第八十一話 生贄の呪い
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あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
「セレナ姉様を助けるのよ!」
リゼットは震える手で、ポケットから真鍮の鍵を引き抜いて高く掲げた。
青白い幾何学の燐光が、機械の唸る大空洞を微かに照らし出す。
「私たちは、セドリック校長からこの鍵を託されてきたわ! これを使えば、装置の生贄維持プロトコルを停止できる! 姉様を……今すぐここから解放できるのよ!」
だが、その鍵を目にしたラティナの唇から漏れ出たのは――凍てつくような、憐憫と嘲笑の吐息だった。
「解除キー……?」
ラティナは黄金の瞳を細め、冷たく首を横に振った。
「そんな真鍮のガラクタで、姉様が救えるとでも思っているの?」
「なっ……」
「出奔してからの三年間……私は世界中の禁書を漁り、あらゆる術式を調べ尽くして、姉様を助け出す手立てを必死で探したわ」
ラティナの声が、低く、悲痛な震えを帯びて石壁を這う。
「でもね、辿り着いたのは……吐き気を催すほど残酷な現実だけだった」
ラティナはシリンダーのガラスへと向き直り、黒い手袋の指先で、濁った液体の向こうに浮かぶセレナの皮膚を指し示した。
「あの全身を覆う、黒紫色の刻印を見なさい。……あれは、単なる魔術の入れ墨ではないわ。肉体と魂を、機械の構造そのものと不可逆的に結合させる『生贄の呪い』よ」
「不可逆……?」ルナが息を呑む。
「そうよ。あの装置をそのままにしておけば、姉様は数十年かけて生きたまま魂をすり潰されて死ぬ。……けれど、その鍵を使って強引に装置の接続を切り離せば、神経を直結された魂が激しい術式汚染(拒絶反応)を起こし、その瞬間にショック死する」
ラティナの双眸から、光が完全に消え失せていた。
「放置しても死に、触れても死ぬ。……魂と肉体に焼き付いたこの呪いそのものを消去する魔術など、この世界のどこにも存在しないのよ! ……だから私は、姉様の心臓を自らの手で止めて、この永劫の地獄から永遠に解放してあげるのよ!!」
絶望の宣告。
リゼットの足が、その場に縫い止められたように動かなくなった。
ルナが手帳を取り落としかけ、テラが息を詰まらせる。助ける手立てがない。鍵があっても、触れた瞬間に姉は死ぬ。
だが――その沈黙のただ中で。
クロエだけが、感情のない黒い瞳で、シリンダーの中のセレナを凝視していた。
黒紫色の幾何学刻印。
青白く痩せこけた皮膚の下、血管のように脈動し、彼女の清らかな魂を無理やり機械の部品へと縛り付けている、おぞましい魔術の痕跡。
「……嫌よ」
リゼットの絞り出すような声が、大空洞に響いた。
真鍮の鍵を胸元にぎゅっと抱きしめ、涙をボロボロと零しながら、ラティナを睨みつける。
「殺させない……! 姉様を死なせて楽にするなんて、そんなの救いじゃないわ! 私が……私たちが絶対に、姉様を救う方法を見つけるから!!」
「問答はそこまでだ」
ズゥン、と重い靴音が、リゼットの叫びを遮った。
ファウストが進み出た。
アッシュグレーの白髪を揺らし、一切の魔術を纏わない鋼の拳を、無造作に握りしめる。
「救うだの殺すだの、子どものお遊戯に付き合う気はない」
ファウストの低く冷徹な眼光が、シリンダーの基部――巨大なリアクターの心臓部を射抜いた。
「俺の目的は、この欺瞞の都市を支える心臓部を、跡形もなく叩き潰すことだけだ。……邪魔をするなら、お前たちごと圧殺する」
ゴオオッ……と空間が軋んだ。
魔力ではない。ただその肉体から放たれる、深海の一点に沈められたような圧倒的な重圧の津波。
セレナを守るため、そして復讐の破壊を止めるため、六人が一斉に戦闘態勢をとった。
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