道に唾を吐け ―goddamn street―
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。
本文
いったい何時の頃からだろう。理由もなく心が急かされる十一月の午後には、決まってひどい憂鬱におそわれたものだ。夕暮れになると苦しみはいや増して、憂鬱に逆らうように凶暴になり、それでも微動だにできず、反動からか、いつまでもとめどなく鼻血を流し続けることさえあった。
低く垂れ込めた空。
頭を押しつぶされたように真横にたなびく煙。
やがて降りしきる雨と、この季節にしては度を越した厳しい寒気が、骨の髄まで男を凍えさせる。
地縛霊はガードレールの歩道側で座禅を組んでいた。支柱に針金で結び付けられた空き缶の中で手向けの花が枯れ果てている。
悟りを開いたら成仏できるかと思って。
幽霊には無理じゃないのか。
女子高生の地縛霊は結跏趺坐をくずさずに小首をかしげる。
車道側へ行けよ。通行人を気遣って自分を危険にさらしてますよってな。
車がきたら怖いだけ。危なくなんかないよ。
幽霊だから、邪魔じゃないでしょ。
交通事故だったのか?
うん。
ずいぶん前?
五年。臈長けた顔を仰向ける。
確かそれくらい。
よくわかんない。
ルーズソックスをはいているから、もっと前なのかもしれない。
長いな。
そうお。
あそこの空き地に埋まってる子なんて、まだ死体からでてこようとしないわ。とっくに白骨化してるのに。
あなたお父さんでしょ。なんとかしてやりなよ。
きっと待ってるんだよ。
見ていたのか。
ずっと。
あなたが穴を掘って、あの子を隠すように抱えてきて、埋めてしまうまで。
殺したんでしょ。そんな人でも、父さんなんだ。だから待ってるのね。だしてあげてよ。いつまでも死体から離れないから、あたし、あの子の名まえも知らないんだ。
女子高生の地縛霊はそう言ったきり、横を向いて黙った。
急に雨が強くなった。