萎《な》え婆《ばばあ》
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。
本文
ババァが。めかしこみやがって。勘違いすんな。クソが。ダイヤの指輪? ピアスに真珠の首飾り。公園をお散歩するのにそんなもんいるか。だが、金は持っていそうだ。装身具は売れなくたって、誘拐すれば身代金が取れる。いい考えだ。そうだろ、相棒? あ、いや、あいつはもういないんだった。俺としたことが、死んだ奴のことなんか思い出すなんて。クソ、ババァが。花魁みたいにしゃなりしゃなり歩くからだ。死んだ相棒は歌舞伎の女形かと思うほど華奢で、陰気で、影の薄い野郎だった。俺が何か言ったって、はふん、と鼻から息を漏らしたっきり黙ってる。賛成なのかと思やあ、そうでもねえ。反対なのかと問い詰めると、じゃあやるよ、だって、そんな中途半端なこったから三下ヤクザに撃たれてくたばる破目になるんだよ。ああ、もう苛々するぜ。だからババァは金持ちだって。俺の獲物と即決めちまおう。八十か。いやもっと行ってる、九十か。力がないから抵抗できねえ。だが足腰は確かだ。ショックで即死するほど弱ってもねえ。遊歩道に人影はなかった。急がば急げだ。つかむと片手で持てるほどババァは軽い。だいたいこれほど着飾ってんだ、唇だって濡れてるし、しわくちゃな瞼の下から覗く眼はぎらぎらしてる。まだまだ性欲旺盛な、萎びて、ゆるんだ姥桜かもな。おっと、こりゃあカツラか。ケバい色だ。カツラを取ったらほとんど禿げだ。こりゃマジで百かもな。だからなんだよ。さっさとアジトに運び込んだ。おい、ババァ、うちはどこだ。身代金を要求してやる。 安心しろ。金さえもらえりゃ生きて返すさ。何ふるえてやがんだ? いいから、さあ、はけよ。うちはどこだって、聞いてんだ。入れ歯落として口がきけねえのか。あん? 家族だって見捨てやしねえよ。目撃者なんていねえから、警察に通報される心配はないさ。寝てる場合か。クソ、図太いババァだ。起きろよ。この。気ィ失ってんだか、寝てるんだか、死んでるんだか、わかんね。どれ、心臓は? 動いてるのか。首飾りが飛び散った。真珠がコロコロ、年代物か? なんだよもう。ブラウスまで破けちまった。はだけた胸がいやに白い。しわくちゃなのに、妙に湿ってる。心臓がコツコツと、裏から骨を打つ音が肌を透かしてわずかに聞こえた。生きてる。よかった。よかったって、当たり前だ。死体じゃ脅しが効きづらい。俺はババァが薄目を開けて、フッとこっちを見た気がした。そんなはずないだろう? 目をつぶってるが、泡をふいてるわけじゃない。舌も出てねえ。顔を寄せると口が開いて、ババァの息が耳にかかった。桜の匂いだ。花じゃない。夏の葉桜の木陰で嗅ぐ匂い。そういやあ公園の遊歩道にも桜並木があったっけ。ババァの腕が持ち上がった。開いた指が、ひくひく動いた。俺の手首をそっとつかむ。いや。何なんだ。抵抗しようってのか。クソが。歯のない口から吹き抜ける声が、あ、あ、とくぐもる。胸がさらにはだけた。肌が、なんかバラ色に染まった。こぼれた乳房をまさぐると、思ってたよりも弾力がある。俺はブラウスをむしりとり、枯葉のように手ごたえのない下着をひっちゃぶいて、姥桜を裸にすると、たるんだ皮膚をかきわけかきわけ、しわをのばし、骨をつかんで、ズボンを脱いで、ババァを姦った。尻を抱え、しばらくこねくり、化石でないのを確かめてから、ババァのマンコに突っ込んだ。穴の感じは、悪くない。よく見りゃ、しょぼいマン毛のかわりに小さな葉っぱが生えている。なんだよ。ケツのけばまで染めてんのか。いやそうじゃねえ。本物の葉っぱだ。緑もあざやかな、小さな葉っぱ。桜の若葉だ。びゅるるるっ。俺はあっというまに射精した。嘘だろ。おい。だが、本当だ。びゅるるるっ。あへ。また、くる。あっ、あ。びゅるるるっ。ババァが腰をゆらめかす。すると中で、何かが蠢きやがるんだ。しょぼしょぼだった股の葉っぱはいつのまにか葉を広げ、いっそう緑あざやかに繁り、わらわらふえて、俺の下半身を包んで、尻をからめてぐいぐい、強烈な力で引っぱりこんだ。我慢できない。まただ! びゅるるるっ。 ババァが目をあけた。緑の眼だ。見る間に俺の体は葉に覆われる。尻穴から、青虫をつぶしたような汁が出た。繁る葉があざやかな緑のしずくを滴らす。ババァのマンコは黒い。暗い。闇だ。俺の目の前は真っ暗だ。何も見えない。俺は木になる。何の木になるか気になるが、木に成っちまったらわからない。手は枝に、枝分れして、葉が繁り、髪も目も緑に染まり、肌はなめらかな樹皮に変わる。桜かな。だといいな。あああああっ。吸われるうぅぅぅぅぅっっ。