぱり。だからあんなに落ち着いていたのか。
抜かりがないね、頼もしい相棒だよ、全く。
『おそらく、爆発の瞬間に本能的に『アーマービートル』の硬化スキルを発動させたものと推測します。しかし、第七階梯の魔法クラスの威力を耐え抜いた防御力には、驚嘆せざるを得ません』
「で……生きてる?」
『微弱ですが、生命反応を確認。完全に気絶している状態であると思われます』
「なら――お目覚めになってもらおうか」
『危険では?』
「俺も、抜かりはないよ」
俺はすり鉢状の穴の底、グリフォンの顔の周辺に、新たなゴーレムを生成した。
『カーボニック・ゴーレム』。
そう。純度100%の二酸化炭素(CO₂)で構成された、不可視の気体ゴーレム。
「アカシャ、すぐには死なない程度に、濃度と供給量の調整を頼む」
『了解しました』
何体かのカーボニック・ゴーレムを底に配置し、スキルを解除。
クレーターの底に、一気に高濃度の二酸化炭素を充満させる。
しばらくすると――。
「ガハッ……!? ゲホッ、ゴホッ……ゴホォ――ッ!?」
グリフォンが、白目を剥きながらガバッと跳ね起きた。
急激な二酸化炭素中毒による、呼吸中枢の暴走だ。
激しく咳き込みながら、奴はもがいている。
「お目覚めですか、老害鳥」
俺はクレーターの上から、冷徹な声で見下ろした。
その声に気づき、片翼を失ったグリフォンが、血と泥にまみれた顔をゆっくりと上に向ける。
「き、貴様……なぜ、生き、て……」
そこまで言いかけて、奴は再び地面に頭を伏した。
くちばしを大きく開け、肩と胸を激しく上下させ始める。
過換気症候群の症状だ。
恐らく今、世界が回り、凄まじい頭痛と吐き気が奴の巨躯を襲いはじめているはずだ。
「うおええええええええ――っ!!!」
次の瞬間、グリフォンは強烈な嘔吐感を催し、胃の中のものをビシャビシャと地面にぶちまけた。
今までこの森で貪り食ってきた、あらゆる魔物の残骸や肉塊を全て吐き出そうとしているかのように、激しい嘔吐を繰り返す。
「具合が悪そうだな。大丈夫か?」
「貴様が、やっておいて……何を……ぐおえっ!!」
その時、ベチャリ、という、肉塊とは明らかに異なる硬質な音が地面に響いた。
嘔吐物の中に、土と胃液にまみれて転がる『何か』がある。
ん? 今、何か奇妙なものを吐き出しやがったな。
「アカシャ、鑑定をお願い」
『了解しました。……鑑定結果。木製の人形です』
「……」
俺は無言のまま、クレーターの底へと一瞬で移動した。
「ひどい匂いだな」
そこには、もう吐き出すものもなく、黄色い胃液だけを垂れ流し続けているグリフォンがいた。
ヒュー、ヒューと苦しそうに喉を鳴らしながら、涙を流している。
俺は奴が完全に窒息して死んでしまわないよう、足元に溜まっている二酸化炭素を再びゴーレム化して排気し、新鮮な空気を確保してやった。
グリフォンは、一瞬で眼前に現れた俺の姿に驚愕し、何かを言いかけようとしたが、すぐに猛烈なめまいにでも襲われたのか、胃液を撒き散らしながら横たわってしまった。
そんな奴を完全に無視して、俺は吐き出された人形へと近づいた。
胃液によって表面がドロドロに腐食した、小さな木の人形。
すでに男の子の人形なのか、女の子の人形なのか、その造形すら判別できない状態だったが、人間の形だけはかろうじて保っていた。
「そうか……。お前、あいつの腹の中で……ずっと、頑張ってたんだな……」
俺はその人形をゴーレム化しようとしたがその瞬間、
『この人形をゴーレム化する権限が、マスターに存在しません』
アカシャが伝えてきた。