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フリーマーケット(四)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 2,162文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編&連作 作品集

本文

フリーマーケット(四)

【あなたに、私から】

二人は、それからも何度もメモを交換するようになった。

最初は確認のための、いわば報告書のような内容だった。

「今日、市でこんな物を見つけました」

「そっちでは珍しいんですね。こっちだと当たり前で、逆に驚きました」

そんなやり取りが、少しずつ商売の話へと形を変えていく。

奇しくも二人とも、代々の商売屋の生まれ。だからこそ、話の通じる速度が尋常ではなかった。

売れそうな品。

珍しい意匠。

相手の世界では、思いがけない値がつく物。

まだ一度も直接顔を合わせたことはない。それなのに、二人はいつの間にか、共同経営者のような感覚で品物談義を交わすようになっていた。

やがて、メモの中身は商売の話だけにとどまらなくなる。

今日の天気。

食べた物の感想。

ちょっとした失敗談。

一人暮らしゆえの、たわいもない愚痴。

そうした何気ない言葉のやり取りを通して、少しずつ、お互いの人となりが見えてくる。

生真面目なようで、意外と抜けているところがある純。

冷静なようでいて、案外慌て者のミナ。

文字だけのやり取りだからこそ、かえって素直な部分が滲み出ていたのかもしれない。

そうして自然と、二人の間に、ただの転移仲間とは呼べない親しみが生まれていった。

ある日、純はこちらの世界で、ふと目を引く品を見つけた。

繊細な細工の施された、小さな装飾品。

商売の品として売っても、十分な値がつきそうだった。

純は、それを手に取ったまま、しばらく動けずにいた。

「これ……あの人に、渡したいな」

自分の世界では、ごく当たり前のもの。

しかしミナの世界でなら、きっと目を輝かせて喜ぶはずだった。

そう思うと、自然と頬が緩む純。

丁寧に紙で包み、リボンを掛けた。

メモも一枚、そっと添える。

「これはあなたに。私から」

ミナもまた、同じように、純への贈り物を用意していた。

商売品として選ぶ物とは、まるで違う基準で選んだ一品。

売るための物ではない。

ただ、相手に受け取ってほしいという気持ちだけで選んだ品だった。

こうして二人の関係は、商売相手から、もう一歩踏み込んだ特別な誰かへと、静かに姿を変えていく。

それでも、二人はまだ、お互いの本当の姿を知らないままだった。

鏡を見れば、映るのはいつも自分自身の意識が宿った身体。

こちらの世界にいる時は、純自身の姿。

向こうの世界にいる時は、ミナ自身の姿。

当然のことのようでいて、それが、二人がまだ相手の本当の顔を知らない理由でもあった。

ある夜、純はふと、ミナのことを考えていた。

メモの文字だけでは、もう物足りないと感じ始めている自分に気づく。

「会いたいな」

そうつぶやきながら、何気なく洗面所の鏡を覗き込んだ。

いつもと同じように、こちらの世界にいる自分の顔が映るはずだった。

けれど、そこに映っていたのは、向こうの世界で毎日見てきた、あの女性の顔だった。

「……え?」

思わず息を呑む純。

いつも向こうの鏡で見慣れていた顔が、今、こちらの鏡に映っている。

つまりこれは、自分の顔ではない。今、向こう側にいるミナ本人だ。

「もしかして……ミナさんですか?」

声に出してみるが、鏡の向こうには届かない。

唇の動きだけを見て、ミナが何かを言おうとしているのが分かる。

けれど、声はどうしても聞こえない。

それでも、純には分かった。目の前にいるのは、これまでメモを交わしてきた相手。

同じ頃、ミナもまた、同じ光景を目にしていた。

「純さんに、会いたいな」

そうつぶやきながら鏡を見た瞬間、映っていたのは、こちらの世界で見てきた、あの男性の顔だった。

戸惑いながらも、ミナはすぐに気づく。

これは自分の顔ではない。

「もしかして……純さん?」

言葉は届かない。

けれど、目と目が合った瞬間、確かに何かが通じ合った気がした。

純は、恐る恐る鏡の表面に手を伸ばしてみた。

ミナも、応えるように手を伸ばしている。

冷たいガラスの感触を覚悟していた。

けれど、指先に伝わってきたのは、確かな体温だった。

その瞬間、景色が大きく揺らぐ。

気づけば二人は、同じ場所に立っていた。

それぞれが本来の自分の身体と意識のまま、同じ空間に立っている。

しばらくの間、二人とも言葉が出てこなかった。

ずっとメモだけでやり取りしてきた相手。

二つの世界を行き来しながら、少しずつ距離を縮めてきた相手。

その人が今、初めて、声の届く場所にいる。

「……純さん?」

震える声で、先に口を開いたのはミナの方だった。

「はい。……ミナさん、ですよね」

やっと届いた、お互いの本当の声。

先に動いたのは、純の方だった。

震える手で、ゆっくりとミナの手を取る。

そのまま、引き寄せるように、そっと抱きしめた。

今まで鏡越しだった距離が、ようやくゼロになった瞬間だった。

「やっと、会えましたね」

耳元でつぶやく純の声に、ミナは小さくうなずく。

けれど、少し落ち着きを取り戻した頃、ミナがぽつりと口を開いた。

「これ……二人でずっとここにいられるのかな」

その一言で、純もはっと我に返る。

これまで確認してきた中では、それぞれが「帰りたい」と思って手を上げれば、あっさり自分の世界に戻ってしまう。

抱き合ったまま、二人は顔を見合わせた。

「少し、色々と試してみましょうか」

純がそう提案すると、ミナも真剣な顔でうなずいた。

二人にとっての一番大切な検証が、ここから始まろうとしていた。

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JJ

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