第24話 決着 後編
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あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第24話 決着 後編
本文
権限…あのウルフの死体の時に出たやつか。
「権限ってなんだ?」
『この物質が、マスターのものであるという『繋がり』です』
「魔法的な契約か何かか?」
『いえ、それとも異なります。所有権がマスターにあると人形自体がそれを認めた時、初めてその繋がりが生成される、という感覚です』
「なんだか分かったような、分からないような話だな。つまり、お互いが認め合った時に繋がりができると?」
『そのような解釈で、現時点では構いません。おそらく、今回はその人形にマスターが直接触れることで、権限の譲渡が行われる可能性が極めて高いです』
「譲渡……ね」
俺はゴーレムに指示を出し、その人形を丁寧に拾い上げさせた。
そして振り返り、グリフォンのすぐ傍へと歩み寄る。
グリフォンには、もう立ち上がる力すら残されていなかった。
それでも、かすかに開いたくちばしから、息も絶え絶えに声を絞り出す。
「貴様は……一体、何、なのだ……。空間、魔法を、使って……いるのか……」
「お前がバカにして捨てた、『ゴーレムマスター』のスキルの一部だよ。ゴーレムと、俺自身の位置を、ノータイムで入れ替えられるんだ」
「……」
奴はもう、返事をする気力すら失っていた。
俺は無言のまま、腰のナイフをスラリと引き抜いた。
「……なあ。あの女の子を、どうやって食べたって言ったっけ?」
その言葉を口にした瞬間、グリフォンの瞳が、本当の恐怖に支配されて大きく見開かれた。
ポロポロと、巨大な眼球から涙が溢れ落ちる。
くちばしをパクパクと動かし、声にならない声を漏らす。
『お願いします。やめてください。許してください』
奴の全身が、そう命乞いしているように激しく震えていた。
俺の胸の奥から、再びどす黒い怒りが込み上げてくる。
両目を抉られようと、両手足を千切られようと、最期まで家族を想い、死んでいった幼い女の子。
なのに、それを無慈悲に面白がって行った当の本人は、自分が同じ状況に立たされた途端、涙を流して命乞いをするのか。
こんなクズ野郎、到底許せるはずがない。
俺は人形を見た。
お前はそんな主人を助けたくても、見てる事しか出来なかったんだよな。
悔しかったよな。
見てろ。俺が今、お前のご主人さまが受けた恐怖と絶望を、あいつに同じ形で味合わせてやる!
俺はナイフを逆手に握り直し、奴の巨大な眼球を狙って、全力で振り下ろした。
――ガシッ!!!
刃の先端が、奴の眼球に突き刺さる直前。
俺の左腕に、強烈な制動力がかかった。
見ると、人形を持っていたハズのマッド・ゴーレムの腕が、俺の腕をがっちりと掴んで静止させていたのだ。
「……なぜ止めるんだ、アカシャ」
激しい怒りの残滓を孕んだまま、俺は脳内の相棒に問い詰めた。
『マスター。……申し訳ありません。回答するのに、少し時間をください』
「……」
『マスター、申し訳ありません。私の、今回の行動に対して、論理的な整合性が取れないのです』
「どういうことだ?」
『このグリフォンが過去に行ってきた残虐非道な行動を振り返れば、同様の制裁を科されても文句は言えない。その点に関しては、私も完全に同意します』
アカシャの声は、はっきりと澄んでいた。
しかし、その直後、彼女は困惑したように言葉を続けた。
『しかし、マスターが制裁を仕掛けようとしたその瞬間……『やってはいけない』という、極めて強力な拒絶の意志が伝わってきたのです』
「……まさか」
俺は、ゴーレムが持っている、胃液まみれの人形に視線を向けた。
『はい。……この人形から、です』
正直、驚愕した。
いや、そういう奇跡のような話が、前世の世界の物語になかったわけじゃない。
もしかしたらそんなオカルトもあるかもしれないとは思っていたが、いざ自分の身に起こると、にわかには信じがたい。
「この人形に……まだ、意思が残っていると?」
『いえ、生命反応は完全にゼロです』
「なら、この人形の遺志ではなく……アカシャ、お前自身の意思、という可能性は?」
『……』
珍しく、アカシャが一瞬だけ沈黙した。
『……わかりません』
「だから、整合性が取れないって言ったのか」
『はい。ですので、検証させてください。マスター、もう一度、グリフォンの目を狙ってナイフを振り下ろしてください。そうすれば、私の行動の原因が判明するはずです』
「もう一度って、お前な……」
俺は呆気にとられたが、次の瞬間、フッと自嘲気味に笑って、ナイフを鞘へと収めた。
「やらないよ」
『なぜですか?』
「その検証、面白そうだけどさ……。どっちの意思でも、もういいんじゃないかって思ってさ」
『……』
女の子の、優しくて、どこまでも強い意志がこの人形に宿っていて、そんな奇跡を引き起こした。
あるいは、常に合理的だったアカシャの心の中に、何かしらの感情が芽生えて行動を起こさせた。
もしかして違う要因かもしれない。
でも、原因なんて、なんだっていい。
だって、その結果として、俺は――このクズ野郎と『同じレベルの怪物』にならずに済んだんだから。
本気で両目を抉り出して、手足を全部切り落として、なぶり殺しにしてやろうと思ったんだけどな。
俺は頭をガリガリとかきむしった。
「二人から、そんな風に止められたら、どうしようもないじゃんか」
『マスター……』
脳内のアカシャが、どこか優しく微笑んでいるような、そんな温かい気配を感じた。
再びグリフォンに目を向けると、奴は俺がナイフを収めたのを見て、完全に安堵したのか、その場に失禁していた。
今まで命懸けの死闘を繰り広げてきた相手の、そんな無様な姿を見て、急激に気持ちが冷めていくのが分かった。
萎えるな、本当に。
「よかったな、お前。俺とは違って、すっごく優しい女の子二人に守ってもらえてさ」
グリフォンはなんの事か全くわからない、みたいな困惑した表情をしているように見える。
まあ、そうだよな。こっちだけで完結してる出来事だし。
すると、突然
『マスター……私は、その『女の子』の部類に、含まれているのでしょうか?』
「ぶはっ!!」
思わず、吹き出してしまった。
アカシャ、お前、たまにそういう可愛いところあるよな。
「さあね。分からないけど、俺にはそんな感じがするだけさ」
話を折られて、いまいち締まらなくなったけど…
俺は表情を引き締めて、左腕からマッド・ゴーレムの圧縮装甲を体全体に纏わせ始めた。
高密度に硬化された土の鎧が形成されていく。
それを見たグリフォンの顔が、再び絶望の恐怖に支配されていく。
「俺は、あの二人みたいにできた人間じゃなくてな……。だから、お前は――このまま、ここで苦しんで死ね」
硬化した拳を、奴の顔面に思い切り叩き込んだ。
ドゴォッという鈍い音と共に、グリフォンの巨躯が激しく地面を転がり、クレーターの岩壁へと激突した。
その瞳から、完全に全ての希望の光が失われ、深い絶望の大穴が開いたのを、俺は確かに見届けた。
これくらいは、許してくれよ、お二人さん。
俺は本当に、頭に血が上ってたんだからさ。
――それから、およそ10分後。
俺の身体の奥底が、熱くなり、劇的に軽くなるのを感じた。
終わった。
勝ったんだ、俺は。
無意識のうちに、俺は天に向けて力強くガッツポーズを突き上げていた。
『おめでとうございます、マスター。グリフォンの生命活動の完全停止を確認しました』
「ありがとう、アカシャ。全部、お前のおかげだよ」
『どういたしまして』
相変わらず、俺の相棒は淡白だったが、それが心地よかった。
俺はゴーレムに指示を出し、持っていたあの小さな人形を、クレーターの地面へと優しく座らせた。
ちょこんと、静かに地面に座る人形。
そして、グリフォンの死体を少し離れた場所に移動させ、周囲に超巨大なエア・ゴーレムを展開。
内部にオキシ・ゴーレム(酸素)を高密度で充填し、圧力をかけながら、ライターの火を移して奴の肉体を激しく燃焼させ始めた。
ゴーレムの熱量によって、巨大な死体が激しい炎に包まれ、灰へと変わっていく。
「仇は……討てたかな」
俺はぽつりと呟き、座る人形と共に、グリフォンが完全な灰へと還るのを、ただ黙って見届けていた。
「よし……最後の仕事だ」
俺は地面の人形にも、同様のゴーレムを静かに纏わせた。
「お前……ずっと、あいつの腹の中で溶かされもせず、いつか自分の主人の仇を討つ日が来るのを、ずーっと待ってたんだよな。本当に、すげー奴だよ」
思わず、その小さな頭を撫でてやろうと手を伸ばしかけたが、途中でグッと手を引いた。
「お前の、大好きなご主人に伝えてくれよ。仇は、間違いなく討ったよって。それと……俺の心を止めてくれて、守ってくれて、本当にありがとうってな」
少しずつ、内部の圧力を上げていくと、人形の表面がパチパチと綺麗なオレンジ色の炎に包まれ始めた。
「大好きなご主人のところへ。そこで、いっぱい遊んでくれ」
一瞬の強烈な光と共に、人形は一本の煙となって、天へと真っ直ぐに燃え尽きていった。
『マスター、あの木の人形がどうして長い間、胃の中で溶けずにいられたのでしょう。どう考えても不可能です。』
「言っただろ、超頑張ってたんだって。」
『…解析不能な事が、世界にはたくさんありますね。』
「そうだな」
しばらくの沈黙の後、灰が風に舞う中で、アカシャが静かに問いかけてきた。
『マスター。なぜマスターは、あの人形を使って、グリフォンに復讐を遂げようとしなかったのですか?』
「しようとは思ったよ、最初はね」
俺は、クレーターから見える、夕焼け空を見上げた。
「でもさ……そんな復讐のためだけに、あいつの新しい『主人』になるのは、なんか違うなと思ってさ」
『……』
「それにさ、あいつには……俺なんかより、ずっと強くて、優しくて、凄いご主人様が、あっちの空で待ってるだろ?」
『……たしかに、そうですね』
「えー? そこはさ、『少しはマスターも強いですよ』とか言ってくれても、バチは当たらないと思うんだけど?」
『寝言は、寝てから言ってください』
「相変わらず、手厳しい……ぐぼあっ!?」
言葉の途中、内臓の奥底から込み上げてくる強烈な鉄の味に耐えきれず、俺は地面に大量の血を吐き出した。
緊張がとけた途端、特に内蔵のダメージが一気に肉体を蝕んできたようだった。
『マスター――ッ!?』
視界が急激に暗転していく。
地面に倒れ込み、意識を完全に喪失するその最後の瞬間――。
俺の視界の端に、クレーターの縁からこちらに歩いてくる、誰かの『足』が見えた気がした。