辻妊娠
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
連作短篇の形式で語られる怪談ノワール。
本文
先日、人気絶頂の男性アイドルが小学生を妊娠させたと言うスキャンダルが発覚して、芸能スポーツ新聞だけでなく週刊誌、テレビのワイドショーからネットまで、日本中が大騒ぎになった。
抱いたこともないし、会ったこともない。小学生なんですか? その子が誰だか、僕は知らない。ジャージーズの堀田春夫メンバーは当該行為を否定した。
ジャージーズは数あるアイドルグループの中でもトップに位置する。堀田メンバーは中でも抜群の人気を誇っていた。
やってない? さわってもいない? 流し目一つで妊娠するか? ばかばかしい。
誰かまわず、男とすれ違うだけで妊娠するなんて、信じられない。
太陽に照らされているだけで実がなる無花果じゃあるまいし、そんな事はあるはずもない、とは誰しもが思うことだ。
抱いても会ってもいない、見たこともない小学生を妊娠させるなんて、「お前のチンポは魔法の杖か」とか、「実はインポだ」「マジ童貞」「張り子のホッタと小学生の膨れた腹」など、ネットではさんざん揶揄されたが、それでも「僕はやってない。だってまったく身に覚えがないのですから。信じて頂けなくってもしょうがない」と譲らなかった。
ただし、マネージャーは出待ちの追っかけ少女に混じってテレビ局の柳の木の下にたたずむその子を憶えていた。どこから見ても小学生だった。なのに、こちらを睨むその形相があまりにも凄まじいものだったから、強く印象に残っていたのだ。
梅干の種を割っていくと、ごく稀に、千に一つか、万に一つの確率で、弁天様の徴の点いた核がでてくる。
それを呑んで想い人を見つめると、誰でもその男の子種を授かるそうだ。
近頃、小学生の間では、そんなおまじないが流行っていた。
まさか。本当に効き目があったんじゃ。
(梅の木の梅はもともと産めの意味で、菅原道真が偲んだ庭の古木は弁財天第四の化身。幹が女体そのものなら、産めの気の身は愛のエッセンスだった。ふしぎはない)
そんな、無差別な妊娠行為を野放しにしたら、男は性器を厳重に貞操帯で護らずには外を歩くことができなくなる。
ストカーが大喜びだ。
あなたが好きよ。妊娠しました。結婚してください。ってか。
夜毎血に飢えた刀に導かれて人を斬る辻斬りならぬ、そりゃ辻孕みだ。
などと世間の評判は相変わらずかまびすしい。
遺伝子鑑定の結果。小学生の少女が妊娠した胎児の父親は堀田春夫と証明されたので、もはや弁解の余地はないように思われたが、それでもなお堀田メンバーは犯罪行為を否定し続けた。
いくら事務所の力が強くても庇いきれない。堀田春夫は芸能生活を断念するしかなかったのである。
人の噂も七十五日。
十月十日を待つことなく、小学生は無事男児を出産した。
たとえ犯罪行為の結実ではあっても、少女の両親は孫の誕生を心から慶んだ。が、あろうことか、娘のベッドに寄り添わせた大切な赤ん坊は太陽の光を浴びたとたん、もろくも崩れ、砂のようにさらさらと指の間をつたって流れ、跡形もなくこの世から消えた。
辻妊娠で身籠った子はやはりノアの箱舟に乗らなかった生物の末裔で、その正体は永遠に陽の目を見る事はない、異形のものでしかなかったのだろう。