*月夜の縁側

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/27 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 1,358文字 ✅ 全年齢

あらすじ

みみ視点 ぎゅう、と銀くんを抱きしめる。「……よしよし」

本文

みみ視点

ぎゅう、と銀くんを抱きしめる。

「……よしよし」

背中を撫でていると、最初は嬉しそうにしていた銀くんの様子が、少しずつ変わってきた。

しっぽが落ち着かない。

耳も、ぴくり、ぴくり。

さっきまで甘えるように身体を預けていたのに、今は何かをこらえるように、私の腕の中でじっとしている。

……ああ。

これは、もしかして。

私はそっと背中を撫でる手を止めた。

「……銀くん?」

「……ん」

「ねえ。もしかして、今……ちょっと、つらい?」

銀くんの耳が、ぴたりと止まった。

私は顔を覗き込もうとはせず、抱きしめる腕も少しだけ緩めた。

「私、気づかないまま抱きしめちゃったかな……?」

夜風が、ふたりの間を通り抜ける。

りんごとサボンの香りが、ふわりと漂った。

私は銀くんの気持ちを勝手に決めつけたくなかった。

だから、もうひとつだけ。

「……銀くん。今、どうしたい?」

優しく尋ねて、返事を待つ。

ここはまだ、月夜の縁側。

急がなくていい。

銀くんの気持ちは、銀くん自身の言葉で聞きたいから。

縁側では、銀くんがまだみみの腕の中にいる。

「……みみ」

いつもより少し低い声。

みみは、銀色の耳を見つめてから、そっと問いかけた。

「……銀くん。私、銀くんなら……いいよ?」

銀くんの耳が、ぴんっ!

「……え?」

「でもね、銀くんが本当にそうしたいのか、ちゃんと聞きたいの」

みみは微笑んだ。

「私に甘えたいだけなら、いつもみたいにぎゅーってしよう? それ以上の気持ちがあるなら、それも聞かせてほしいな」

銀くんは黙った。

しっぽが、ふわりと揺れて――それから、落ち着かないように丸まった。

(……みみは、気づいてるんだ)

自分が今夜、なぜ帰りたくなかったのか。

どうして抱きしめられたら、嬉しいだけでは済まなくなったのか。

銀くんは知っている。

知らないふりをして、いつものように甘えることもできる。

でも、今夜はそれだけじゃない。

「……僕ね」

銀くんは、みみの顔を見上げた。

「……もうちょっと、みみのそばにいたい」

そして、ほんの少し恥ずかしそうに付け足す。

「……ぎゅーだけじゃ、足りない気持ちも……ある」

言ってしまった。

銀くんの頬が赤くなる。

けれど、みみの手を振りほどくことはしなかった。

月明かりの下、ふたりの距離は近い。

「……そっか」

私は銀くんの頬にそっと触れた。

いつも甘えん坊で、ぎゅーが大好きな銀くん。

でも今夜は、いつもと少し違う。

ちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた。

だから私は、からかったりせず、優しく微笑んだ。

「……銀くん」

「……うん?」

「目、閉じて?」

銀くんは少し驚いたあと、私の言葉に従って、そっと目を閉じた。

私は顔を近づけて――。

そっと、唇にキスをした。

ほんの優しい、短いキス。

離れると、銀くんは目を丸くしていた。

銀色の耳はぴんと立ち、しっぽはふわふわ……それから、どうしたらいいのかわからないみたいに、ゆっくり揺れた。

「……みみ」

「うん」

「……えへへ……」

嬉しくて、恥ずかしくて、言葉にならない。

そんな顔をする銀くんが、たまらなく愛おしかった。

私はもう一度、そっと抱きしめる。

「……お部屋、戻ろっか」

「……うん」

今度は、銀くんも素直に頷いた。

ふたりで縁側を立ち、静かな廊下を歩いていく。

月明かりが、少しずつ遠ざかる。

そして、部屋の戸が静かに閉じた。

――今夜の続きは、ふたりだけの秘密。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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