壱

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/27 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 645文字 ✅ 全年齢

あらすじ

「…………遅いな」兄は、縁側で湯呑みを置いた。銀が、みみを連れて挨拶に来る。

本文

「…………遅いな」

兄は、縁側で湯呑みを置いた。

銀が、みみを連れて挨拶に来る。

そう言ってから、三日が経っていた。

初日は、道草でも食っているのだろうと思った。

二日目は、あの弟のことだ。人里で何か面白いものでも見つけたのかもしれない、と考えた。

だが、三日目。

「…………」

兄は黙って山道を眺めた。

来ない。

使いも寄越さない。

あの銀が、約束したまま音沙汰なしとは。

「……あいつ」

こめかみを指で押さえる。

別に、挨拶が三日遅れたからといって困るわけではない。客間もそのままだし、茶だって淹れ直せばいい。

問題は、弟が何をしているのか、さっぱり分からないことだった。

兄は妻のいる部屋へ顔を向けた。

「銀が、まだ来ないんだ」

少し呆れた声で告げる。

「みみという娘を連れてくると言っていたんだがね」

それから、ふと考え込む。

「……あいつ、もしかして緊張しているのか?」

自分から紹介すると言い出しておいて、いざとなったら足が止まった。

そういう可能性も、なくはない。

兄は小さく息を吐いた。

「まったく。誰に似たんだか」

その顔には、怒りよりも呆れと心配が浮かんでいた。

そして、もう一度、山道を見る。

「……明日になっても来なかったら、一度様子を見に行くか」

そう呟いた兄は、まだ知らなかった。

弟は今ごろ、境界の狭間のお宿で、みみに可愛がられすぎてふにゃふにゃになっていることなど。

ましてや、みみ自身も三日間を一緒に過ごしてしまい、二人そろって約束を後回しにしていたことなど。

山のお屋敷では、今日も客間がきちんと整えられたままだった。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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