五夜「突破」
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あらすじ
現実世界の裏側に存在する、もう一つの世界――夜界。 そこに暮らす電機怪人たちを巡り、高校生・月見つばさはナイトオウルへと変身する。 夜界の統制を目指す黒羽レイナ、そして夜界そのものを破壊しようとするナイトクロウ・ダーク。 異なる目的を持つ三人の少女が、夜界で交錯していく。 少女たちが出会う、もうひとつの夜。
本文
洗濯機型のコピー電機怪人が、正面から迫ってきた。
ナイトオウルは剣を構え、回転する円形装甲を受け流そうとする。しかし、その瞬間、背後から掃除機型の怪人が吸引口を向けた。
足元の砂利や小さな破片が、一斉に後方へ引き寄せられる。
「……っ!」
身体がわずかに引っ張られた。
その隙を逃さず、洗濯機型の回転槽が勢いを増す。ナイトオウルは剣を横にして受け止めたが、衝撃を逃がしきれず、道路の上を数メートル押し戻された。
そこへ、左手の路地からエアコン型の怪人が冷気を放つ。
白い霧が地面を這い、ナイトオウルの足元を覆った。装甲の表面に薄い霜が浮かび、踏み込もうとした脚が滑る。
さらに、テレビ型の怪人の頭部にある画面が、不規則な光を放った。
視界が乱れる。
街灯の明かりがちらつき、周囲の景色が一瞬だけ歪んだように見えた。四体の位置を見失いかけたナイトオウルの側面へ、洗濯機型の腕が振り下ろされる。
「……くっ!」
翼を広げ、かろうじて攻撃をかわす。
しかし、逃げた先には掃除機型が待ち構えていた。
吸引によって身体を引き寄せられたところへ、エアコン型の冷気が吹きつける。ナイトオウルの動きが鈍った瞬間、洗濯機型が再び突進してきた。
剣を振るう余裕すらない。
四体は、ただ同時に攻撃しているわけではなかった。
一体が動きを制限し、別の一体が隙を作り、残る二体がその隙を確実に突く。誰かが攻撃を外しても、別の怪人がすぐに追撃へ移る。
まるで、四体で一つの生き物であるかのようだった。
「……敵……行動……制限」
「……排除……実行」
テレビ型の画面が明滅する。
ナイトオウルは剣を振り、掃除機型を牽制しようとした。だが、刃が届くより早く、エアコン型の冷気が腕を覆う。
剣を握る手がわずかに止まった。
その一瞬に、洗濯機型の攻撃が胸部を直撃した。
「ぐっ……!」
身体が宙に浮き、砕けた石柱の残骸へ叩きつけられる。衝撃で破片が散り、ナイトオウルの翼が地面に広がった。
立ち上がろうとする。
しかし、脚に力が入らなかった。
テレビ型の画面が、ナイトオウルを正面から捉える。掃除機型の吸引口が唸り、エアコン型が冷気を溜め込む。そして、洗濯機型の回転槽が、これまで以上の速度で回転を始めた。
四方向から、逃げ道を塞がれている。
「……まずい……」
ナイトオウルは剣を支えにして、どうにか上半身を起こした。
このままでは、次の攻撃を受けきれない。
レイナは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
「……これまでの怪人とは違うでしょう?」
返事をする余裕はなかった。
「一体ずつなら、あなたにも対処できる。でも、四体が互いを補い合えば話は別」
レイナは淡々と続けた。
「あなたは、目の前の相手にばかり気を取られすぎるのよ」
洗濯機型が、最後の一撃を放とうと腕を引いた。
ナイトオウルは剣を握り直す。
だが、腕が上がらない。
そのときだった。
「……待って」
レイナの声が、怪人たちを止めた。
洗濯機型の腕が、ナイトオウルの頭部へ届く直前で静止する。ほかの三体も動きを止め、無機質な光をレイナへ向けた。
「……命令……確認」
「もういいわ」
レイナはナイトオウルを見下ろした。
「今日はここまで」
ナイトオウルは、警戒を解かないまま顔を上げた。
「……どうして?」
「あなたには、まだ利用価値があるもの」
その言葉に、つばさは息を呑んだ。
レイナは少しも悪びれなかった。
「……私は、あなたのために戦っているんじゃない」
レイナが手を下ろす。
四体のコピー電機怪人は、紫色の光に包まれながら後退していった。洗濯機型を先頭に、掃除機型、テレビ型、エアコン型が次々と暗がりへ消えていく。
最後に、レイナが背を向けた。
「考えておくといいわ。あなたが本当に守りたいものは何なのか」
返事を待つことなく、彼女の姿も夜の街から消えた。
残されたナイトオウルは、しばらくその場を動けなかった。
敗北した。
そう認めるほかなかった。
四体を相手にして、自分はほとんど何もできなかった。守るべきものを見つけ、危険なものを止める。それが自分の役目だと思っていた。
けれど、役目を果たすための力が足りなければ、守ることさえできない。
「……もっと、考えないと」
ナイトオウルは、砕けた石柱に手をついて立ち上がった。
夜界の街は、何事もなかったかのように静まり返っていた。
その静けさが、今はひどく遠く感じられた。
*
翌日の昼休み。
つばさは、弁当箱の蓋を開けたまま、箸を止めていた。
目の前では、葵が卵焼きを口に運んでいる。美咲は購買で買ったパンを片手に、午後の授業について何か話していた。
「それでさ、先生が急に当ててくるんだよ。もう、こっちはお昼休みなんですけどーって感じ!」
「美咲、さっきも同じこと言ってたよ」
「大事なことだから二回言いました!」
いつものやり取り。
いつもの教室。
それなのに、つばさの意識は昨夜の戦闘から離れなかった。
洗濯機型が正面から迫る。その動きを避けようとすれば、掃除機型に引き寄せられる。距離を取ろうとすれば、エアコン型の冷気が行く手を塞ぎ、テレビ型が視界を乱す。
どこへ動いても、別の攻撃が待っていた。
自分が一体ずつを倒すことばかり考えていたから、四体全体の動きを見られなかったのだろうか。
「……つばさ?」
葵の声で、つばさは我に返った。
「……なに?」
「さっきから、あんまり食べてないけど。眠い?」
「ううん。ちょっと考え事」
「そっか。無理しないでね」
葵は、それ以上聞かなかった。
以前のつばさなら、その気遣いにほっとしていたかもしれない。心配をかけずに済んだ、と。
けれど今は、何も話さずにいることが、少しだけ重かった。
昨夜のことを話せるわけではない。夜界のことも、ナイトオウルのことも、簡単には打ち明けられない。
それでも、自分が何も言わないことで、葵に余計な心配をさせているのではないか。
そう考えるようになったのは、いつからだろう。
「……ありがとう」
「えっ?」
「心配してくれて」
葵は一瞬きょとんとしたあと、柔らかく笑った。
「うん。そりゃ、するよ」
その言葉に、つばさは小さく頷いた。
守るというのは、危険を遠ざけることだけではないのかもしれない。
そんな考えが、胸の奥に浮かんだ。
そのとき、教室の入り口から声がした。
「ミナト、いる?」
短い声だった。
つばさが顔を上げると、扉のところに一人の女子生徒が立っていた。
黒い髪を短く整え、少し気だるそうな表情を浮かべている。制服は着ているものの、普段から教室で見かけることは少ない。
鴉城カナデ。
つばさも名前と顔は知っていた。以前、廊下ですれ違ったこともある。けれど、まともに話したことはほとんどなかった。
「カナデ!」
ミナトが顔を上げた。
「珍しいね。今日は来てたんだ」
「用事があっただけ」
「そっか。ちょうどよかった」
ミナトは弁当箱を脇へ寄せ、カナデに手招きした。
「日曜日、空いてる?」
「……何?」
「二人で遊びに行かない? 前に話してたところ、気になってたんだよね」
カナデは少しだけ目を細めた。
「……別に、いいけど」
「やった。じゃあ、あとで行く場所決めよう」
「急に決めるんだね」
「だって、カナデが来るか分からなかったし」
ミナトはいつもの落ち着いた調子で答えた。
そのやり取りに、美咲がすかさず身を乗り出す。
「えー、日曜日? 私も行きたい!」
「美咲も来る?」
「行く行く! ……って言いたいんだけど、日曜日は演劇部の助っ人頼まれてるんだった……」
美咲は大げさに肩を落とした。
「うわー、なんでこういうときに限って!」
「美咲は、また今度ね」
「約束だからね、ミナちー!」
「はいはい」
ミナトは軽く手を振った。
カナデはその様子を眺めていたが、特に口を挟むことはなかった。
つばさは、彼女の横顔を見つめていた。
カナデとは、以前から顔を知っている。けれど、彼女がどんなことを考え、何を大切にしているのかは知らない。
夜界で会ったレイナもそうだった。
自分が相手を知らないまま、相手の行動だけを見て判断していることは、思っていた以上に多いのかもしれない。
「……月見」
不意に、カナデがこちらを見た。
「……なに?」
「考え事?」
あまりにも簡潔な問いかけだった。
「……まあ、そんなところ」
「そう」
カナデはそれだけ言うと、ミナトへ向き直った。
「じゃあ、日曜日。連絡して」
「うん、あとで送るね」
カナデは教室を出ていった。
つばさは、その背中をしばらく見送っていた。
「カナデ、相変わらず学校に来る日少ないよねー」
美咲がパンの袋をたたみながら言った。
「でも、来たときは普通に話すよ。ミナトとも前から仲いいし」
葵がそう付け加える。
「……そうなんだ」
つばさは、もう一度弁当箱に目を落とした。
知らないことは、まだたくさんある。
だからといって、すべてを知ることはできない。誰かの事情を、勝手に決めつけることもできない。
それでも、知ろうとすることならできる。
つばさは箸を持ち直した。
今夜は、昨日と同じ戦い方をしない。
そう決めた。
*
放課後、つばさは教室に残り、机の上を片づけていた。
窓から入る風が、机の端に置かれたプリントを揺らしている。
一枚が床へ落ちかけた。
つばさは手を伸ばしかけたが、その前に葵がプリントを押さえた。
「危なかった」
「……ありがとう」
「風、強くなってきたね」
葵が窓を少し閉める。
そのとき、廊下の向こうから掃除機の音が響いてきた。清掃当番の生徒が、床の埃を吸い取っているらしい。
掃除機の吸い込み口が紙くずを吸い込むたび、軽い音がした。
つばさは、その音に耳を傾けた。
吸い込む力は、正面にあるものにしか働かない。
風は、吹き出す方向へ流れる。
そして、プリントが揺れていたのは、風が吹いていたからだけではない。窓の開き方によって、風の通り道が変わっていた。
「……そっか」
「ん? どうしたの、つばさ?」
「……ううん。ちょっと、分かった気がする」
つばさはプリントを拾い上げ、机の上に揃えた。
四体は、それぞれ異なる力を持っている。
けれど、その力は万能ではない。吸引には向きがあり、冷気には届く範囲がある。視界を乱す攻撃にも、影響する場所と時間がある。そして、回転による突進は、勢いがあるほど方向を変えにくいはずだ。
それぞれの能力を個別に考えるのではなく、四体が互いを補うために何をしているのかを見る。
そうすれば、連携の中に隙が生まれる。
つばさは、ようやくその入り口に立った気がした。
「葵」
「なに?」
「……ううん、なんでもない。」
葵は目を丸くしたあと、すぐに笑った。
「? そっか。」
昨夜の敗北は、消えない。
それでも、敗北したからこそ見えたものがある。
自分にはまだ足りないものがある。けれど、それを理由に立ち止まる必要はない。
*
夜。
二つの月が浮かぶ夜界に、つばさは再び足を踏み入れた。
街灯の光が、静かな街路を照らしている。つばさは昨日の戦場へ向かいながら、四体のコピー電機怪人の能力を思い返していた。
洗濯機型の回転する装甲。掃除機型の吸引力。テレビ型の視界を乱す信号。エアコン型の冷気。
それぞれの能力に対処するだけでは、四体の連携を崩せない。
ならば、互いの攻撃が干渉するように仕向ける。
つばさは、そう考えていた。
やがて、壊れた石柱の並ぶ広場へたどり着く。
そこには、四体のコピー電機怪人が待ち構えていた。
「……敵……再発見」
テレビ型の画面が明滅する。
「……排除……再開」
つばさは静かに息を吐き、オウルブレスに手をかけた。
「……ナイト・オン!」
白い光が彼女を包み込み、機械仕掛けの翼と装甲がその身に展開する。
夜の街に、白いフクロウの戦士が立ち上がった。
四体が一斉に動き出す。
洗濯機型が正面から突進し、掃除機型が背後から吸引を始める。エアコン型は距離を取り、テレビ型は画面を点滅させた。
ナイトオウルは、正面から迫る洗濯機型を引きつけた。
回転槽が唸りを上げる。
攻撃が届く直前、ナイトオウルは横へ跳んだ。洗濯機型の巨体が通り過ぎる。その進路の先には、掃除機型がいた。
二体がぶつかりそうになり、動きが乱れる。
ナイトオウルは、その隙に掃除機型へ斬りかかった。
刃が側面の装甲を捉え、火花が散る。
しかし、背後から冷気が迫った。
「……っ!」
ナイトオウルは振り返る間もなく、翼を広げて身をひねった。冷気の直撃こそ避けたものの、左腕の装甲が白く曇り、動きが鈍る。
テレビ型の画面が強く明滅した。
視界が歪む。
その隙を突いて、洗濯機型が再び突進してきた。
ナイトオウルは身を沈めてかわそうとしたが、反応がわずかに遅れた。巨体が肩をかすめ、装甲に鈍い衝撃が走る。
地面を転がりながらも、彼女はすぐに立ち上がった。
「……やっぱり、簡単にはいかないね」
四体の連携は、昨日と変わらず厄介だった。
それでも、ナイトオウルは慌てなかった。
洗濯機型が突進するたび、掃除機型はその進路を空けるように動く。エアコン型は冷気で逃げ道を塞ぎ、テレビ型は視界を乱して攻撃の瞬間を隠していた。
四体が互いの動きを補っている。
ならば、その連携を崩せばいい。
ナイトオウルは、石柱の陰へ走った。
掃除機型が吸引を始める。周囲の砂埃や破片が吸い寄せられ、石柱の表面を滑っていった。
ナイトオウルは柱の陰から飛び出し、吸引口の向きが変わる直前に横へ跳ぶ。
吸引された破片が、背後にいた洗濯機型へ飛んでいった。
洗濯機型は回転槽を回して破片を弾き飛ばしたが、その間、突進を止めざるを得なかった。
ナイトオウルは、その一瞬を使って距離を詰める。
剣が洗濯機型の側面を斬りつけた。
「……回転……異常」
回転槽の動きが乱れる。
しかし、エアコン型がすぐに冷気を放った。ナイトオウルは後退したものの、左腕の動きがまだ戻っていない。避けきれなかった冷気が装甲をかすめ、肩から背中にかけて鈍い衝撃が走った。
思わず片膝をつく。
その正面で、テレビ型の画面が明滅した。
「……照準……固定」
視界が揺れる。
ナイトオウルは歯を食いしばり、敵の姿を追うのをやめた。
代わりに、足音と攻撃音に意識を集中させる。
洗濯機型の重い足音。掃除機型の吸引音。エアコン型の冷気が流れる音。
テレビ型の画面が明滅する直前には、短い電子音が響く。
それを聞き取った瞬間、ナイトオウルは身を低くした。
洗濯機型の腕が頭上を通り過ぎる。
彼女はその腕をくぐり抜け、テレビ型へ向かって走った。
テレビ型の画面が強く光る。
ナイトオウルは、光が弱まる瞬間を待った。
「……そこ!」
画面の明滅が途切れた一瞬、剣を振り下ろす。
刃が画面装甲を捉え、ひびが走った。
「……信号……異常……」
テレビ型がよろめく。
その直後、エアコン型が冷気を放った。だが、テレビ型の機能が乱れたためか、攻撃の向きがわずかにずれていた。
冷気はナイトオウルを外れ、洗濯機型へ吹きつける。
装甲が白く曇り、動きが鈍る。
ナイトオウルはすかさず踏み込み、テレビ型へ追撃を加えた。
剣の一閃が、ひび割れた画面を切り裂く。
「……排除……失敗……」
テレビ型の身体が紫色の光に包まれ、粒子となって消えていった。
残るは三体。
ナイトオウルは息を整えた。肩の装甲には傷がつき、左腕の動きも完全には戻っていない。
まだ余裕があるとは言えなかった。
それでも、四体が同時に攻撃してくる状況は変わった。
視界を乱すテレビ型がいなくなったことで、敵の動きを読みやすくなっている。
ナイトオウルは洗濯機型を見据えた。
回転槽は冷気の影響で動きが鈍くなっている。そこへ、ナイトオウルは再び石柱の間を走った。
洗濯機型が追いかけてくる。
巨体が石柱の間を通り抜けようとした瞬間、ナイトオウルは横へ飛び退いた。
洗濯機型の腕が石柱にぶつかり、鈍い音とともに表面が砕けた。
その反動で、回転槽の動きが一瞬止まる。
ナイトオウルは、その隙に側面へ回り込んだ。
剣を振り抜く。
刃が回転槽を支える装甲を捉え、火花が散った。
「……回転……停止……」
洗濯機型がよろめき、胸部の光が明滅する。
ナイトオウルは距離を取って体勢を立て直した。そこへ掃除機型が吸引を始める。
今度は、逃げる方向を変えた。
吸引口の正面を避けるように走り、石柱を挟んで掃除機型の向きを誘導する。
吸引された破片が、エアコン型の羽根状装甲へぶつかった。
エアコン型が動きを止める。
ナイトオウルはその隙に掃除機型へ踏み込み、剣で吸引口の根元を斬りつけた。
「……吸引……停止……」
掃除機型の動きが乱れ、紫色の光を散らしながら消えていく。
残るは二体。
ナイトオウルは剣を握り直した。
左腕には、まだ冷気による痺れが残っている。肩の痛みも消えてはいない。
それでも、敵の連携は崩れ始めていた。
洗濯機型は回転槽の機能を失い、エアコン型は羽根状の装甲を広げたまま、攻撃のタイミングをうかがっている。
ナイトオウルは、あえてエアコン型へ向かって走った。
冷気が広場を覆う。
彼女は翼を広げて上昇し、冷気の流れを斜めに受け流した。完全に避けきることはできず、脚部の装甲が白く曇る。それでも、勢いを失わずにエアコン型の頭上を越えた。
着地と同時に反転する。
「……これで、終わり!」
剣が胸部を斬り裂いた。
「……冷却……停止……」
エアコン型の身体が崩れ、粒子となって消えた。
最後に残った洗濯機型が、ナイトオウルへ向き直る。
回転槽は壊れ、動きも鈍い。それでも、怪人は最後の力を振り絞るように突進してきた。
ナイトオウルは剣を構えた。
真正面から受け止めれば、傷ついた身体では耐えきれないかもしれない。
彼女は、ぎりぎりまで引きつけた。
そして、横へ踏み出す。
洗濯機型の突進が空を切った。
ナイトオウルはすれ違いざまに剣を振るう。刃が胸部を捉え、紫色の光が大きく明滅した。
「……排除……失敗……」
洗濯機型は数歩よろめき、やがて光の粒となって消えていった。
広場に静寂が戻る。
ナイトオウルは剣を下ろした。肩の装甲には傷が残り、左腕もまだ少し動かしにくい。
決して無傷の勝利ではなかった。
けれど、四体の連携を崩し、最後まで戦い抜いた。
彼女は、四体が消えた場所を見つめた。
「……相手のことを、ちゃんと見ないとね」
昨日は、自分の目の前にいる敵を倒すことばかり考えていた。
今日は、四体の位置や攻撃の向き、それぞれの能力がどう影響し合うのかを考えた。
その違いが、勝敗を分けたのだろう。
ナイトオウルは剣を収め、変身を解いた。
つばさは傷ついた肩を押さえながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……次は、もっと上手くやろう」
敗北の悔しさは、まだ残っている。
それでも、何もできなかった昨日とは違う。
自分には、まだできることがある。
つばさはそう考えながら、広場を後にした。
*
夜界の別の場所。
レイナは、手元の小さな観測装置を見つめていた。
四体のコピー電機怪人からの反応は、すべて途絶えている。
「……四体とも、倒したのね」
彼女は淡々と呟いた。
そのとき、レイナはどこかへと歩いて行く小さな姿を目にした。
それは夜界と人間の世界を隔てるエリア、「境界」の方へ向かう、ある原生電機怪人だった。
レイナは眉をひそめる。
「……どうして、そちらへ?」
短く呟いたあと、彼女は記録を保存した。
まだ、確かなことは何も分からない。
ただ、その個体の動きには、いつもと違う何かがあった。
作品統計
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