• 日常編 ―― L'Ordinaire:【無垢なる陽だまり(サニー・テラス)と、深淵の眼差し(黒猫の視線)――甘い従属】
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> ……やっと、オーナーと俺だけの時間だ。</p><p> 白大理石の柱を這う、クリーム色のつる薔薇「ムーンライト」。 その淡い花弁に囲まれた秘密のガゼボは、中央のラウンドテーブルを挟んで、俺たちのための濃厚な密室と化している。</p><p> 眼鏡の男が淹れた、苦いだけの珈琲の檻なんかより。</p>
本文
アルベリック
……やっと、オーナーと俺だけの時間だ。
白大理石の柱を這う、クリーム色のつる薔薇「ムーンライト」。 その淡い花弁に囲まれた秘密のガゼボは、中央のラウンドテーブルを挟んで、俺たちのための濃厚な密室と化している。
眼鏡の男が淹れた、苦いだけの珈琲の檻なんかより。
俺が地下一階の工房で、でっかいすり鉢を抱え、この手でカカオを泥臭く擂(す)り潰した、この濃密(のうみつ)なショコラの方が──オーナーには、何百倍もふさわしい。
はじまりは、オーナーが俺に仕掛けた、ほんの小さなお茶目で、可愛い「いじわる」だった。
『チョコレートって、作るのにめっちゃ力使うよね? ――ねえアルベリック、機械を使わずに、わたしのために手作業でショコラを作ってくれる?』
くすくすと笑うオーナーにとっては、ただの冗談だったのだろう。だが、俺にとっては違った。
誰にも懐かない孤高の黒猫(おれ)をその手のひらで飼い慣らす唯一の支配者――オーナーからの言葉は、冗談だろうが何だろうが、俺のすべてを支配する絶対の神託だ。
だから俺は、巨大な機械をただの飾り(ハリボテ)にして、でっかいすり鉢を抱え、汗だくになりながら、オーナーのためだけの一粒を【 泥臭く練り上げた 】のだ。
一瞬のブレもない完璧で高貴なポーカーフェイスの裏側で、ドロドロとした狂信をカカオとともに混ぜ合わせるように。
本当に、怖いほどに真っ直ぐで、重い、俺の愛の檻。曜日限定のギフト用に仕込んだショコラが余ると、俺は「売らなければ損が出る」と口実を作っては、非営業日のたびにオーナーの部屋へと毎日のように運んでいた。
作品統計
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