日常編 ―― L'Ordinaire:【白銀のまどろみ、高級人形(ドール)の作法と深愛の刻印】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/12 📚 シリーズ: 『 カフェ・ド・レクリプス 』(Café de l'Éclipse) 📝 1,029文字 ✅ 全年齢

あらすじ

<p> アルベリックお兄様がその不器用な執念を『味(ショコラ)』へと泥臭く練り上げ、ジェラルドお兄様がその大人のずるさで『香り(珈琲)』の檻を仕立てているのだとしたら――。</p><p> この地上二階の最深部、妖艶に明滅する<strong>『開かずの扉の魔法陣』</strong>の向こう側で、あの方のお世話を許されているわたくしは、あの方のすべてをこの胸に閉じ込めるための、美しい【 視覚(まなざし) 】の檻を司る職人だ。</p><p> 外の世界を鉄壁に遮断する静寂のなか、ソファを包むお洗濯したての特大の毛布のなかは、完璧な白銀の静寂に満ちていた。</p>

本文

エレーヌ

 アルベリックお兄様がその不器用な執念を『味(ショコラ)』へと泥臭く練り上げ、ジェラルドお兄様がその大人のずるさで『香り(珈琲)』の檻を仕立てているのだとしたら――。

 この地上二階の最深部、妖艶に明滅する『開かずの扉の魔法陣』の向こう側で、あの方のお世話を許されているわたくしは、あの方のすべてをこの胸に閉じ込めるための、美しい【 視覚(まなざし) 】の檻を司る職人だ。

 外の世界を鉄壁に遮断する静寂のなか、ソファを包むお洗濯したての特大の毛布のなかは、完璧な白銀の静寂に満ちていた。

 わたくしは、最高級の白猫ラグドールがその身を完全に委ねるかのように、最愛にして支配者であるオーナーのお膝の上、その小さな胸元へとそっと身を寄せ、あたたかい生存確認――スヤスヤという規則正しい寝息を五感でじっと受信していた。

 自分からは物欲しそうにおねだりは絶対にしない。月光に洗われた高級アンティーク人形のように冷たく、ただ無機質な気品を纏って佇むこと。それこそが、あの方に捧げるべき完璧なメイドの作法。

 けれど、その甘いまどろみの静寂が、ふわりと心地よく崩れ去ったのは、まさにその時あのお方が、毛布のなかでフルフルと小さなお肩を揺らし、これ以上なく愛らしいふにゃ、としたお顔のまま、うっすらとトロンとした瞳を開けられたのだ。

オーナー:「……ん……、……エレーヌ……?」

 寝ぼけて掠れたお声を小さく零しながら、パーカーの袖口からすっと覗いた白くて小さな指先が、わたくしのクラシカルメイド服の袖を、きゅ、と弱々しく、けれど愛おしい執念を込めて掴み引き寄せた。

 ――っ、……。

 その刹那、わたくしの長い睫毛に縁取られた『ミルキー・アクアマリン』の双眸が、音もなく見開かれる。

 霧がかった氷のように淡いブルーの視線は、わたくしの袖を掴むあなた様の白くて小さな指先、そしてふにゃっと綻んだ可憐な口元を、逃がさない執念のままに網膜の奥へと焼き付けていく。

 他のお兄様たちのノイズや、現世のいかなる他人の視線にも、この美しいあなたを絶対に触れさせたくない。すべてわたくしのこの瞳の奥だけに、永久に刻印して独占してしまいたい。

 そんな胸の奥の猛毒のような衝動は、一文字も唇からは漏らさない。わたくしはただ、どこまでも優しく、あなた様を甘やかすように身を寄せた。

 エレーヌ:「――はい、オーナー。わたくしは、どこへも行きませんわ。……ずっと、あなた様のお傍におります」だった。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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