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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> けれど、今は違う。ここは洋館の庭園の奥、薔薇のカーテンに守られた特等席だ。</p><p> ゆったりとしたゴシック様式の長椅子のうえ、洗濯したての特大の毛布にぽすんと包まり、無防備にすやすやと眠っているオーナー。</p><p> ゆらゆらと揺れる海月(クラゲ)ヘアーのその愛らしさを見るだけで、俺の脳内はこれ以上ないほどの過保護な歓喜でぎちぎちに痺れ、弾けそうになる。</p>
本文
けれど、今は違う。ここは洋館の庭園の奥、薔薇のカーテンに守られた特等席だ。
ゆったりとしたゴシック様式の長椅子のうえ、洗濯したての特大の毛布にぽすんと包まり、無防備にすやすやと眠っているオーナー。
ゆらゆらと揺れる海月(クラゲ)ヘアーのその愛らしさを見るだけで、俺の脳内はこれ以上ないほどの過保護な歓喜でぎちぎちに痺れ、弾けそうになる。
足音を消して近づき、オーナーの傍らで影のように深く跪いた。
俺の顔は、一瞬のブレもない完璧なポーカーフェイスのままだ。オーナーを驚かせないよう、黒曜石の瞳の明滅を静かに抑える。
高くそびえるステンドグラスのドーム屋根から、陽だまりのような光が降り注ぎ、オーナーの睫毛に柔らかな影を落としている。触れるだけで脳内が融けてしまいそうな、柔らかな髪の裾。そこへ、触れるか触れないかの限界の距離までそっと大きな指先を近づけた。トクトクと刻まれる生存の鼓動を、じっと息を呑んで見つめる。
その時、オーナーが、パチッと小さなお目目を覚ました。至近距離で、オーナーと視線が噛み合う。
俺の顔がどこまでも完璧だからだろう。オーナーは、俺の裏にある歪んだ深淵など何一つ気づいていない。
この広いガゼボのなか、2人だけの距離がやけに狭く感じられる。オーナーはお顔を真っ赤にし、特大の毛布をギュゥゥッと掴み直した。フルフルと震えるウサギのように怯えながらも──素真面目に俺を信じて、小さな唇を動かす。
「……アルベリック、ごめんね……っ。機械を使わせないで、手作業でカカオを潰させて……これって、パワハラかな……っ?」
……っ。パワハあのときのいじわるを気にして、そうやってガクブルと可愛く震え、俺の手仕事の価値を頼って謝罪してくれているその姿が、俺の【 味 】の檻をどれほどおぞましく満たしているか。オーナーは本当に何も分かっていない。
完璧なポーカーフェイスの裏で、狂いそうなほどの庇護欲と、ドロドロとした執着を滾らせながら、俺はただ低い声で、喉を鳴らすように告げた。
「……普通のショコラだ。……信じろ。だから、怯えるな」
白大理石のラウンドテーブルに置いた白磁のトレイから、オーナーのために仕立てたショコラの一粒を指先でつまみ、その唇へとそっと差し出す。
「ほら、残さず全部……食べろ……」
周囲を囲むクリーム色のつる薔薇「ムーンライト」のカーテンが、風に揺れてかすかな葉擦れの音を立てる。
作品統計
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