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1-24 旅立ちの朝

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/4 📚 シリーズ: アストラリア大陸事変 📝 5,274文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王亡き世界で、再び魔の時代が動き出す。 魔王ゼルヴァディスが討たれてから、六百二十八年。 平和を取り戻したアストラリア大陸では、三つの主要勢力が微妙な均衡を保ちながら共存していた。 しかし、今なお人の立ち入れない旧魔王領では、魔物たちが静かに活動範囲を広げ始めていた。 各地では怪しい薬が出回り、魔王を崇める新興宗教も勢力を増していく。 そんな異変をまだ知らず、自由交易都市に暮らす青年レオン・ヴェスタは、見知らぬ世界を求めて旅立つ。 やがて彼は、森の外へ憧れる若きエルフの癒し手フィリアと、その護衛リュシアに出会う。 三人の小さな旅立ちは、やがて国家、宗教、人間、魔物――大陸に生きる者すべてを巻き込む事変へ繋がっていく。 善と悪の境界が揺らぐ世界で、彼らは何を知り、何を選ぶのか。 これは、魔王亡き世界で再び動き始めた、魔の時代を巡る物語。

本文

新暦628年4月10日、朝。

エルフの里には、澄んだ朝の光が差し込んでいた。

木々の葉には夜露が残り、

枝葉の隙間から落ちる光が小道を照らしている。

昨日の騒乱の爪痕は、まだ里のあちこちに残っていた。

修繕途中の柵。

踏み荒らされた花壇。

広場の隅にまとめられた壊れた木箱。

それでも、空気は昨日よりずっと穏やかだった。

精霊たちは木陰から顔を出し、

森の鳥たちもいつものように鳴いている。

そんな里の中を、レオン・ヴェスタは一人歩いていた。

背には荷物。

腰には、これまで旅を共にしてきた剣。

今日、レオンはこの里を出る。

フィリア、リュシアと共に、まずはリュミエール王国へ向かう予定だ。

アルヴァンからは、旅立つ前に渡したいものがあると言われている。

「……まずは、王国だな」

小さく呟いた時、前方から聞き慣れた声が響いた。

「ね〜リュシア〜! 本当にこの格好でいくのぉ?」

アルヴァンの家の前。

フィリアが地味な茶色の外套を羽織り、

不満そうに裾をつまんでいた。

昨日までの軽やかな服装とは違い、

首元から足元近くまで覆う作りになっている。

旅装としては丈夫で動きやすそうだが、

本人はまるで納得していない。

「はい、そうです」

リュシアは当然のように答えた。

「フィリア様の美貌は、男性の方々には毒ですので」

「え〜、そんなことないよ〜。レオンとか普通じゃん!」

「いいえ」

リュシアはきっぱりと言った。

「レオンさんも、時折フィリア様のお身体を盗み見ていましたよ」

「えっ」

フィリアの顔が、みるみる赤くなる。

「そうだったの……?」

「そうですよ。まぁ、それでも変な気は起こさなそうでしたので、

その辺りは紳士なのかもしれませんね」

少し離れた場所で聞いていたレオンは、思わず咳き込みそうになった。

――聞こえてる。全部聞こえてる。

そう言いたかったが、今出ていくと余計に気まずくなりそうだった。

そう思っているうちにフィリアは赤い顔のまま、外套の裾をつまむ。

「でも私、できるだけ肌は出してたいんだよね……」

リュシアの目が細くなる。

「痴女ですか、あなたは」

「違う!」

フィリアは即座に叫んだ。

「できるだけ風とか、日の光とか、そういう自然なものに触れてたいの!」

「なるほど。植物だったんですね」

「ち・が・う!」

フィリアは地団駄を踏む。

「リュシアもエルフなんだから、少しはこの感覚分かると思ってたのに!」

「さて。私はそういったことをしなくても魔法は使えますので」

「むき〜〜〜! とにかく、こんな外套脱ぎたい〜〜!」

これ以上聞いているわけにもいかず、レオンは二人の方へ歩き出した。

「二人とも、おはようございます」

「あ! レオン、おはよう!」

フィリアの顔がぱっと明るくなる。

だが、すぐに外套を広げて見せた。

「聞いてよレオン! リュシアが、こんな外套を羽織れっていうのよ!

街ではフードまで被れって! 酷くない!?」

レオンはフィリアの姿を見る。

確かに普段よりずっと地味だ。

だが、外套の下から覗く金色の髪も、澄んだ瞳も隠しきれてはいない。

「あー……でも、そっちの方がいいかもですね」

「え〜〜〜〜、そんな〜〜〜」

フィリアは今にも崩れ落ちそうな声を出した。

リュシアは満足げに頷く。

「そういうことです。諦めてください、フィリア様」

「しょんな〜……」

その時、アルヴァンの家の扉が開いた。

「ほっほっ。朝から賑やかじゃのう」

アルヴァン・エルフェリアが姿を見せる。

その後ろでは侍女が小さな台車を押していた。

台車の上には、布に包まれた長い物と小箱、二通の封書が置かれている。

「皆、揃っているようじゃな」

レオンとリュシアが挨拶する横で、

フィリアはアルヴァンへ駆け寄ろうとした。

「ねぇ、おじいちゃん〜!」

だが、その瞬間、外套の襟元をリュシアが掴む。

「フィリア様。いい加減にしてください。話が進みません」

「しょんな〜……」

アルヴァンは二人を見て笑った。

昨日のことを思えば、今日の朝、フィリアがこうしていつものように

騒いでいることが、どれほどありがたいことか。

アルヴァンは胸の奥で静かに安堵していた。

「それでは、心ばかりではあるが、餞別の品を渡そうと思う」

空気が少しだけ引き締まる。

「まずは、レオン君。こちらへ来てくれ」

「はい」

侍女が台車から長い包みを取り上げ、アルヴァンへ差し出した。

布がほどかれる。

中から現れたのは、一振りの剣だった。

細身で、しなやかな曲線を持つ剣。

柄には緑銀の意匠が施され、鍔には若葉を思わせる紋様が刻まれていた。

飾り物ではない。実戦で振るうための剣だ。

アルヴァンはそれを両手で持ち、レオンへ差し出した。

「レオン君には、このエルフの剣を授けよう」

「えっ……? い、いいんですか!?

こんな凄そうなものをいただいても」

「ほっほっ。いいんじゃよ。

昨日、君の剣を少し見させてもらった。

長さも重心も、これなら違和感なく使えると思っての」

「でも……」

「里に置いて腐らせておくのも勿体ない。

それに、これから危険もあるじゃろう。

少しでも助けになるものを持っていてほしいのじゃ」

レオンはしばらく剣を見つめ、ゆっくりと両手を差し出した。

「……ありがとうございます」

受け取った瞬間、その軽さに驚く。

だが、軽すぎるわけではない。

手の中へ自然に重心が収まり、腕に馴染む感覚があった。

まるで、最初から自分が握ることを前提に作られていたような、

そんな不思議な感覚だ。

鞘からわずかに刃を抜くと、銀白の光が走る。

派手ではない。だが、美しい。

「すごい……」

「きれいな剣だね~」

フィリアが目を輝かせる。

リュシアも剣を見つめた。

「エルフの里でも、かなり上等なものですね」

レオンの背筋が伸びる。

「大切に使わせていただきます」

「うむ。その剣の名は、翠風剣リーファリオンという」

「リーファリオン……」

「エルフの魔法が施されておる。刃こぼれや錆びは、まず起きぬじゃろう。

風の魔力と相性がよく、振り抜きも軽い。

もっとも、剣は剣じゃ。持ち主が雑に扱えば、応えてはくれぬ」

「はい。必ず、大切に使います」

そう答えながらも、レオンの胃は少しだけ痛くなった。

――やっぱり、すごいものなんだ……。

アルヴァンはその顔を見て小さく笑う。

「それから、これじゃ」

今度は二通の封書を手に取った。

封蝋には、エルフの里を示す紋章が押されている。

「リュミエール王国の女王エレノアと、

グランディア帝国の皇帝ヴァルデリオスへ宛てた手紙じゃ」

レオンの表情が引き締まる。

「昨日の事件の顛末、ノクティス教団についての疑義、

そして薬の危険性が書かれておる」

「はい」

「王国宛ての書状には、君たちに馬車を貸してほしいと書いておいた。

それを使えば、帝国まで早く向かえるじゃろう」

レオンは封書を受け取った。

「必ず届けます」

「すまんのう。本当なら、君はゆっくり旅をしたかったじゃろうに」

「いえ。気にしないでください」

レオンは首を横に振る。

「全部終わってから旅をしても遅くはないです。

それに、俺もあいつらを野放しにはできませんので」

「うむ。では、頼む」

アルヴァンは頷き、今度はリュシアへ向き直った。

「次は、リュシア」

「はい」

アルヴァンは小さな箱を手に取った。

中には、銀色の指輪が収められていた。

細い輪の表面に、小さな葉と雫の模様が彫られている。

「これは、魔力と体力の回復を手助けしてくれる指輪じゃ。

リュシアには、これを授ける」

リュシアは両手で受け取った。

「ありがたく頂戴いたします」

「ただし、そこまで強力なものではない。

あくまで補助として使うのじゃぞ」

「かしこまりました」

リュシアは指輪を見つめる。

「必ず、フィリア様をお守りします」

「うむ、頼む。

しかし、あまり気負いすぎるでないぞ。

お主も、外の世界を楽しんでくるのじゃ」

リュシアは一瞬だけ目を伏せ、珍しく小さく微笑んだ。

「……はい」

「ふふ。何だかリュシア、嬉しそう!」

「気のせいです」

「え~そんなことないと思うけどな~」

リュシアは誤魔化すようにフィリアを促す。

「フィリア様。次はあなたの番です」

アルヴァンは笑いながら、最後の小箱を手に取った。

「そして、最後にフィリア」

「はい!」

箱の中に入っていたのは、細い銀の鎖を持つネックレスだった。

中央には淡い緑色の石があり、その中で光の粒がゆっくりと揺れている。

フィリアの瞳が輝く。

「わ〜、これ素敵ね! おじいちゃん、ありがとう!」

両手で受け取り、嬉しそうに眺める。

「それで、これにはどんな凄い魔法がかかってるの!?」

アルヴァンはにこりと微笑んだ。

「ああ。迷子防止の魔法がかかっておる」

「……え?」

「リュシアから一定以上離れた場合、強制的にリュシアの元へ

転送されるようになっておる」

フィリアは黙ってネックレスを見る。

「1日に1回しか使えぬので、あまり迷子にならんようにな」

「迷子防止……」

先ほどまで宝物を見るように輝いていた瞳が、

じわじわと複雑な色に変わっていく。

「あ、ありがとう、おじいちゃん……」

隣でリュシアが口元を押さえる。

「フィリア様、何をそんなに落ち込んでいるのですか。

今までで一番凄いものですよ、ぷっ……」

「うぎぎぎぎ……! 馬鹿にしてぇ……!」

「いえ。決して」

「笑ってたもん! 完全に馬鹿にしてた!」

「気のせいです」

「絶対気のせいじゃない!」

レオンは苦笑しながら二人を眺めていた。

アルヴァンも笑っている。

やがて、その表情が少しだけ静かになった。

「フィリアや」

「なに? おじいちゃん。迷子防止グッズなら、もういらないよ?」

言い終える前に、アルヴァンはフィリアを抱きしめた。

「……え?」

ゆっくりと、けれど確かに背を包む。

あたたかい抱擁だった。

長い年月、この里を守ってきた者の腕。

幼い頃からフィリアを見守り続けてきた祖父の腕。

いつも穏やかで、少しとぼけていて、時に厳しくて。

それでも、誰よりも優しかった人の温もり。

アルヴァンはフィリアの髪をそっと撫でた。

「気を付けていきなさい、フィリア。

必ず、帰ってくるんだよ」

声は静かだが、その奥には、隠しきれない想いがあった。

その声を聞いて、フィリアも祖父の背へ腕を回した。

外の世界へ行きたい。

ずっと願ってきたことだった。

けれど、里を出るということは、

アルヴァンのそばを離れるということでもある。

いつも聞いていた声。

いつでも帰れると思っていた家。

当たり前だったものから、初めて遠く離れる。

「うん……」

声が震えた。

フィリアの目に涙が浮かぶ。

しばらくして、アルヴァンがゆっくりと身体を離す。

フィリアは涙を指で拭った。

そして、鼻を少しすすりながら笑う。

「いってきます、おじいちゃん!」

「うむ。いってらっしゃい」

◇

三人が里の出入り口へ向かうと、

何人ものエルフたちが見送りに出てきた。

「フィリア様、お気をつけて」

「リュシア、頼んだぞ」

「レオン殿、二人をよろしくお願いします」

フィリアは一人一人に手を振る。

「行ってきます! ちゃんと帰ってくるから!

みんなも元気でね!」

その声は明るいが、時折わずかに震えていた。

やがて、里の門が見えてくる。

数日前、ノクティス教団の一団が立っていた場所。

レオンとフィリアが初めて出会った場所。

門を抜ける前に、フィリアは振り返った。

少し離れた場所に、アルヴァンが立っている。

「おじいちゃーん!」

フィリアは大きく手を振った。

アルヴァンも、ゆっくりと手を上げる。

フィリアは何度も振り返った。

「フィリア様、前を見て歩いてください」

「だって……」

「転びますよ」

「転ばないもん」

その直後、フィリアの足が小石に引っかかる。

「危ない」

レオンが咄嗟に支えた。

「わ、ありがとう、レオン」

リュシアは無言でフィリアを見る。

「……前を見て歩きます」

「そうしてください」

レオンは思わず笑った。

三人はそのまま森の道へ入っていく。

レオン。

フィリア。

リュシア。

エルフの里で出会った三人の旅が、ここから始まった。

アルヴァンは、その背中が見えなくなるまで見送っていた。

◇

やがてアルヴァンは踵を返した。

「さて。儂らも旅の準備をしようかの。

明日にはヴェントゥスへ向けて出発したいからの」

「承知しました」

侍女が頭を下げる。

そこへ、一人の兵士が走ってきた。

「アルヴァン様!」

「どうした」

「ご依頼を受けた件、調査が完了しました」

アルヴァンの目が細まる。

「どうじゃった?」

「教団の者たちが滞在していた宿舎は、すでにもぬけの殻でした。

里の中も探しましたが、見当たりません。

夜明け前には出ていったものと思われます」

「そうか……。ご苦労」

「はい。それから……」

兵士は懐から一枚の紙を取り出した。

「宿舎に、このようなものがありました。

書き置きのようですが……」

アルヴァンは紙を受け取り、ゆっくりと開く。

そこには、短い一文だけが記されていた。

『このお礼はいつかいたします。

 サイラス・ヴェイン』

アルヴァンはしばらく文字を見つめた。

「……サイラス・ヴェイン、か」

「アルヴァン様……?」

アルヴァンは静かに紙を折り畳んだ。

「……波乱は、まだ終わっておらぬようじゃな」

森の奥へ消えていった三人の背中を思い浮かべる。

「三人とも、気を付けるのじゃぞ……」

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