第3話 廃材採集の少女
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
ガラクタの山を蹴立てながら、俺は急こう配な斜面を一気に駆け上がっていた。
足元はひどく不安定だった。
踏みしめるたびに錆びた鉄板が軋んで悲鳴を上げ、尖った金具の部品や砕けたガラスが靴底を削る。
並みのスニーカーなら一瞬で底に穴が空いて足の裏を裂かれていただろうが、町工場で長年履き込んできた安全靴は、伊達じゃなかった。
右手に持った【常光の魔導ランタン】が、薄暗い谷底をまるで真昼のように明るく照らし出す。
澄んだ温かい光が広がるたび、周囲を取り巻いていた毒々しい紫色の瘴気が、ジュッと音を立てて霧散していった。
「誰か……誰か助けてええっ!」
悲鳴が近い。
崖の中腹、崩れたコンテナの残骸が積み重なる踊り場のような場所に、その姿はあった。
瓦礫の上に倒れ伏していたのは、一人の小柄な少女だった。
年齢は14、5歳といったところだろうか。
つぎはぎだらけの頑丈そうな作業服に、擦り切れた革の手袋。背中には、自分の体と同じくらいの大きさがある麻袋を背負っている。
その細い右足は、ひどく歪んでひしゃげた2枚の重い鉄板の隙間に、深く挟まり込んでいた。
「くっ……抜けない……っ!」
必死に両手で鉄板を押し広げようとしているが、小柄な少女の力ではビクともしない。
擦りむいた膝や腕から、痛々しい赤い血が滲んでいた。
そして、その少女を取り囲むように――暗がりの中から異形の影が這い出していた。
「ギチギチ、ギチギチ……」
不快な金属の擦れ合う音が響く。
姿を現したのは、3匹の禍々しい獣だった。
だが、ただの獣じゃない。
体長はゆうに2メートルを超え、全身が廃棄された錆びた刃物や鉄鎖、砕けた装甲板で継ぎはぎにされている。
皮膚の代わりにドロドロとした黒い泥のような魔力が肉体を繋ぎ止め、頭部には2つの濁った赤い眼球が浮かんでいた。
「グルアアアアッ……!」
廃棄された武具の怨念と、谷に充満する汚染魔力が凝縮して生まれた魔物――【廃棄魔獣】だ。
獣たちは血の匂いと少女の恐怖に引き寄せられ、ギラギラとした赤い目を輝かせながら、じりじりと包囲を狭めていた。
「あ、ああっ……来ないで……!」
少女は腰のホルダーから、先端がひび割れた小さな短剣を引き抜き、震える両手で構えた。
だが、刃渡り十センチにも満たないなまくら刀では、全身が金属の塊のような魔獣に傷一つ付けられないのは明白だった。
先頭の1匹が、鋭い鉄くずの牙を剥き出しにして地を蹴る。
狙いは少女の細い喉元――。
「そこまでだ!」
俺は全力で間に割り込み、持っていた魔導ランタンの光量を最大へと捻り上げた。
カチリ、と側面のダイヤルを押し込む。
「カアアアアッ!」
ランタンの前面から、真昼の太陽を凝縮したような強烈な指向性ビームが一直線に放たれた。
直撃を受けた魔獣が、悲鳴のような金属音を上げて空中でのけ反る。
「ギャオオオッ!?」
瘴気と汚染された魔力で構成された魔獣にとって、浄化の光は強烈な劇毒だったらしい。
顔面からジュウジュウと黒い煙を噴き上げながら、魔獣は無様に地面へと転がり落ちた。
「ズドオオンッ!」
巻き上がる粉塵の中、俺は少女と魔獣の間に割って入るように着地した。
「だ、誰……!? 人……?」
突然の乱入者に、少女が丸く見開いた目で俺を見上げる。
煤と泥で汚れた顔の中で、澄んだ琥珀色の瞳だけがやけに印象的だった。
「怪我は? 動けるか?」
「あ、足が挟まって……動けなくて……! って、おじさん、逃げて! ここは危険だよ! そいつら、廃棄魔獣の【スクラップ・ハウンド】! 生身の人間が敵う相手じゃないよ!」
(……おじさん、か。まだ25なんだけどな)
心の中で軽く苦笑しつつも、こんな極限状態のさなかに他人の心配ができるあたり、根は相当お人好しな少女らしい。
「落ち着け。無理に暴れるとじん帯を痛めるぞ。足の骨が折れてるかもしれないんだ、じっとしてろ」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ――!」
「グルルルルルッ……!」
光で目を焼かれた先頭の魔獣が、猛烈な怒りを露わにして立ち上がった。
残りの2匹も、俺を明確な敵と認識したのか、左右に大きく展開して挟み撃ちの体勢を整える。
3方向からの同時包囲。
ランタンの光による目くらましは、一度見せた手だ。2度目はそう簡単に直撃してくれないだろう。
そして何より、俺の手元には武器がない。
(さて、どうする……?)
俺は意識を研ぎ澄まし、周囲のガラクタの山へと素早く視線を走らせた。
魔獣たちの皮膚は、硬化した魔導鋼の破片。
そこらの木の棒や生半可な鈍器で殴ったところで、こちらの手首が砕けるのがオチだ。
奴らを一撃で解体できるだけの【硬度】と【貫通力】、そして分厚い装甲を貫く【魔力伝導性】が必要になる。
――視界の隅、瓦礫の中に半分埋もれていた一本の金属パイプに、青い光の枠が表示された。
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【対象】放置された高圧魔導配管(中空)
【状態】腐食率60%、内部亀裂多数
【素材】低純度ミスリル鋼
【潜在能力】高い魔力圧縮耐性あり
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さらに、そのすぐ隣。
千切れて転がっていた、太いケーブルが目に入った。
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【対象】断線した超伝導魔導ワイヤー
【状態】絶縁被膜融解、芯線露出
【素材】金霊銅、雷精石の微粒子
【潜在能力】瞬間放電特性
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(……あるじゃないか、最高の素材が!)
脳内で、修理工としての思考が超高速で組み上がっていく。
配管の錆を除去してミスリルの純度を極限まで引き上げ、内部の空洞に超伝導ワイヤーを芯として通す。
さらに、大気中の魔力を吸い上げる回路を表面に刻み込み、打撃の瞬間に高圧の雷撃を炸裂させる構造へと仕立て直す――。
「おじさん、後ろっ!」
少女の悲鳴と同時に、左側の魔獣が地を蹴った。
巨大な鉄の爪が、空気を切り裂いて俺の首筋へと迫る。
「速っ!」
だが、職人として培ってきた動体視力と、身体の奥から湧き上がる魔力の感覚が、その動きをまるでスローモーションのように捉えていた。
俺は上半身をわずかに沈めて爪を紙一重でかわすと、足元へ迷わず手を伸ばした。
「【解析(スキャン)】――【分解(ディスアセンブル)】!」
泥だらけの配管と、千切れた魔導ワイヤーを両手で力強く掴み取る。
手のひらから吹き出したエメラルドグリーンの光粒子が、2つのゴミを瞬時に呑み込んだ。
「ジュウウウウウッ!」
凄まじい熱量と共に、パイプの表面から分厚い錆の層が黒い塵となって蒸発していく。
中空だったパイプの中に、融解して純度を限界まで高めたワイヤーが液体のように滑り込み、分子レベルで完全に一体化していった。
「な、なにそれ……光ってる……!?」
少女が呆然と声を漏らす。
俺の手の中で、ただの鉄くずだった棒が、鈍い銀色と黄金色の装飾模様を宿した、一本の美しい【魔導棍】へと生まれ変わっていく。
最後に、特性を定着させるイメージを強く叩き込む。
「――【再構築(リビルド)】!」
手の中に収まる、吸い付くようなグリップの感触。
重心の位置はミリ単位で狂いなく、俺の腕の長さに完璧に適合していた。
「グルアアアッ!」
着地した魔獣が反転し、今度は3匹同時に、牙を剥いて飛びかかってきた。
逃げ場のない、完全な死の包囲網。
だが、俺の心は驚くほど静まり返っていた。
「新品ばかり崇めて、使い捨てることしか能がない連中には……」
完成したばかりの棍を、右手にしっかりと握り直す。
全身の魔力が、棍の内部に仕込まれた雷の回路へと淀みなく流れ込んでいくのを感じた。
「ガラクタの本当の価値なんて、一生分からないだろうな」
青白い雷光が、銀色の棒身を激しく駆け巡った。