第1話 召喚
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あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
鼻をくすぐる機械油と鉄粉の匂い。
金属を削るグラインダーのけたたましい火花が散り、コンプレッサーの低い唸りが床を微かに震わせる。
それが、俺――足立楷斗(あだち かいと)の日常だった。
今年で25歳。東京の下町にある町工場のしがない修理工だ。
工場に持ち込まれるのは、メーカーの保証期間がとっくに切れて見放された古い工作機械や、泥にまみれた農具、誰かの思い出が詰まった壊れた時計ばかり。
世間じゃ『新品を買った方が安くて早い』『直すなんて時間の無駄だ』と笑われるようなものばかりだったが、俺はこの仕事に誇りを持っていた。
歪んだパーツを叩き出し、すり減った歯車を削り出し、油を差して再び息を吹き返す瞬間が好きだったんだ。
どんなガラクタにだって、そこに込められた誰かの想いと、まだ輝ける役目がある。
修理工の息子として育った俺は、そう信じて疑わなかった。
――あの日、工場のスクラップ置き場で見つけた、埃まみれの古びた真鍮製の古鏡を磨いていた時までは。
「……ん? なんだこれ。ガラスの奥が、妙に青く光って――」
呟いた瞬間、鏡の表面から眩い幾何学模様が溢れ出し、視界が真っ白に染まった。
油と鉄の匂いが一瞬で掻き消え、代わりに漂ってきたのは、焚き染められた甘ったるい香の匂いと、肌をピリピリと刺すような冷たい空気。
「――成功だ! 召喚の儀が成功したぞ!」
「勇者様がおいでになられた!」
鼓膜を揺らす、割れんばかりの歓声。
恐る恐る瞼を開けると、そこは慣れ親しんだトタン屋根の作業場ではなかった。
見上げるほどの巨大な大理石の円柱が立ち並び、色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が、絨毯を照らし出している。周囲を取り囲むのは、白銀の甲冑を纏った騎士たちと、豪華なローブを着た神官たちだった。
「な、なんだよここ……!? ドッキリ……!? テレビの撮影か!?」
すぐ隣で、上ずった悲鳴をあげた男がいた。
俺と同時に床の魔法陣から立ち上がったらしい、流行りの服を着た大学生風の青年だ。金髪交じりの髪を振り乱しながら、落ち着きなくキョロキョロと周囲を見回している。どうやら、俺と同じように巻き込まれてこの場所に飛ばされてきたらしい。
「ようこそ、異世界の救世主たる御方々よ。ここは栄えあるアルタリア王国の王宮である」
壇上に据えられた豪勢な玉座から、ゆったりと立ち上がった男がいた。
金糸の刺繍が施された深紅のマントを羽織り、腰に煌びやかな宝剣を帯びた美青年。年の頃は20歳そこそこだろうか。傲慢な自信を隠そうともしない笑みを浮かべ、大理石の階段を優雅に下りてくる。
「我が名はエドワード。このアルタリア王国の第1王子だ。我が国の存亡を賭けた召喚の儀に応え、よくぞ現れてくれた」
「あ、アルタリア王国……? 王子……? え、マジで異世界召喚ってことかよ!?」
隣の青年が、驚愕から一転してパッと歓喜に顔を輝かせた。
どうやらネット小説かゲームの知識があるらしい。事態の異常さに怯えるどころか、自分が特別な存在として選ばれたのだと即座に理解したようだった。
一方の俺はといえば、作業着のポケットに突っ込んでいた愛用のドライバーの感触を確かめながら、努めて冷静に周囲を観察していた。
騎士たちの持つ剣は、装飾こそ派手だが、刀身の鍛えが甘くお飾りで身に着けているように見える。敷き詰められた大理石も一見豪華だが、石材同士の接合が雑で、継ぎ目にはすでに小さな亀裂が入っていた。
(……ずいぶんと見栄っ張りな国だな。外見ばかり着飾って、基礎の加工やメンテナンスがおざなりだ)
職業病というやつだろう。場違いな観察をしている間にも、儀式は淡々と進んでいった。
「さあ、偉大なる異世界の英傑よ。まずは貴殿らが神より授かりし『天賦の力』を確かめさせていただきたい。この【真理の水晶板】に手をかざすがよい」
エドワード王子が手招きすると、神官が丁重に巨大な青い水晶板を差し出してきた。
真っ先に進み出たのは、隣の青年だった。
「俺からいきます! 俺の名前は成瀬蒼真(ソウマ)です!」
ソウマが自信満々に水晶板へ手を触れる。
次の瞬間、水晶板が目も眩むような黄金の光を放ち、空中に眩い光の文字が浮かび上がった。
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【名前】ソウマ・ナルセ
【職業】勇者
【天賦スキル】
・聖剣創造(ホーリー・クリエイト)
・全属性魔法適性(極大)
・成長限界突破
【戦闘力評価】SSSランク(規格外)
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広間が一瞬で静まり返り、次の瞬間に爆発的な大歓声が巻き起こった。
「す、素晴らしい……! 伝説の【勇者】職だ!」
「戦闘力評価SSSランクだと!? 建国の英傑すら凌駕しているぞ!」
「おお、神よ! アルタリア王国に栄光あれ!」
エドワード王子は満面の笑みを浮かべ、ソウマの両手を力強く握りしめた。
「見事だ、ソウマ殿! 貴殿こそが我が国を導く真の救世主だ! 我が国の最先端の魔導技術と、貴殿の圧倒的な力があれば、世界を脅かす災厄など赤子の手をひねるようなもの! 今宵は国を挙げての盛大な宴を開こう!」
「へへっ、マジかよ! 俺、やっぱり選ばれた主人公だったんだ! 任せてくださいよ王子、俺がこの国の敵を全員ぶっ飛ばしてやりますから!」
ソウマは鼻を高くし、完全に英雄気取りで胸を張った。
神官たちも騎士たちも、まるで神そのものを迎えるかのようにソウマを取り囲み、惜しみない賛美の言葉を浴びせかける。
そんな狂乱の中、エドワード王子の冷淡な視線が、残された俺へと向けられた。
「……おい、そこの作業着の男。貴様も早く手をかざせ。ソウマ殿という至高の果実を得た後では、何が出ようと前座に過ぎんがな」
「……ああ、わかったよ」
俺はため息をつきながら、神官がぞんざいに突き出してきた水晶板に右手を置いた。
ピシリ、と淡い灰色の光が小さく瞬く。
ソウマの時のように部屋全体を照らすような輝きは一切なく、ただ文字が静かに浮かび上がった。
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【名前】足立 楷斗(カイト・アダチ)
【職業】一般人
【天賦スキル】
・超・資源再生(アップサイクル)
【戦闘力評価】Fランク(一般農民以下)
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「……は?」
誰かが漏らした間の抜けた声が、静まり返った広間に落ちた。
神官たちが怪訝そうに顔を見合わせ、水晶板を指差して眉をひそめる。
「超・資源……再生? 聞いたこともないスキルだな」
「要するに……ゴミの再利用ということか?」
「戦闘力評価Fランク……魔力も体力も、我が国の幼子にすら劣るというのか」
ひそひそとした嘲笑と失望の声が、波のように広がっていく。
エドワード王子は、先ほどまでの熱狂的な笑みを跡形もなく消し去り、心底汚らわしいものを見る目で俺を睨みつけた。
「ゴミ拾い……だと?」
「いや、頭の中に直接流れ込んできた感覚だと、単なるリサイクルじゃない。壊れた物や素材を再構築して、元の性能以上に質を高める能力みたいだが……」
スキルを得たことで直感的に理解できた詳細を説明しようとしたが、王子はそれを乱暴な手の動きで遮った。
「黙れ、無能が!」
エドワード王子の怒声が広間に響き渡る。
「我がアルタリア王国は、神聖なる『始源教』の教えを戴く国だ! 『新しき創造こそが神聖であり、常に最新・最強の魔導具を消費することこそが国の豊かさの証』! 一度使ったものを使い回すなど不浄の極み! 古きを漁り、ゴミを弄ぶような下劣な能力、我が国に対する冒涜に他ならん!」
「冒涜って……物を大事に使うのが、そんなにいけないことなのか? どんな道具だって、ちゃんと手入れして直せば――」
「口を慎め、薄汚い平民が!」
騎士の一人が、鞘の先端で俺の胸を小突き、乱暴に口を塞いできた。
隣でちやほやされていたソウマが、軽蔑交じりのニヤニヤ笑いを浮かべながらこちらを見ていた。
「おいおい、おっさん……リサイクルってマジ? せっかく異世界に来たのに、ゴミ拾いスキルとかウケるんだけど。一緒に召喚されたってだけで、俺まで同類に見られたら超迷惑なんだけどなー」
「ソウマ……お前な」
「ソウマ殿、このような卑しい者に言葉をかける必要はございません」
エドワード王子は冷酷に言い放ち、衛兵たちに顎をしゃくった。
「この男は召喚事故のゴミ屑だ。我が国に存在する価値など一片もない。持ち物をすべて没収し、直ちに【廃棄の谷(ゲヘナ)】へ追放せよ」
「はっ!」
「おい、待て! 廃棄の谷ってなんだ!」
俺が抗議の声を上げる間もなく、二人の筋骨隆々な騎士に両腕を羽交い締めにされた。
腰のホルダーから、親父の代から受け継いできた愛用のドライバーやペンチといった工具類が乱暴に引き剥がされ、冷たい大理石の床へ放り投げられる。
金属同士がぶつかり、甲高い嫌な音が響いた。
「おい! 道具をそんなふうに投げるな! 先端が欠けたり、精度が狂ったりしたらどうするんだ!」
「知るか! ゴミ箱送りの罪人が、ゴミの心配などしている場合か!」
騎士が嘲笑いながら、広間の床に刻まれた別の転送陣に魔力を注ぎ込む。
足元から、禍々しい紫色の光が立ち昇った。
「エドワード王子、最後に一つだけ言っておく」
俺は乱暴に拘束されながらも、傲慢な王子を真っ直ぐに見据えた。
「壊れたものをすぐ捨てて、新しいものばかり追いかける国に、本物の技術なんて育たないぞ。道具を大切にできない奴らは、いつか必ずそのツケを払うことになる」
「ふん、負け惜しみを。我が国の繁栄は永遠だ。貴様のようなゴミは、ゴミ捨て場に転がるガラクタと共に朽ち果てるがよい!」
エドワード王子は鼻で笑い、ソウマは面白がるように手を振った。
「じゃーね、おっさん! ゴミ拾い頑張ってな!」
視界が再び紫色の閃光に呑み込まれた。
胃袋が喉元まで跳ね上がるような、強烈な浮遊感。
転送の光が弾け飛んだ瞬間、俺の身体は――吹き荒れる冷たい突風の中に投げ出されていた。
「うおっ!?」
眼下に広がるのは、見渡す限りの灰色の世界。
大地を深く引き裂いた巨大な亀裂――その谷底一面に、途方もない量のガラクタが山となって積み上げられていた。
へし折れた巨大な剣、半壊した魔導人形の残骸、装甲がひび割れた魔導車両、得体の知れない金属片の山、山、山――。
上空を覆う分厚い紫色の結界が、ここが外界から完全に隔離された巨大な「ゴミ捨て場」であることを物語っている。
重力に引かれ、俺の身体は無慈悲にも、ガラクタの山へ向かって真っ逆さまに落下していった。
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