倭の国――幻燈街(げんとうがい)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
倭の国には、さまざまな文化や種族が入り混じる、不思議な街がある。和風の町並みが続く一角を抜ければ、石畳の洋風街が広がり、異国情緒あふれる建物や華やかな繁華街が顔を覗かせる。人間も妖も、異世界から訪れた者たちも、ここでは当たり前のように行き交っている。
本文
倭の国には、さまざまな文化や種族が入り混じる、不思議な街がある。
和風の町並みが続く一角を抜ければ、石畳の洋風街が広がり、異国情緒あふれる建物や華やかな繁華街が顔を覗かせる。
人間も妖も、異世界から訪れた者たちも、ここでは当たり前のように行き交っている。
建築様式も文化も、魔法も技術も、なんでもあり。
そんなごちゃ混ぜの世界の一角に、夜の賑わいが絶えない街――幻燈街がある。
そして、その街にはカミルのBARがある。
カミル視点
倭の国にありながら、洋風の石畳が続く通りもあれば、和風の屋敷や異国の建物が並ぶ一角もある。魔法灯が街を彩り、種族も文化も入り混じる、なんとも節操のない街だ。
だが、俺はこの街が嫌いじゃない。
いろいろな奴が集まる場所には、それだけの面白さがある。
そして、この街は俺の縄張りだ。
通りを歩く仲間も、店を構える連中も、俺の顔を知っている。街で何かあれば、自然と情報が集まってくる。
だからこそ。
カミル「……で、みみは今どこにいる?」
BARのカウンターでグラスを磨きながら、俺は尋ねた。
「はい。先ほど幻燈街に入りました」
カミル「……そうか」
「現在、街並みを見物中です」
……見物?
思わず手が止まった。
いや、別にいい。せっかく来たんだ。街を楽しむくらい好きにすればいい。
そう思っていたのだが。
「魔法灯をご覧になって、たいへん喜んでおられます」
カミル「……そうか」
「先ほどから、あちこちのお店を覗いておられます」
カミル「……そうか」
「それと、通りすがりの者たちが、ずいぶん気にしているようで」
カミル「…………は?」
俺はグラスを置いた。
「いえ、皆さん、みみさんに話しかけたいようなのですが……」
カミル「おい。妙な奴はいねぇだろうな」
「今のところは。ただ、ずいぶん無防備に歩いておられます」
……だろうな。
あいつのことだ。
そのころ、みみは。
「わぁ……!」
幻燈街の中央通りで、目を輝かせていた。
頭上には、花を模した魔法灯。洋風の建物の窓辺には色鮮やかな飾りが揺れ、通りの向こうからは、聞き慣れない楽器の音が流れてくる。
和服姿の妖が洋菓子店から出てきたかと思えば、異国風の衣装を着た者が屋台で串焼きを買っている。
なんでもありの街。
みみは、そのひとつひとつが珍しくて仕方なかった。
「わぁ、あっちもきれい!」
くるりと振り返る。
紺色のレースのワンピースがふわりと広がり、シースルーの袖が魔法灯の光を透かした。
黒髪の毛先には、りんご色の赤。
その姿に、すれ違った者がふと足を止める。
また別の者が、振り返る。
ふんわりと漂うのは、甘く柔らかなりんごを思わせる香り。
けれど、本人はそんなことなど知りもしない。
「ふふっ、すごいなぁ……!」
ただただ、楽しそうに笑っている。