山のお屋敷・兄視点
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あらすじ
山道の向こうから、二つの気配が近づいてきた。兄は書類から顔を上げる。「……ん?」
本文
山道の向こうから、二つの気配が近づいてきた。
兄は書類から顔を上げる。
「……ん?」
ようやく帰ってきたか。
そう思って縁側へ出た兄は、見慣れた銀色の気配と、その隣にいる女性の姿を認めた。
そして。
「…………ああ」
兄の目が、わずかに見開かれる。
「みみ、か」
やはり、そうだった。
大樹の管理に関わる、あのみみ。
境界の狭間のお宿にいるとは思いもしなかったが、こうして目の前にいるのだから間違いない。
兄は少しばかり複雑な顔をした。
まさか、弟が彼女と知り合いになっていたとは。
いや、それよりも。
三日間、いったい何をしていたのだろう。
兄の視線が、隣にいる銀へ移る。
銀は……どこか落ち着かない様子だった。
兄「…………」
銀「…………」
兄「……お前、三日も何をしていた?」
銀「……えっと」
兄「…………」
銀「……その……」
兄は、ひとまず問い詰めるのをやめた。
先に挨拶をするために来たのだろう。
それに、みみも一緒なのだ。
兄は姿勢を正し、二人を迎えた。
「みみ。久しぶりだな。よく来てくれた」
穏やかな声だった。
けれど、その目にはまだ疑問が残っている。
なぜ銀がみみと一緒にいるのか。
なぜ三日も帰ってこなかったのか。
聞きたいことは山ほどあった。
それでも、まずは客人として迎える。
兄は静かに二人へ向き直った。
みみは、少し気まずかった。
三日も経ってしまった。
銀と一緒に過ごす時間が楽しくて、可愛くて、ついつい甘やかしてしまって。
気づけば、約束の日を過ぎていた。
けれど、挨拶に来た以上、そこはきちんとしなければならない。
みみは兄へ向き直り、丁寧に頭を下げた。
みみ「お久しぶりです。突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」
そして、顔を上げる。
みみ「それから……ご挨拶に伺うのが遅くなってしまって、本当に申し訳ありませんでした」
言葉を選びながら、もう一度、深く頭を下げる。
みみ「私も、銀くんと一緒に過ごすのが楽しくて……。つい、時間を忘れてしまいました」
隣にいる銀の耳が、ぴくりと動いた。
みみ「……私のほうも、きちんと気をつけるべきでした。ごめんなさい」
静かな山のお屋敷に、みみの謝罪が響いた。
兄は、頭を下げるみみを見つめていた。
そして、ゆっくりと銀へ視線を移す。
兄「…………銀」
銀「……はい」
兄「お前も、そういうことか?」
銀「…………はい」
兄は、しばらく黙っていた。
それから、深々とため息をつく。
兄「……まったく」
怒鳴りはしなかった。
ただ、呆れたように眉間を押さえた。
兄「みみまで一緒になって三日も時間を忘れていたのか……」
そして、ふと顔を上げる。
兄「……まあ、来てくれたのだからいい。まずは中へ入りなさい」
そう言って、兄は二人を客間へ案内しようとした。
けれど、歩き出す前に、もう一度だけ銀を振り返る。
兄「……話は、あとで聞くからな」
銀「…………はい」
銀の耳が、しゅんと垂れた。
兄はその様子を見て、また小さく息を吐いた。
どうやら、聞きたいことは簡単には片づきそうになかった。