第25.2話 レベルダウンの先に
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第25.2話 レベルダウンの先に
本文
今までの【アーマード】は、全身をフルプレートアーマーで包み込む大掛かりなものだった。
防御力は高いが、動きや視界が制限される事もあり、精神力のリソースを無駄に食う。
局所的な防護で済む場面でも全身を固めなければならないという、物理的効率の悪さが課題だったのだ。
それが部位ごとの局所装着に進化するなら、利便性はとんでもなく跳ね上がる!
「迷う必要もない! 即進化だろ!」
『ただし、進化の実行条件として【ゴーレムマスター】のスキルレベルを1つ消費する必要があります』
「……は? マジで?」
『マジです』
「え、じゃあゴーレムマスターのレベルが7から6に下がるってこと? それだと、さっきの【マルチマテリアル】と【エーテルドライブ】の2つの新スキルは即座に取得できなくなるんじゃ……」
『その通りです。レベル7で開放されたスキルは当然取得不可となる可能性が高く、新スキルの取得は次のレベルアップまで保留となる事が予測されます。』
「うわ……出たよ、悪趣味な選択地獄……!」
頭を抱えた。
「仮に進化を保留して、レベル8になった時に進化させることはできる?」
『解析不能です。この進化機会が失われるリスクを否定できません』
「仮に今進化させて、再度レベル7になったら新スキルはちゃんと取れるのか?」
『こちらも解析不能です。レベルダウンによるスキルツリーの挙動は前例がありません』
「おいおいおい……片方が永久に取れなくなったら泣くぞ俺は……」
苦渋の決断を迫られる。
物理的な利便性や総合戦闘力で考えれば、間違いなく【マルチマテリアル】や【エーテルドライブ】を取得した方が圧倒的に強い。
だが……もしこの進化チャンスを逃したら?
ふと、俺は自分の右腕に目をやった。
握り込もうと力を入れるが、筋肉がピクリと痙攣するだけで、指先が上手く動かない。
グリフォン戦で至近距離で水素爆発を放った代償だ。
右腕の末梢神経と筋組織、皮膚が思った以上に深刻なダメージを受けている。
瀕死を回復させたワラン様の加護の恩恵を持ってしても、運動機能の完全回復には程遠い。
『マスター……やはりその右腕は……』
アカシャの痛々しそうな声。
「ん? ああ、まあ正直なところ、感覚が鈍くて力が入りづらくてね」
『……申し訳ございません。私がもっと完璧なサポートを行っていれば……』
「おいおい、また自分を責めてるのか? 言っただろ、これは俺自身の作戦で、俺が納得して受けて立った結果だ。お前が謝る必要なんてどこにもない」
アカシャはずっと気にしてるようなんだよな。
俺がこの腕をかばうたびに、アカシャは心の中で小さな傷を深めていくのだろうか…。
「――よし、決めた! 【アーマード】を進化させる!」
『よろしいのですか!? 演算上、新スキルを取得して外部操作に特化する方が、マスターの生存確率は高くなると試算されます』
「いいんだよ。取れる選択肢があるなら、その場で確実に回収するのがゲーマーの矜持ってものだ!」
『……』
「それにさ、レベルアップすれば新スキルが取れる可能性は高いじゃない。進化の機会の方が獲得優先度は高いと、俺のゲーム脳が言ってるのだ!」
『……承諾いたしました。ではゴーレムマスターのレベルを1消費し、【アーマード】を【タクティカル・シェル】へ進化させます。よろしいですか?』
「了!」
その瞬間、胸の奥から温かいエネルギーが膨れ上がり、スッと抜けていく感覚があった。
アカシャが進化した時の気絶に比べれば、拍子抜けするほど軽い感触だ。
『処理完了。【アーマード】は【タクティカル・シェル】へと正常に進化移行しました』
「よし、早速試してみるか!」
俺は不自由な右腕を持ち上げ、意識を集中させた。
「【タクティカル・シェル】発動!」
一瞬で足元の土壌から精密な土が引き寄せられ、右腕の表面を覆っていく。
腕全体を固めるのではなく、指先、手首から肘、上腕にかけての主要な筋肉と骨格に沿うように、しなやかで強固な土の複合装甲が形成された。
「うおぉぉぉっ! かっけぇぇぇ! 見ろよアカシャ!」
ブンッ、ブンッ!と右腕を振ってみる。
力が入らなかった右腕が、土の外骨格パワードスーツに補助されて、以前以上のパワーと精度で完璧に駆動している!
「凄いわこれ! ゴーレム強化が直接乗ってるから、怪我する前より動きが滑らかだぞ! 完全なパワードアーマーだ!」
傷んだ神経に代わり、ゴーレムマスターのスキルでの精神同調が物理的な動作を肩代わりしている。
調子に乗った俺は、右腕を顔の前に突き出し、ニヤリと悪役のような笑みを浮かべた。
「くっ……アカシャ、俺から離れろ! 俺のこの右腕に封印されし破壊の衝動が……世界を滅ぼしてしまう前に絶ち切るのだ……!」
『マスターの現発言およびポージング、一言一句漏らさず永続記録データへアーカイブ保存いたしました』
「……ごめんなさい。今すぐ消去してください何でもしますから」
ガックリと肩を落とす俺。
『マスター』
「ん?」
『……いえ、なんでもありません』
だが、脳内のアカシャの気配が、どこか柔らかく笑っているような温かさに包まれているのを感じた。
罪悪感を抱いていたアカシャの心が、少しでも軽くなったのなら……それだけでこの選択は大正解だ。
「さて! これからの予定だが」
俺は久しぶりにコットを降り、テントの外へ出て、両足でしっかりと大地を踏み締めた。
3日も寝ていたとは思えない程、体は軽かった。
そのままハイバックチェアに座り、ペブル・ゴーレムを作り出す。
「まず、この大岩拠点周辺にスタレーニの畑を作ろうと思う」
『以前仰っていた、異世界農園計画ですね』
「そうそう。で、今後のロードマップだけど……」
俺の指示に従い、小型の書記用ペブル・ゴーレムが足元の整地された地面に枝でサッサッと文字や図を描いていく。
「こんな感じでどうだろう?大体2ヶ月くらいかなと思ってるんだけどさ。」
『時間の見積りが少し甘い気もしますが、マスターの努力次第、といったところでしょうか』
「だな〜。スローライフでのんびり暮らすためにも、今は汗を流して頑張らねば!」
『のんびり生きるために死ぬほど働くというのは、論理的に矛盾していますね』
「それな」
俺はくすりと笑う。
そのままハイバックチェアから勢いよく立ち上がり、グリフォン戦ですっかり開けた森から見える澄み渡る大空を見上げた。
「よし! それじゃあ『空の神殿訪問計画』、始動しますか!」
俺はこれから始まる拠点作りに向けて、歩きながらストレッチをした。
「あ、気になってたんだけどさ、よくあの戦いでこのテント大丈夫だったなって。加護のおかげ?」
『私が戦闘前に収納しました』
「さっすが〜」