山のお屋敷・客間

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/27 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 1,691文字 ✅ 全年齢

あらすじ

兄視点 客間に二人を通し、兄は静かに座布団へ腰を下ろした。銀もその隣に座る。

本文

兄視点

客間に二人を通し、兄は静かに座布団へ腰を下ろした。

銀もその隣に座る。

……近いな。

兄はちらりと弟を見た。

以前なら、客人の前ではもう少し取り繕っていたはずだ。ところが今の銀は、みみの隣がすっかり定位置になっているようだった。

(……三日で、こうなったのか?)

いや、三日でこうなったとは限らない。

その前から何かあったのかもしれない。

兄は考えるのをいったんやめ、用意していた茶を二人の前に置いた。

「さあ、どうぞ」

それから、みみへと視線を向ける。

「みみ。お前が来るとは思わなかったよ」

思わず、苦笑がこぼれた。

「銀から名前を聞いたとき、知っているみみなのかとは思ったんだがね。まさか本当にお前だとは」

兄は湯呑みを持ち上げた。

「……境界の狭間のお宿にいるとは、想像もしなかった」

大樹の管理を担う自分でも、あのお宿へ自由に行けるわけではない。

台帳様の判断次第。

それなのに、弟はそこにいたみみと親しくなり、こうして連れてきた。

不思議な縁もあったものだ。

兄は改めて二人を見た。

「それにしても……お前がみみを連れてくるとはな」

銀は隣を見た。

そして、ほんの少しだけ照れたように視線を落とす。

銀「……うん。みみと一緒に来たかったから」

兄「…………」

(……おや)

その返事は、ずいぶん素直だった。

兄は茶を一口飲み、内心で首を傾げた。

みみの性格は知っている。

誰かを気に入れば、惜しみなく情を注ぐところがある。銀が懐いたとしても不思議ではない。

けれど、弟のこの様子。

どうにも、ただ仲良くなったというだけではなさそうだ。

兄「……銀」

銀「はい?」

兄「お前、みみのことを大切にしているんだな」

銀「…………っ!」

銀の耳が、ぴんっ、と立った。

頬が見る間に赤くなる。

銀「……そ、それは……」

兄は黙って待った。

銀はしばらく口を開いたり閉じたりしていたが、やがて小さく頷いた。

銀「……うん」

その一言を聞いて、兄はふっと目を細めた。

(……なるほど)

弟が自分から誰かを紹介したがった理由が、少しだけ分かった気がした。

ただし。

三日間も帰ってこなかった理由は、まだ分からない。

兄は湯呑みを置き、今度は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。

「……それで、銀」

銀「…………はい」

兄「三日間、いったい何をしていたんだ?」

銀「…………」

耳が、しゅうん。

兄「道中に何かあったのか? それとも、お宿で何か面白いことでも?」

銀は、みみをちらりと見た。

その顔には、言っていいものか迷っている様子がありありと浮かんでいた。

兄はその反応を見て、ますます不思議に思った。

(……何を隠しているんだ、お前は)

怒るつもりはない。

ただ、弟が三日も帰ってこなかった理由くらいは知りたい。

兄は、銀の返事を待った。

兄「台帳様に認められたのか?」

銀「……うん」

兄「…………そうか」

銀は、なぜか少しだけ目を逸らした。

兄はその反応に引っかかりを覚えたものの、ひとまず茶を口に運んだ。

台帳様が認めたのなら、それ以上聞くこともない。

……そう思ったのだが。

銀「……認められたわけじゃ、ないよ」

兄「…………何?」

銀は気まずそうに耳を伏せた。

銀「……台帳様が、もう諦めたの」

兄「…………」

兄は湯呑みを置いた。

(……諦めた?)

あの台帳様が?

兄は、大樹の管理を担う立場として、台帳様の厳格さをよく知っている。境界の狭間への出入りを、そんな簡単に許す存在ではない。

それなのに、諦めた。

いったい、弟は何をしたのだろう。

兄「……銀。お前、台帳様に何をした?」

銀「…………」

銀は、みみの隣で小さくなった。

兄「…………銀?」

銀「……だって、お宿にいたかったんだもん……」

兄「…………」

(なるほど。反省しているようで、していないな)

兄は額に手を当てた。

そして、みみへちらりと視線を向ける。

(……みみ。お前、いったいこの子をどうしたんだ……)

もちろん、みみを責めるつもりはない。

ただ、知り合いの長命種と弟が、境界の狭間のお宿で三日間も過ごした。

その事実だけでも十分に驚いているのに、台帳様まで諦めているらしい。

兄は、静かに息を吐いた。

「……話を聞く前から、頭が痛くなってきたな」

銀の耳が、さらにしゅんと垂れた。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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