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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
カミル「……お前のことは、俺が一番よく知っているつもりだからな」言い切ったカミルは、ほんの少し口元を緩めた。カミル(……八杯より前でも、様子がおかしくなったら止める)
本文
カミル「……お前のことは、俺が一番よく知っているつもりだからな」
言い切ったカミルは、ほんの少し口元を緩めた。
カミル(……八杯より前でも、様子がおかしくなったら止める)
みみが甘えてきたとしても、そこは譲らない。
……譲らない、はずだった。
みみは、ニッコニコ。
カミル「…………」
カウンター越しに、みみの顔を眺める。
カミル(……ん?)
何かが引っかかった。
機嫌がいいのは、いつものことだ。笑顔だって珍しくない。
けれど。
カミルはわずかに眉を寄せ、みみの様子をもう一度確かめた。
カミル(……妙に、ご機嫌じゃないか?)
仲間A「みみちゃん、今日はずいぶん楽しそうだな!」
仲間B「何かいいことでもあったのか?」
みみの笑顔を見て、仲間たちも楽しそうに声をかける。
カミルは答えず、みみの前に置いた空のグラスを片づけた。
そして、ふと気づく。
カミル(……待て)
みみが店に来たとき。
いつもなら、近づいてくる彼女の香りに、すぐ気づくことがある。
今夜も、みみらしい柔らかな香りは感じていた。
だが、そのほかの気配には、まったく注意を払っていなかった。
カミル「…………」
氷青色の瞳が、すっと細くなる。
カミル(……酒の匂いは?)
今さらながら、みみの様子を注意深く観察する。
頬の色はどうか。目の焦点は合っているか。立ち居振る舞いに、いつもと違うところはないか。
カミル「……みみ」
低い声で呼ぶ。
カミル「お前……」
言いかけて、いったん口を閉じた。
決めつけるのは早い。
けれど、さっきからの妙なご機嫌ぶりが、どうにも気になり始めていた。
仲間A(……あれ? ボス、何か気づいたか?)
仲間B(さあな……)
カミルは二人を気にすることなく、みみへ顔を向けた。
カミル「……ひとつ聞くぞ」
声は落ち着いている。
しかし、その瞳には、先ほどまでなかった警戒が浮かんでいた。
カミル「ここへ来る前、どこかに寄ったか?」
カミルはみみの前に水のグラスを置く。ふと、最初のカクテルをこくこく飲み干した姿を思い出した。
それに、さっきから妙にふわふわしている。
カミル(……最初の一杯で、あんな感じになるか?)
カミル「……みみ」
氷青色の瞳が、心配そうに揺れる。
カミル「お前、今……何杯目だ?」
仲間B「……ボス。まさか、店に来る前からってことか?」
カミル「…………」
カミルは答えず、みみの顔をじっと見つめた。
(……頼む。たいしたことねえと言ってくれ)
カミル「……無理に答えなくていい。だが、水は飲め。いいな?」
いつものぶっきらぼうな声。
けれど、カウンターに置かれた大きな手は、みみの返事を待つように、そっとそばに残っていた。
みみ「やだ!」
カミル「……あ?」
きっぱり拒否され、カミルの眉がぴくりと動く。
みみは、じーーーっとカミルを見つめた。
カミル「…………」
(……なんだ。今度は何だ?)
見つめ返していると、不意に。
みみ「………。お仕事まだ終わんないの?」
カミル「…………は?」
思わず聞き返した。
仲間A「ぶっ……!」
仲間B「ボス、呼び出しか?」
カミル「うるせえ」
カミルは仲間たちを黙らせ、改めてみみを見る。
カミル「……ああ。まだ終わってねえよ」
少しだけ身をかがめて、声を落とした。
カミル「……なんだ。俺に、何か用か?」
(……まさか。そんな目で見ておいて、帰るなんて言わねえよな?)
みみ「………。おしゃれしたのに」
カミル「…………」
カミルの表情が、ぴたりと止まった。
視線が、みみの髪から、いつもよりおしゃれをした姿へとゆっくり移る。
カミル(……俺に会いに来るために?)
カミル「……こっち来い、みみ」
カウンター越しに、少しだけ身を乗り出す。
カミル「ちゃんと見せてみろ。……せっかく、おしゃれして来てくれたんだろ」
声が、さっきよりずっと優しくなった。
仲間A「……ボス、顔が緩んでるぞ」
カミル「緩んでねえ」
仲間B「へえ?」
カミル「…………黙れ」
そう言いつつ、カミルの氷青色の瞳は、もうみみから離れなかった。
みみ「……みゃー」
カミル「…………は?」
みみはカウンターにぺたんと身を預け、ふわふわとした様子でカミルを待っている。
みみ「みゃー……。カミルぅ……」
カミル「…………っ」
(……おい。待て。なんだ、今の声は)
カミルは片手で口元を覆った。
仲間A「ぶっ……!」
仲間B「ボス、これは……」
カミル「お前ら、奥に行け」
仲間A「はいはい。こりゃ他人に見せられねえな」
カミル「二度言わせるな」
仲間たちが笑いをこらえながら奥へ消える。
カミルはカウンターから出ると、みみのすぐそばにしゃがみ込んだ。
カミル「……みみ。俺はここにいる」
そっと、ふわふわの頭を撫でる。
カミル「待たせて悪かったな」
(……俺に会いたくて、おしゃれして。こんなふうになるまで待ってたのかよ)
胸の奥が、きゅっと締まる。
カミル「……かわいいな、お前」
ぽつりとこぼれた本音。
言った本人が、わずかに目をそらした。
カミル「……仕事、さっさと片づけてくる。だから、そこにいてくれ」
そして、もう一度だけ、優しく頭を撫でた。
カミル「……帰ったら、いっぱい構ってやるからな」
みみ「みゃんみゃん……」
カミルがほんの少し目を離した、その隙だった。
みみはカウンターにふわふわ身を預けながら、近くのお客さんに、にっこにこの笑顔を向けていた。
みみ「ねえねえ、飲む?」
お客A「えっ、俺?」
みみ「うんっ。飲もー?」
お客A「……か、かわいいな、この子……」
カミル「…………」
カラン。
手にしていたバーツールが、カウンターに置かれた。
仲間A「……ボス」
仲間B「……早く回収しろ」
カミル「わかってる」
(……わかってるが。なんだ、その愛想のよさは)
みみ「みゃんみゃん……♪」
今度は別のお客さんに、にっこり。
みみ「そっちも飲むー?」
お客B「ぜひ――」
カミル「断る」
お客B「えっ?」
カミルはすっと二人の間に入った。
カミル「こいつは俺の連れだ。酒も出さねえ。悪いな」
お客B「あ、ああ……」
仲間A(……出た。ボスの回収タイム)
仲間B(遅えよ……!)
カミルはみみの前にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
カミル「……みみ」
氷青色の瞳が、困ったように細まる。
カミル「みゃんみゃん言いながら、他の客を誘うんじゃねえ……」
叱る声なのに、頭を撫でる手はやたら優しい。
カミル「……俺に会いに来たんだろ?」
少し間を置いて、彼は両腕を広げた。
カミル「ほら。おいで。もう酒はおしまいだ」
仲間A「ボス、今度こそ捕まえとけよ……」
仲間B「明日、本人が覚えてなかったらどうするんだ……」
カミル「…………」
(……頼む。今夜だけは、俺の腕の中で大人しくしていてくれ)
カミルは、みみがどうするのかじっと待った。