弐

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/27 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 851文字 ✅ 全年齢

あらすじ

「……あいつ、明日になっても来なかったら、一度様子を見に行くか」そう呟いた兄は、湯呑みを手に取った。銀が山を下りてから三日。

本文

「……あいつ、明日になっても来なかったら、一度様子を見に行くか」

そう呟いた兄は、湯呑みを手に取った。

銀が山を下りてから三日。

みみという娘を連れて挨拶に来ると言っていたのに、いまだに帰ってこない。

「まったく。誰に似たんだか……」

呆れ半分に笑い、茶を口に運ぶ。

そこで、ふと思い出した。

「……みみ、か」

聞き覚えのある名前だった。

いや、名前だけではない。

兄は、大樹の管理を担っている。

大樹に関わる長命種であるみみとは、以前から知り合いだった。

顔も知っている。話したこともある。

だからこそ、弟からその名前を聞いたとき、少し引っかかりはしたのだ。

けれど、すぐには結びつかなかった。

銀は人里へ行ったはずだった。

そこで出会った娘を、今度は兄に紹介する。

そういう話だと受け取っていた。

「……まさか、あの子のことか?」

兄は湯呑みを置いた。

しかし、考えれば考えるほど、確信が持てない。

そもそも、みみがいるという境界の狭間のお宿は、誰でも自由に出入りできる場所ではない。

あそこへ入れるかどうかは、台帳様次第。

大樹の管理を任されている兄でさえ、好き勝手に出入りできるわけではなかった。

「……銀が、あそこへ?」

思わず口にしてから、兄は首を傾げた。

弟が境界の狭間のお宿に出入りしているなど、聞いたこともない。

いや、そもそも、そんな場所へ行っているという発想自体がなかった。

人里で誰かと知り合い、親しくなった。

それなら分かる。

けれど、あのみみと、どうやって?

兄は腕を組み、しばらく考え込んだ。

「…………」

そして、ふっと息を吐く。

「まあ、帰ってきたら聞けばいいか」

結局、今はそれ以上考えようがなかった。

兄は再び書類へ目を落とした。

けれど、いつもならすぐに戻るはずの意識が、なかなか仕事へ向かない。

弟は今、どこで何をしているのか。

みみとは、いったいどういう経緯で知り合ったのか。

そして、なぜ三日も帰ってこないのか。

「……銀のやつ」

呆れた声が、静かな部屋に落ちた。

その頃、境界の狭間のお宿では。

兄が想像もしなかった理由で、弟が帰れずにいた。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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