⑸
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
重い扉が開き、みみが微笑みながら店内へ戻ってきた。仲間A「あ、おかえり、みみちゃん!」仲間B「おう。どこ行ってたんだ?」
本文
重い扉が開き、みみが微笑みながら店内へ戻ってきた。
仲間A「あ、おかえり、みみちゃん!」
仲間B「おう。どこ行ってたんだ?」
カウンターに座っていたカミルが、ゆっくりと顔を上げる。
氷青色の瞳が、みみを捉えた。
カミル「…………」
先ほどまで、扉を気にしていた男。
その姿を認めた途端、張り詰めていたものが、ほんの少し緩んだ。
カミル「……遅かったな」
低い声。
カミルはそれ以上、何も言わずにみみを見つめている。
(……まったく。人に心配をかけておいて)
そう思う一方で、無事に戻ってきた姿を見れば、ひとまずそれでいいと思ってしまう。
仲間A「ボス、よかったな」
カミル「何がだ」
仲間A「別にぃ?」
カミル「…………」
仲間Bはグラスを傾けながら、肩を震わせている。
カミル「お前ら……」
低く唸るような声に、二人は慌てて仕事へ戻った。
カミルは再び、みみへ視線を向ける。
カミル「……こっちへ来い」
ぶっきらぼうな呼び方。
けれど、その声には、戻ってきたみみをそばに置きたいという気持ちが、隠しきれずに滲んでいた。
重い扉が開き、みみが微笑みながら店内へ入ってきた。
仲間A「あっ、みみちゃん。いらっしゃい!」
仲間B「おう、こんばんは」
カウンターの向こうにいたカミルが顔を上げる。
氷青色の瞳が、みみを捉えた。
カミル「……おう」
短く返事をしながら、先ほどまで気にしていた相手の姿を確かめる。
(……まったく。人の気も知らずに)
胸の内ではぼやきながらも、無事に戻ってきたことに安堵していた。
みみがカウンターへやって来る。
みみ「カミル、私に合うカクテル作って?」
カミルは、手にしていたグラスを置いた。
カミル「……俺が選んでいいんだな?」
みみの言葉を確かめるように、少し目を細める。
カミル「わかった。少し待っていろ」
カミルは酒棚へ向き直った。
果実のリキュールを手に取り、別の瓶と並べて香りを確かめる。しばらく考えたあと、材料を決め、グラスとシェーカーを用意した。
氷が触れ合う澄んだ音。
慣れた手つきで材料を合わせ、シェーカーを振る。無駄のない動きには、長年この店で酒を作ってきた男の腕が表れていた。
仲間A「ボス、何作ってんだ?」
カミル「……見ればわかるだろう」
仲間B「いやあ、みみちゃん専用の特別メニューかと思ってな」
カミル「お前らの口は、酒を飲むためについているんじゃなかったか?」
仲間A「こわっ」
仲間B「はいはい、仕事しますよ」
カミルは二人を放っておき、最後の仕上げに取りかかった。
できあがったカクテルは、淡い赤みを帯びた琥珀色。照明を受けて、グラスの中で静かに輝いている。
カミルはそれをカウンター越しにみみの前へ置いた。
カミル「……できたぞ」
グラスから手を離し、みみへ視線を向ける。
カミル「果実の甘さに、少し酸味を加えた。後味は重くない」
そこで、わずかに口元を緩めた。
カミル「……お前には、こういうのが似合うと思った」
仲間Aが隣で、にやりと笑う。
仲間A「へえ。ボスが女の子のために、そこまで考えるとはねえ」
カミル「……まだいたのか、お前は」
仲間A「ここ、俺の職場なんだけど?」
仲間Bが吹き出す。
カミルは呆れたように息を吐き、再びみみへ向き直った。
カミル「……さて、みみ」
カウンターに片手を置き、氷青色の瞳で彼女を見る。
カミル「俺の見立ては当たっているか?」
ぶっきらぼうな口調。
けれど、みみがこの一杯をどう感じるのか、答えを楽しみにしているようだった。
カミルの言葉を聞いて、みみはもう一度、小さく笑った。
もちろん、わかっていた。
自分に似合うカクテルを作ってくれたことも。
カミルが自分のことを考えながら、材料を選んでくれたことも。
だからこそ、嬉しくて。
ちょっとだけ、聞いてみたくなったのだ。
みみは目の前のグラスに視線を落とした。
淡い琥珀色のカクテルが、店内の灯りを受けてきらめいている。
みみ「……カミルが、私のことを考えて作ってくれたんだね」
頬が、ぽっと赤く染まった。
嬉しさを隠しきれず、ほんの少しだけ照れたように笑う。
カミル「…………」
一瞬。
カミルの言葉が止まった。
(……おい)
さっきまで、あれほど余裕のあった男である。
注文に応じて酒を作ることも、客と軽口を交わすことも慣れている。
なのに。
目の前で頬を赤らめ、嬉しそうに笑うみみを見ていると、どうにも調子が狂う。
カミル「……そうだが」
返事が、ほんの少し低くなる。
カミルは視線をグラスへ逃がし、指先でカウンターを軽く叩いた。
カミル「お前に合うものを作れと言われたんだ。当然だろう」
……言っていることは、いつも通り。
けれど、耳まで赤くなったりはしないものの、どこか目を合わせにくそうにしている。
仲間A(……あれ?)
仲間B(ボス、照れてねえか?)
仲間A(いや、あれは照れてるだろ)
カミル「……お前ら」
二人「はい、仕事します!」
仲間たちは、そそくさと離れていった。
カミルは深いため息をつく。
それから、隣のみみをちらりと見た。
まだ、頬が赤い。
カミル(……可愛い顔をしやがって)
胸の内でこぼれた言葉に、自分自身が少しばかり面食らう。
カミル「……みみ」
呼びかける声が、先ほどより柔らかい。
カミル「……そんな顔をされたら、作った甲斐があるだろうが」
言い終えてから、ほんのわずかに口元を緩めた。
今度は、目を逸らさなかった。
自分の気持ちが伝わって、嬉しそうに頬を染めるみみ。そんな彼女が可愛くて仕方ないカミル。
……どうやら今夜は、カクテルの味見をする前から、ボスのほうがすっかり参っているらしい。