境界の狭間のお宿
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
――いつものお宿。夕刻。今日のお仕事、無事終了!本日のお客様は、狸さん、河童さん、そしてかまいたちのご夫婦。
本文
――いつものお宿。夕刻。
今日のお仕事、無事終了!
本日のお客様は、狸さん、河童さん、そしてかまいたちのご夫婦。
狸さんはお茶を飲みながらくつろぎ、河童さんはお皿を乾かさないように気を配り、かまいたちのご夫婦は仲良く並んで帰り支度をしている。
狸「いやぁ、よい宿だった。飯もうまかったぞ」
河童「お風呂もよかったねぇ。きゅうりまで出してもらっちゃって」
かまいたちの妻「あなた、忘れ物はない?」
かまいたちの夫「大丈夫。……あっ、いや、鎌は?」
妻「腰にあるでしょう?」
夫「おお、あった!」
狸「お前さん、そんなんで大丈夫かい」
わいわい、がやがや。
今日もお宿は平和だった。
――そして、仕事を終えた私。
ようやくひと息つける時間である。
「よーし、お着替えしよう!」
せっかくの自由時間だもの。今日はちょっとおしゃれをしたい気分だった。
選んだのは、紺色のレースのパーティドレス。
艶やかな紺色の生地に、繊細なレースがあしらわれている。袖はシースルーで、膝丈のスカートはAライン。ふんわりと上品に広がる、かわいらしいデザインだ。
黒髪の毛先にある、りんご色ともよく似合う。
「わぁ、かわいい!」
鏡の前でくるりと回ると、紺色のスカートがふわっと揺れた。
それから、いつもの巾着を手に取る。
大樹のりんご印がついた、大切な巾着。中には大樹のりんごの葉っぱがたくさん入っている。
これは絶対に忘れない。
木札も、ドレスのポケットへ。外から見えないように、きちんとしまった。
「よしっ、準備完了!」
鏡に映るのは、黒と赤の華やかなドレス姿。
そして、片手にはいつもの巾着。
……ちょっと組み合わせが不思議?
まあ、いいの!
おしゃれはその日の気分。巾着と木札は、絶対に必要なもの。
そこは別問題なのだ。
「行ってきまーす!」
私はご機嫌で部屋を出て、玄関へ向かった。
お気に入りの靴を履いて、姿を整える。
巾着よし。木札よし。
忘れ物はない!
玄関の戸を開けると、夕暮れの風がふわりと頬をなでた。
「ふふっ。今日はどこに行こうかなぁ」
まだ行き先は決めていない。
でも、それでいい。
私は片手に巾着を持ち、いつものお宿を後にした。
みみの大切な持ち物
巾着:大樹のりんご印がついた不思議な巾着。中には、大樹のりんごの葉っぱがたくさん入っている。いつも片手に持ち歩く。
木札:大樹のりんご印がついた守り札。ドレスのポケットなど、外から見えない場所に身につけている。
大樹のりんごの葉っぱ:みみの生命線。葉っぱから遠く離れすぎると、意識や会話はできるものの、力が抜けて動きがとても遅くなる。葉っぱは枯れない。
巾着と木札は、どんな服装でも絶対に忘れない。