瓜《うり》二つ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。
本文
昔々、或る所に年寄りの長者が居りました。このあたりの大地主だったので暮しには困りませんでしたが、二人には子供がありませんでした。そこで木製の人形を息子にし、もう一体を嫁に迎えて、家の仕事を仕切らせていました。木偶の息子夫婦はひとことも喋りませんでしたが、よく働きました。
ある晩、木偶の夫婦の幹から芽が生え、眠っている間に蔓がするすると伸びてお互いに絡みつき、朝には象の耳の様に大きな白い花を咲かせ、そして夕方には透き通った青緑色の実をつけました。やがて楕円形の実がぱっくりと割れて、生まれたのは果肉よりも白い肌の女の児だったのです。
瓜から生まれた赤ん坊はうりこひめと名付けられ、跡継ぎとして大切に育てられました。
十年経ったある日の事、
ひいら ひいら ふうは
とお囃子の笛の音が聞える村のお祭です。
うりこひめが庭の柿の木を仰ぐと、そこに見つけたのはあまのじゃくの姿でした。
腰蓑一つという恰好で、枝の上で軽々と身を躍らせながら、口笛を吹いていたのでした。
髪は黒く、肩を越えて腰まで届くほど長く、肌はうりこひめと同じほど白くて、はて、この年頃では、男なのか女なのか、判りません。
ひいら ひいら ふうは
あまのじゃくはとても上手に口で笛の音を真似したので、うりこひめは喜んで、こちらへおいでと呼び寄せました。
ひいら ひいら ふうは
お祭りが終ってしまっても、あまのじゃくが居てくれるといつでもお囃子の笛を鳴らして、また始められるのでした。
お祭は楽しい事なので、うりこひめはいつもそうだと嬉しいのです。
よく見るとあまのじゃくはうりこひめとそっくりでした。
木偶の両親が思わず、
か かぽん
と手を打ったほど、姿かたちが似ていたのです。
同じ姿をしているのに野良に置いてはと、お爺さんお婆さんはあまのじゃくを哀れに思い、家に置くことにしたのでした。
月日が経ち、都から貴族の男が鷹狩りにやって参ります。あまのじゃくの口笛に誘われたのかもしれません。
ひいら ひいら ふうは
野山では、あまのじゃくの笛の音にあわせて、獣が無邪気に踊っていたのです。
鷹を飛ばせば獲物のない日はありません。男はたちまち狩りに飽いて、うりこひめに目を付けました。
貴族の男はたいそう力のある家柄の総領でした。鷹で獣を狩るように、男は人を遣わしてうりこひめに求婚しました。
飾り立てた車二台分の贈り物は途轍もなく高価な品物ばかりでした。
もとより言葉を発する事のない両親と、不自然に押し黙った年寄りを前に、うりこひめは泣く泣く首を縦に振りました。逆らえば木子と木太郎は竈の薪に、祖父母はものうげ谷の新田に生き埋めにされてしまうでしょう。
ひいら ひいら ふうは
雪が降ります。
ひいら ひいら ふうは
笛の音は絶え、獣の姿も見えません。
うりこひめは駕籠に乗せられて、たいせつな荷物のように、都へと運ばれます。
ゆらり ゆうらり
お供の衆をひきつれて古式ゆかしい駕籠の旅、貴族の家へ嫁入りです。柿の木が降り積り、雪が枯れ、茅葺屋根が棚引く懐かしい景色が遠ざかります。
駕籠に乗っているのはあまのじゃくでした。
二人は何処までもそっくりだったので、しょっちゅう入れ替わっては両親や祖父母をからかって遊んでいたのです。
都に着くと、あまのじゃくは正体を顕わして、あっという間に貴族の一族郎党を皆殺しにしてしまいました。
化物だ、鬼だ、妖狐だと都に騒ぎが広がるうちに、わらわらと、武士の群れが、燃える館を囲みます。
うりこひめの着物を脱いで、腰蓑一つ、庭の木のてっぺんから見下ろしているあまのじゃくの表情は、炎の反映を受けてはっきりと、笑っているのが見えました。からからかららと笑う声が、武士ばかりか、野次馬の群集にも聞けたのでした。
篝火を焚き、手に手に弓と槍を持ち、腰には太刀を携えて、我こそは思う武士が、名をあげようと、怒声をあげて勢い込んで、あまのじゃくに攻めかかります。
ととん
木の上からあまのじゃくは雪の野に降り立ちます。
襲い来る武士たちを、片端から相手にして、
とてん からり
具足を断ちわり、刃を獲ってへし折ると、たちまちのうちに屠ってはまた、
たとてん と からり
降り掛かる矢を払いのけ、騎馬の者をも薙ぎ倒します。
残らず殺してしまうと、あまのじゃくは仕様がないのでひとり遊びを始めます。
とてん からり
息絶えてくたりくたりと力無い体をちぎっては投げ、首をお手玉、胴を蹴鞠、血飛沫で雪に深紅の川の綾織を作りなします。
夜が明けて、くもり空。
ひいら ひいら ふうは
あまのじゃくの口笛が聞えると、空は一転、御簾を巻いたように晴れ渡り、梢に残る雪の塊はさらさらとこぼれ、もういちど大気の中で膨らんで、日の光を浴びてきらきらと舞い上り、踊って、またゆっくりと降り積りました。
あまのじゃくに刈られた都の武士は、とらふり山の柿の木に生る実の数を下るまい、と伝わります。
見送るものは野次馬一匹居りません。
あまのじゃくは村に帰って、お爺さんお婆さん木偶の両親とうりこひめとで末永く、幸せに暮らしたそうです。
というのも元から、庭の柿の木にあまのじゃくが住んでいるのを知っていたので、夫婦はうりこひめをあまのじゃくそっくりに産んだのでした。
今は、屋敷の跡は神社になって、名も知れぬ他処の神が祀られています。かつての広壮な家屋敷と比べたら、現在に残る社の姿は見る影もありません。が、往時を偲ぶよすがとなる物が一つだけあります。
鳥居の両脇を護るのは、狛犬ではなく磨かれた丸い石。
瓜二つです。