第七話 小隊結成
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前7時に更新・11月中に完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
ルナは冷たい石床に両手をついたまま、微動だにしなかった。
エヴァンが痛ましげに歩み寄ろうとした瞬間――ルナの肩が激しく跳ねた。
「……近寄らないで!」
耳の奥を裂くような、掠れた拒絶。淑女の仮面は剥ぎ取られ、剥き出しの震えが石壁を這う。
「憐れみの施しなど、なさらないでくださいまし……!」
ぽた、ぽた、と床石を黒く濡らす涙の滴。
「……わたくしの魂を削ってでも、あの男の玩具にだけはなるものですか……!」
突きつけられた剥き出しの矜持に、エヴァンは奥歯を噛み締めた。彼女が求めているのは救済ではなく、己の足で立つための力なのだ。
沈黙が落ちた円卓を、クロエの淡い瞳が冷静に測るように見つめていた。
重苦しい暗闇を、澄んだ平坦な声が切り裂く。
「――学院憲章、第三章第十四条」
階段を降りてきたクロエだった。卓上の虚空を見つめたまま、淡々と告げる。
「半年後の年次合同選抜において最優秀に選出された小隊には、『一度限りの超法規的嘆願権』が付与される。……王宮、聖賢騎士団、大貴族院のいかなる決定をも覆す、最高位の特権です」
「……え?」
ルナが涙に濡れた顔を上げた。
「合同選抜は六人一組の実戦選抜です。推薦状は破棄されましたが、同じ効力を持つ権利はまだ存在しています」
「……偶然にしちゃ出来すぎだな」
エリクスが階段の手すりに寄りかかり、自嘲するように笑った。
「ここにちょうど、余り物が六人揃ってんじゃねえか」
ざらり、と安物のローブが擦れる音が響く。
テラが静かに歩み寄り、床に崩れ落ちたルナの前で膝を折った。
その瞳にあったのは、弱者への哀れみなどでは断じてない。最上段の席から見下ろしていた時から、テラの胸で燻っていた冷徹な飢餓感――同じように理不尽にすり潰されようとしている者を前にした、生き残るためのギラついた光だった。
「ルナさん。……僕と、取引をしてください」
「取引……?」
「僕には魔術の知識がありません」
テラは傷だらけの手を広げた。
「他人の魔術の残滓を拾い集めるだけの僕じゃ、遠からず座学の赤点で学院を追放されます。僕が追放されれば、故郷の村が飢えて全滅する。……あなたには完璧な知識がある。僕に学問を教えてほしい。その代わり、僕はあなたの泥臭い盾になります。泥水を啜ってでも、あなたを最優秀小隊の座へ連れていきます」
「テラ、さん……」
「――ちょっと。抜け駆けは許さないわよ」
鋭い声とともに、リゼットが靴音を響かせて割り込んできた。腕を組み、不機嫌そうにルナを見下ろす。
「私も感覚だけで撃ってるから筆記は赤点スレスレなのよ。あんたの堅苦しい頭脳、私にも貸しなさい。代わりに私の規格外の火力で、邪魔な敵を全員消し炭にしてあげるわ」
「おいおい、頭脳が一人に、盾と火力か。……バランスが悪すぎるな」
中段の手すりから身を乗り出し、エリクスが口笛を吹いた。
「前衛で敵の足止めをする斬り込み役がいねえぞ」
「ならば、俺が立つ」
エヴァンが迷いなく直剣の柄に手を添え、輪の中へ踏み込んできた。
「家柄ではなく、一人の前衛として刃の価値を証明したい。お前たちのその覚悟になら、俺の剣を預けるに足る」
「……偶然ですね」
最後に、クロエが感情の起伏のない足取りでテラの背後に並んだ。
「前衛が二名、後衛火力が二名、そして戦術を構築する頭脳が一名。この小隊の陰に身を隠し、索敵と支援に徹することで、私の生存確率は跳ね上がります。――これで、ちょうど六人です」
誰一人として憐憫の目を向けていない。互いの欠落を埋め合わせ、生き残るための計算と覚悟。だが、ルナの唇が震えながら現実を告げた。
「……けれど、平民や没落貴族の名が並ぶ小隊申請など、学院の官僚機構に門前払いで棄却されますわ」
「それなら、ミストレイン侯爵家の嫡男様がいるだろ?」エリクスがエヴァンを指す。
「――無理だ」エヴァンが即座に切り捨てた。
「鉄の刃を帯び、答辞で学院を罵倒した俺は排除すべき危険分子だ。俺が申請を出せば、『反乱の私兵を募っている』と格好の口実を与えて即座に却下される」
誰もが表舞台の旗印になれない。その瞬間、五人の視線が一斉に金髪の少女へと注がれた。
「……は? 何よ、その目は」リゼットが後ずさる。
「メルキオーレの看板だ」エヴァンが言い放った。
「始祖フィーナの血を引き、血統術式を宿すお前の名は絶対の聖典だ。どれほど素行が悪かろうと、『メルキオーレの令嬢が率いる小隊』という申請書を撥ねることは、学院の存在理由そのものを否定する大不敬になる」
官僚たちの喉元に突きつける、絶対の免罪符。
「はああぁぁっ!? 私がリーダーをやれって言うの!? 面倒くさい雑務なんて真っ平なんだけど!」
「お前しかいない」エヴァンが冷たく返し、クロエが「名義貸しとして費用対効果は最高です」と添え、エリクスが「頼むぜ隊長殿!」と敬礼する。
「……お願いします、リゼットさん。僕たちの看板になってください」
テラが深く頭を下げた。
「うぐっ……! あーもう! 分かったわよ!」
リゼットは乱暴に頭を抱え、天井を仰いで舌打ちした。
「無様に負けたら承知しないからね! 全員まとめて消し炭にしてやる!」
その光景を見つめていたルナの唇から、小さく息が零れた。
彼女は自らの両膝に力を込める。誰の手も借りず、ただ己の力だけで立ち上がった。震える膝をねじ伏せ、背筋を凍るほど真っ直ぐに伸ばす。乱れた銀髪を払い、胸元のタイを整え直したその瞳に、冷徹な誇りの炎が蘇っていた。
「……高くつきますわよ、皆様」
ルナ・フィリム・ランザードは、凛と言い放った。
「わたくしの指導は教範よりも遥かに厳しくてよ。音節一つの乱れも見逃しませんわ。ついてこられずに泣き言を漏らしたら即刻契約破棄です。……小隊長も覚悟なさってくださいまし。曖昧な甘えなど、一切通用いたしませんことよ」
「上等じゃない」
リゼットが不敵に笑い、エヴァンが口角を上げ、エリクスが指を鳴らし、テラが迷いなく頷いた。クロエも感情のない瞳のまま一礼を返す。
すり鉢の底、冷え切った大講義室。
六つの孤独な魂を結ぶ、強靭な契約が交わされた。
「なら、まずは小隊申請の提出期限だ。……あと30分しかないぞ」
エリクスが緊張を含まない声で告げた。
「走るわよ、あんたたち!」
リゼットの言葉に呼応し、全員が駆け出した。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。