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2-3 食事処の騒動

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/28 📚 シリーズ: アストラリア大陸事変 📝 7,379文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王亡き世界で、再び魔の時代が動き出す。 魔王ゼルヴァディスが討たれてから、六百二十八年。 平和を取り戻したアストラリア大陸では、三つの主要勢力が微妙な均衡を保ちながら共存していた。 しかし、今なお人の立ち入れない旧魔王領では、魔物たちが静かに活動範囲を広げ始めていた。 各地では怪しい薬が出回り、魔王を崇める新興宗教も勢力を増していく。 そんな異変をまだ知らず、自由交易都市に暮らす青年レオン・ヴェスタは、見知らぬ世界を求めて旅立つ。 やがて彼は、森の外へ憧れる若きエルフの癒し手フィリアと、その護衛リュシアに出会う。 三人の小さな旅立ちは、やがて国家、宗教、人間、魔物――大陸に生きる者すべてを巻き込む事変へ繋がっていく。 善と悪の境界が揺らぐ世界で、彼らは何を知り、何を選ぶのか。 これは、魔王亡き世界で再び動き始めた、魔の時代を巡る物語。

本文

新暦628年、4月11日。

夜。

宿場町の食事処は、旅人たちの声で賑わっていた。

木製の卓が所狭しと並び、壁際には荷を下ろした商人たち、

入口近くには冒険者らしい一団、奥の席には地元の住民らしい

者たちが座っている。

酒の匂い、焼いた肉の香り、煮込みの湯気、

そして人々の笑い声が混ざり合い、店全体が熱を帯びていた。

その一角で、レオン、フィリア、リュシアの三人は夕飯を待っていた。

フィリアは宿場町の賑わいに目を輝かせている。

レオンは周囲の客層を何となく観察していた。

そしてリュシアは、先ほどから難しい顔をしている。

「まさか、部屋が一部屋しか空いていないとは……」

リュシアは重々しく呟いた。

フィリアは申し訳なさそうにレオンを見る。

「ごめんね〜、レオン。床に寝てもらうことになっちゃって」

「いやいや、気にしないで。毛布を貸してもらえれば全然大丈夫だから」

レオンは苦笑しながら答えた。

三人は、屋台を離れた後、宿を探した。

だが、予想以上に町は混んでいた。

商人、旅人、冒険者、女神教関係者らしき一団。

どうやらいくつかの往来が重なっているらしく、

どの宿も部屋が埋まりかけていた。

ようやく見つけた宿も、空いていたのは一部屋だけ。

しかも、部屋にあるのは大きめの寝台が一つ。

二人用の部屋だった。

当然、三人で使うには少し窮屈である。

野営の時でさえ、女性陣のテントとレオンのテントは分けていた。

それを考えれば、リュシアとしては本来、部屋を分けたかったに違いない。

実際、一部屋しかないと分かった瞬間、リュシアの口元がわずかに動いた。

おそらく、レオンに外で寝てくれないかと言いかけたのだろう。

ぎりぎりのところで良心が勝ったらしく、その言葉は飲み込まれたが。

「レオン」

リュシアが改めてこちらを見る。

「何度も言いますが、変な気は起こさないようにお願いしますね」

「分かってるって……」

レオンは苦笑いするしかなかった。

もう少し信頼してくれても……そう思わないでもない。

だが、考えてみれば、絶世の美女が二人眠っている部屋に

若い男が一人いる、という状況である。

リュシアが警戒するのも、まあ仕方ない。

(信頼は積み重ねていくしかない、か)

レオンはそう自分に言い聞かせ、肩をすくめた。

「リュシア、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

フィリアはのんきに笑う。

「レオンはそんなことしないって」

「フィリア様は、もう少し危機感を持ってください」

「持ってるよ?」

「持っていたら、会った初日に自宅へ泊めようとはしません」

「うっ……」

フィリアは言葉に詰まった。

レオンはそのやり取りを聞きながら、乾いた笑いを漏らした。

その時、料理が運ばれてきた。

「お待たせしました!」

給仕の女性が、次々と皿を並べていく。

焼きたてのパン。

香草をまぶした鶏肉。

厚切り肉の煮込み。

豆と野菜のスープ。

魚の香草焼き。

揚げ芋。

果実の甘煮。

彩り豊かな料理が卓の上に広がった。

レオンの前には、旅人向けとしてはやや多めの量。

リュシアの前には、それより少し控えめの上品な量。

そして、フィリアの前には、レオンの倍はあろうかという皿が並んでいた。

「おお〜!」

「フィリア様、食べすぎです」

リュシアがすぐに諭す。

「いいのいいの!」

フィリアは胸を張った。

「今日は宿場町デビュー記念なんだから!」

「そのような記念は初めて聞きました」

リュシアは深くため息をついた。

だが、フィリアはすでに聞いていない。

「いただきま〜す!」

そう言うと、嬉しそうに料理へ手を伸ばした。

焼きたてのパンをちぎり、スープにつけ、鶏肉を頬張る。

次に煮込みを口に運び、目を細める。

揚げ芋を食べ、またパンに戻る。

その食べっぷりは見事だった。

レオンは感心しながら、自分の料理に手をつける。

幸せそうに食べ続けるフィリアを見て、ふと以前の姿を思い出した。

エルフの里で初めて会った時の、あの無防備な距離感。

そして、外套で隠される前の、どうしても目に入ってしまった豊かな胸元。

レオンは一瞬だけ視線を逸らし、心の中で静かに頷いた。

(なるほど。あれだけ食べるなら、確かに育つところは育つよな)

そんな最低な納得をした瞬間、リュシアの視線が刺さった。

レオンは即座に皿へ目を戻した。

信頼は積み重ねるしかない。

たぶん、今少し崩した。

しばらく三人は食事を楽しんだ。

フィリアは料理の一つ一つに反応し、リュシアはそれをたしなめながらも

時折味を褒め、レオンは二人の会話に笑いながら箸を進める。

食卓には、穏やかな時間が流れていた。

「ちょっと席を外すね」

レオンが立ち上がった。

「トイレ?」

フィリアが口いっぱいに料理を詰めたまま尋ねる。

「そう」

「いってらっしゃ〜い」

「食べながら喋らないでください、フィリア様」

リュシアの注意を背に受けながら、レオンは席を離れた。

その背中が食事処の奥へ消える。

その直後だった。

それを待っていたかのように、三人の男たちが近づいてきた。

いずれも冒険者風の格好をしている。

革鎧に剣や短斧。

飲んでいたのか、顔には赤みが差していた。

その中で一番体格の良い男が、にやついた笑みを浮かべながら、

先ほどまでレオンが座っていた席にどかりと腰を下ろした。

残り二人は、リュシアの背後に立つ。

フィリアは突然のことに、食事の手を止めた。

リュシアは静かに目を細める。

「よぉ、エルフの姉ちゃん」

リーダー格らしい男が、下心を隠そうともしない笑みを浮かべた。

「めちゃくちゃかわいいじゃねぇか。ちょっと俺たちに酌してくれよ」

背後の男たちも、へへへ、と下品に笑う。

リュシアは冷たい声で返した。

「なんですか、あなたたちは。迷惑ですので消えてください」

「おいおい、つれないこと言うなよ〜」

男は両手を広げ、大げさに肩をすくめた。

「せっかく同じ店にいるんだ。楽しもうぜ。

そっちの隣に座ってるのも女なんだろ? 姉ちゃんと同じでエルフか?」

男の視線が、フィリアへ向かう。

フィリアは反射的に身を縮めた。

「だったら顔見せてくれよ。エルフはみんな美人らしいしな〜」

リーダー格の男は、背後の手下に顎で合図をした。

男の一人が、フィリアのフードへ手を伸ばす。

リュシアが止めようと動くが、それより先に、

低い声が男の背後からかかる。

「どなたか知りませんが、手をどけてくれませんか」

伸ばされた男の手首を、レオンが掴む。

手下の男は、顔を歪める。

「なんだてめぇ……? 離せや」

「離せませんね」

レオンは一歩も引かない。

食事処の空気が、一瞬で変わった。

さっきまで響いていた笑い声が止まる。

客たちの視線が、一斉にこちらへ集まっていた。

リーダー格の男は、面白そうに口角を上げる。

「へぇ。戻ってきたか、兄ちゃん」

リュシアはその様子を見て、少しだけ息を吐いた。

「仕方ありませんね」

その言葉に、レオンが嫌な予感を覚えた。

リュシアはリーダー格の男を見る。

「では、こうしましょう。そこのレオンにあなた方が腕っぷしで勝てたら、

私のことを好きにして構いませんよ」

「え?」

レオンは思わず間の抜けた声を出した。

男たちも一瞬、唖然とした。

だが、リーダー格の男はすぐに大笑いする。

「はははは! 上等じゃねぇか! いいぜ、やろうぜ!」

そして、レオンを見る。

「レオンとやらもいいだろう?」

レオンは絶句した。

リュシアは涼しい顔をしている。

フィリアは口を半開きにして、レオンとリュシアを交互に見ていた。

「おいおい、やらねぇのか?」

リーダー格の男がにやつく。

「やらねぇなら不戦勝ってことで、

この姉ちゃんたちは俺たちがもらってくぜ?」

レオンは大きく息を吐いた。

そして、諦めたように首を振る。

「いいですよ。やりましょうか」

その言葉に、手下の男たちが笑い声を上げた。

「ははは! 終わったなお前!」

「うちの頭はプラチナランクの冒険者だぜ!」

「プラチナか……」

レオンは少しだけ警戒度を上げた。

ゴールドの自分より、ランクだけで見れば一つ上。

少なくとも、ただの酔っ払いよりは強い可能性が高い。

リーダー格の男は、へへへ、と笑っている。

だが、レオンは退かなかった。

「構いませんよ」

その様子に、手下の一人が苛立ったように舌打ちする。

「こいつ、スカしやがって」

「いいぜ」

リーダー格の男は席を立った。

「その余裕、いつまで続くか見ものだな。さぁ、表に出ろ!」

◇

宿場町の広場には、あっという間に人だかりができていた。

皆が、広場の中央に向かい合う二人を囲むように輪を作っている。

一方に、鞘に収めたままの剣を手にするレオン。

もう一方に、体格の良いプラチナランクの冒険者。

男は首を鳴らし、拳を握る。

「いくぜ!!」

叫ぶと同時に、男の体に鈍い光が走った。

「≪鉄壁≫!」

男の肌と防具の表面が、わずかに硬質化したように見えた。

レオンはそのスキル名を聞き、冷静に判断する。

≪鉄壁≫。

防御力向上系の下位スキル。

多くのタンク職が使うそれは、自らの体や装備を硬質化させ、

防御力を引き上げる。

防御力を上げた体で突進すれば、その硬さは攻撃力に転ずる。

体格差を考えても、正面から受ければ間違いなく吹き飛ばされるだろう。

だが、レオンはあえて迎え撃つことにした。

新しい相棒。翠風剣リーファリオン。

レオンは、鞘に収まった状態のまま剣を構える。

やはり、手によく馴染む。

重さの感覚が絶妙だった。

軽いが、軽すぎて頼りないわけではない。

男が肩から突っ込んでくる。

土を蹴り、体を丸め、一直線に距離を詰める。

レオンは腰を落とした。

受け止めるのではない、受け流す。

エルフの里で、リュシアが暴走した動物たちを相手に見せた動き。

突進の力を真正面から潰すのではなく、向きをずらし、

相手自身の勢いを利用する。

見よう見まねではある。

だが、試す価値はあった。

衝突の直前、レオンはリーファリオンの鞘を斜めに入れた。

男の肩が剣に触れると重い衝撃が走る。

しかし、受け止めず身体を半歩ずらし、鞘を滑らせるように押し流す。

「なっ……!」

男の突進が横へ逸れた。

観衆から、おお、と声が上がる。

レオンはそのまま男の体勢を崩し、地面へ叩きつけるつもりだった。

だが、男もプラチナランクの冒険者である。

完全には崩れない。

足を強く踏み込み、地面を削りながら、何とか踏みとどまった。

(流石に、そんなに上手くはいかないか)

レオンは心の中で呟く。

その様子を外野から見ていたリュシアは、ほう、と目を細めた。

(無茶ぶりをした甲斐がありましたね。彼の実力を見るのに丁度良い)

男たちは確かにプラチナランク。

レオンより格上ではある。

だが、そのランクはおそらくチームで積み上げたものだ。

三人一組、あるいは仲間との連携で依頼をこなしてきた結果だろう。

それに対し、レオンはソロ中心でゴールドまで上がった冒険者。

一対一ならレオンに分があるとリュシアは見ていた。

そして今の受け流しは、期待通りだった。

ただし、勝負はまだついていない。

(さて、ここからどうしますか)

「ちょこざいな野郎だ!」

体勢を立て直した男が叫んだ。

再び突進する。

レオンは今度も受け流す構えを取った。

しかし、男は直前で急ブレーキをかけた。

そして、突進の勢いを乗せたまま、裏拳を放つ。

「っ!」

レオンは咄嗟に剣で受けた。

鈍い衝撃が腕に響く。

(重い……!)

レオンの足が地面を削り、身体が後ろへ押し込まれる。

(流石、プラチナってとこか)

荒っぽいが、実戦慣れしている。

(受けてばっかじゃ勝てないな……)

レオンは息を整え、地を蹴った。

今度は自分から攻める。

剣は鞘に入れたまま。

だが、その動きは鋭かった。

リーファリオンを振るいながら、レオンは確かな手応えを感じていた。

軽いのに、威力が落ちている感覚がない。

振り抜きは速く、戻しも速い。

連撃がいつもより滑らかに繋がる。

理屈は分からない。

だが、名剣だ。

レオンはそう確信した。

苛烈な連撃が、男へ襲いかかる。

胴、肩、腕、膝、脇腹。

鞘越しとはいえ、まともに受ければ十分に痛い。

男は≪鉄壁≫で防御を固めながら捌く。

腕で受け、体をひねり、時に拳で弾く。

だが、レオンの手数は多い。

「ぐっ……!」

男が初めて怯んだ。

観衆がざわめく。

男の中で、戦う理由が変わり始めていた。

女を賭けた勝負ではない。

こんな衆人環視の中で、自分が負けるわけにはいかない。

プラチナランクの冒険者としてのプライド。

仲間の前での面子。

それらが、男の背中を押していた。

男は攻撃を受けながら、冷静に頭を回す。

(この攻撃の速度……こいつもなんかしらのスキルを使ってるはずだ。

剣士職がよく使う≪剣舞≫あたりか?)

だが、何だろうと関係ない。

男はニヤリと笑った。

「≪攪乱≫!」

二つ目のスキルが発動する。

≪攪乱≫。

自らと同格程度、あるいはそれ以下の対象が発動しているスキルや魔法の

持続を不安定にさせる阻害スキル。

男は確信していた。

目の前の若造は、自分と同格か、それ以下。

≪攪乱≫で崩せば、動きは必ず鈍る。

(その隙にぶちかましてやる……!)

そう決め、男は身構えた。

だが、レオンの勢いは止まらなかった。

一撃、二撃、三撃。

むしろさらに間合いを詰めてくる。

「なぜだ!?」

男の顔に困惑が走る。

動揺が、一瞬の隙になる。

レオンの連撃がさらに深く食い込む。

「ぐおおおおお……!」

男は苦悶の声を上げた。

(ありえねぇ! スキルを使ってねぇってのか!?)

それとも、≪攪乱≫が効かないほど実力差があるのか。

(そんなはずはねぇ!)

男は仲間へ目配せした。

手下たちが動こうとする。

しかし、その前にリュシアが立ちはだかる。

細身の剣の刃が、手下の喉元に突きつけられる。

「動かないでください」

声は静かだった。

だが、その静けさが恐ろしかった。

手下の男たちは一瞬、刃を振り払おうとした。

しかし、リュシアの目に睨まれた瞬間、体が凍りついた。

本能が告げていた。

動けば、斬られるかもしれない。

そして、目の前の女とは、絶対的に力量が違う。

「な、何してやがる!」

リーダー格の男は焦った。

仲間が助けに来ない。

その間にも、レオンの攻撃は止まらない。

「ちきしょおおおおおお!」

男は叫び、攻撃を受けながら拳を振るった。

だが、それはやけくその一撃だった。

当たるはずがない。

レオンはひらりと拳を躱す。

身を屈め、懐へ潜り込む。

そして、鞘に収めたリーファリオンを、男の顎下から突き上げた。

ゴッ、という鈍い音が響く。

男の体がわずかに浮いた。

白目を剥き、そのまま仰向けに倒れる。

どさり、と重い音が広場に響いた。

一瞬の静寂。

そして、観衆から歓声とどよめきが上がった。

「おおっ!」

「やるじゃねぇか、兄ちゃん!」

「プラチナを倒したぞ!」

レオンはふぅ、と息を吐いた。

手下の男たちは慌ててリーダー格の男に駆け寄る。

「頭!」

「しっかりしてください!」

二人がかりで男を抱え上げる。

そのうち一人がレオンを睨み、震える声で言った。

「お、覚えてやがれ!」

手下たちは逃げるように広場から去っていった。

レオンはそれを見送り、ようやく肩の力を抜く。

そこへ、フィリアが駆け寄ってきた。

「すごいすごい! レオン、流石〜!」

「いや〜、勝ててよかった。リーファリオンのおかげだよ」

リュシアも歩み寄ってくる。

「お見事です。勝つとは思っていましたが、

無傷で乗り切るとは。やりますね」

「そっちこそやってくれたね、リュシア」

レオンは苦笑した。

「まさか、あんな無茶ぶりをしてくるとはね」

「いえいえ。食事の合間の運動にちょうど良いかと思いまして」

「食事の合間の運動って……」

レオンは深くため息をついた。

「はぁ……まあ、無事に済んでよかったよ」

「レオン、かっこよかったよ〜!」

フィリアは興奮したまま両手を動かす。

「しゅばばばばばって感じで凄かった〜!」

「しゅばばば……」

レオンは思わず笑った。

「それは褒められてるのかな」

「褒めてるよ! すっごく褒めてる!」

フィリアは満面の笑みで言った。

レオンは照れくさそうに頬をかく。

「それなら、ありがとう」

三人の周りでは、野次馬たちがまだざわめいていた。

◇

そのやり取りを、少し離れた宿の二階から見ている少女がいた。

アリア・レイシアである。

彼女は窓の隙間から、先ほどまで行われていた戦いをこっそり見ていた。

胸がどきどきしている。

怖かった。

けれど、それ以上に目が離せなかった。

鞘に収めたままの剣で戦う少年。

冷静に手下たちを止めた銀青の髪のエルフ。

その二人を嬉しそうに称える、フードを被った少女。

アリアは小さく呟いた。

「わぁ……迫力、凄かったな……」

そして、窓の外にいるリュシアを見つめる。

「あのエルフの女の人、すごく綺麗……。

あのフードの人も、エルフなのかな……」

声は自然と弾んでいた。

年相応の少女らしい、ひっそりとしたはしゃぎ方だった。

その時。

「アリア」

背後から声をかけられた。

アリアの肩が跳ねる。

振り返ると、父が立っていた。

母の姿も、その後ろにある。

どうやら用事を終えて戻ってきたらしい。

父は窓の外を見て、眉をひそめた。

「何を見ているんだ。ああ、さっきまでやっていた馬鹿騒ぎか」

その声は、先ほど馬車の中で聞いた優しいものとは違っていた。

「あんな野蛮なものを見てはいけないよ」

アリアは慌てて視線を落とした。

「ご、ごめんなさい」

「まあ、いいさ」

父は小さく息を吐く。

「それよりも、明日の街頭演説の練習はしっかりやったのかい?」

「う、うん。しっかりやったよ」

アリアは小さく答えた。

父は満足そうに頷く。

「そうかい。それなら、もう寝なさい。

明日は朝早くから準備があるんだからね」

「うん……分かった……」

「それじゃあ、おやすみ」

父はそう言い、母と共に部屋を出ていった。

扉が閉まる。

部屋に静けさが戻った。

アリアはしばらくその場に立っていた。

胸の中にあった小さな高揚は、

叱られたことでしゅんと萎んでしまっている。

彼女がもう一度、窓の外を見ると、

先ほどの三人がまだ楽しそうに話していた。

三人は、まるで対等な仲間のようだった。

誰かに崇められるわけでもない。

誰かに過剰な期待を背負わされるわけでもない。

失敗してはいけないと、息を詰めているようにも見えない。

アリアは窓辺にそっと手を置いた。

「いいな……」

小さな声が、夜の部屋に落ちる。

その言葉は、誰にも聞こえなかった。

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