(エピソード7)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。
本文
二子玉川神社には今も、双子のようにそっくりだったという、瓜子姫とあまのじゃくが生まれた卵の殻だけが残っている。一本だけぽつねんと樹木が立ち残っているのは大抵、禍々しい事件のあった場所であることが多い。痕跡としての記憶が呼び覚ますのは、きわめて不確かな事件である。
痕跡を読み違えるのは人間にはよくあることだ。
かつて入間川流域には性犯罪の容疑者が数百人いるとされていた。多少なりとも脛に傷を持つ容疑者が逮捕されるのだろうと推測していると、まったく無実の人間を逮捕してしまう警察の誤認能力こそ恐るべし。
真犯人を逃し、無実の人間を犯罪者に仕立て上げ、証拠を捏造してまで架空の記憶を守ろうとするのはなぜか。
草叢に放置された無辜の遺体が、彼らの嗜虐心を煽るからか。
犯罪を創りださなければ自分たちの心臓が止まってしまうと、無意識にも感じとっているからか。
いずれにしても実行者であるる犯人と、捜査する警察と、事実を認定する裁判所が深い共犯性のうちに物語を紡ぎはじめると、現実を生きる人間はいとも無力に巻き込まれ、恐れ慄きつつ、ただ轢き潰されるのを待つより他ない。
そう。魂とは権力者が自分たちに都合のいいように捏造した物語である。轢き潰される肉体は魂を持たない。消え去るだけだ。
それを、肉体の反乱を未然に防ぐために、あたかも魂があるかのように謀って、生者の最後の力を奪い取る。すべての証拠を虚無の底に放り込むのがその手口だ。
怪異譚とは権力が消し去った現実の事件の消息である。
起こり得たかもしれない肉体の反乱の、あえかな痕跡。
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