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瓜《うり》二つ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/1 📚 シリーズ: 異伝記 📝 2,666文字 ✅ 全年齢

あらすじ

連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。

本文

 昔々、或る所に年寄りの長者ちょうじゃが居りました。このあたりの大地主だったので暮しには困りませんでしたが、二人には子供がありませんでした。そこで木製の人形を息子にし、もう一体を嫁に迎むかえて、家の仕事を仕切らせていました。木偶でくの息子夫婦はひとことも喋しゃべりませんでしたが、よく働きました。

 ある晩、木偶でくの夫婦の幹みきから芽が生え、眠っている間に蔓つるがするすると伸びてお互いに絡からみつき、朝には象の耳の様に大きな白い花を咲かせ、そして夕方には透き通った青緑色の実をつけました。やがて楕円形だえんけいの実がぱっくりと割れて、生まれたのは果肉よりも白い肌の女の児だったのです。

 瓜うりから生まれた赤ん坊はうりこひめと名付けられ、跡継あとつぎとして大切に育てられました。

 十年経たったある日の事、

  ひいら ひいら ふうは

 とお囃子はやしの笛の音が聞える村のお祭です。

 うりこひめが庭の柿の木を仰あおぐと、そこに見つけたのはあまのじゃくの姿でした。

 腰蓑こしみの一つという恰好で、枝の上で軽々と身を躍おどらせながら、口笛を吹いていたのでした。

 髪は黒く、肩を越えて腰まで届くほど長く、肌はうりこひめと同じほど白くて、はて、この年頃では、男なのか女なのか、判りません。

  ひいら ひいら ふうは

 あまのじゃくはとても上手に口で笛の音を真似まねしたので、うりこひめは喜んで、こちらへおいでと呼び寄せました。

  ひいら ひいら ふうは

 お祭りが終ってしまっても、あまのじゃくが居てくれるといつでもお囃子はやしの笛を鳴らして、また始められるのでした。

 お祭は楽しい事なので、うりこひめはいつもそうだと嬉しいのです。

 よく見るとあまのじゃくはうりこひめとそっくりでした。

 木偶でくの両親が思わず、

  か かぽん

 と手を打ったほど、姿かたちが似ていたのです。

 同じ姿をしているのに野良に置いてはと、お爺さんお婆さんはあまのじゃくを哀れに思い、家に置くことにしたのでした。

 月日が経たち、都から貴族の男が鷹狩りにやって参ります。あまのじゃくの口笛に誘われたのかもしれません。

  ひいら ひいら ふうは

 野山では、あまのじゃくの笛の音にあわせて、獣けものが無邪気に踊っていたのです。

 鷹を飛ばせば獲物のない日はありません。男はたちまち狩りに飽いて、うりこひめに目を付けました。

 貴族の男はたいそう力のある家柄の総領そうりょうでした。鷹で獣けものを狩るように、男は人を遣つかわしてうりこひめに求婚しました。

 飾り立てた車二台分の贈り物は途轍とてつもなく高価な品物ばかりでした。

 もとより言葉を発する事のない両親と、不自然に押し黙った年寄りを前に、うりこひめは泣く泣く首を縦に振りました。逆らえば木子きこと木太郎きたろうは竈かまどの薪まきに、祖父母はものうげ谷の新田しんでんに生き埋めにされてしまうでしょう。

  ひいら ひいら ふうは

 雪が降ります。

  ひいら ひいら ふうは

 笛の音は絶え、獣けものの姿も見えません。

 うりこひめは駕籠かごに乗せられて、たいせつな荷物のように、都へと運ばれます。

  ゆらり ゆうらり

 お供の衆しゅうをひきつれて古式ゆかしい駕籠かごの旅、貴族の家へ嫁入りです。柿の木が降り積り、雪が枯れ、茅葺かやぶき屋根が棚引たなびく懐なつかしい景色が遠ざかります。

 駕籠かごに乗っているのはあまのじゃくでした。

 二人は何処どこまでもそっくりだったので、しょっちゅう入れ替わっては両親や祖父母をからかって遊んでいたのです。

 都に着くと、あまのじゃくは正体を顕あらわして、あっという間に貴族の一族郎党いちぞくろうとうを皆殺しにしてしまいました。

 化物ばけものだ、鬼おにだ、妖狐ようこだと都に騒ぎが広がるうちに、わらわらと、武士の群れが、燃える館を囲みます。

 うりこひめの着物を脱いで、腰蓑こしみの一ひとつ、庭の木のてっぺんから見下ろしているあまのじゃくの表情は、炎の反映を受けてはっきりと、笑っているのが見えました。からからかららと笑う声が、武士ばかりか、野次馬の群集にも聞けたのでした。

 篝火かがりびを焚たき、手に手に弓と槍を持ち、腰には太刀たちを携たずさえて、我こそは思う武士が、名をあげようと、怒声どせいをあげて勢いきおい込こんで、あまのじゃくに攻めかかります。

  ととん

 木の上からあまのじゃくは雪の野に降り立ちます。

 襲い来る武士たちを、片端かたはしから相手にして、

  とてん からり

 具足ぐそくを断ちわり、刃を獲ってへし折ると、たちまちのうちに屠ほふってはまた、

  たとてん と からり

 降り掛かる矢を払いのけ、騎馬の者をも薙なぎ倒たおします。

 残らず殺してしまうと、あまのじゃくは仕様がないのでひとり遊びを始めます。

  とてん からり

 息絶えてくたりくたりと力無い体をちぎっては投げ、首をお手玉、胴を蹴鞠けまり、血飛沫ちしぶきで雪に深紅の川の綾織あやおりを作りなします。

 夜が明けて、くもり空。

  ひいら ひいら ふうは

 あまのじゃくの口笛が聞えると、空は一転、御簾みすを巻いたように晴れ渡り、梢こずえに残る雪の塊はさらさらとこぼれ、もういちど大気の中で膨ふくらんで、日の光を浴びてきらきらと舞い上り、踊って、またゆっくりと降り積りました。

 あまのじゃくに刈られた都の武士は、とらふり山の柿の木に生る実の数を下るまい、と伝わります。

 見送るものは野次馬一匹居りません。

 あまのじゃくは村に帰って、お爺さんお婆さん木偶でくの両親とうりこひめとで末永く、幸せに暮らしたそうです。

 というのも元から、庭の柿の木にあまのじゃくが住んでいるのを知っていたので、夫婦はうりこひめをあまのじゃくそっくりに産んだのでした。

 今は、屋敷の跡は神社になって、名も知れぬ他処よその神が祀まつられています。かつての広壮な家屋敷と比べたら、現在に残る社やしろの姿は見る影もありません。が、往時おうじを偲しのぶよすがとなる物が一つだけあります。

 鳥居とりいの両脇を護まもるのは、狛犬こまいぬではなく磨みがかれた丸い石。

 瓜うり二ふたつです。

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々不狼児

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