一ヶ月後、カミルの部屋
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あれから一ヶ月。カミル視点 幻燈街での騒ぎが落ち着いてから、みみはカミルの部屋で長い休暇を過ごしていた。
本文
あれから一ヶ月。
カミル視点
幻燈街での騒ぎが落ち着いてから、みみはカミルの部屋で長い休暇を過ごしていた。
長命種であるみみにとって、長期休暇は珍しいことではない。
朝はゆっくり起き、気が向けば街を散策する。特に予定を決めることもなく、その日の気分で過ごす日々。
カミルの部屋での暮らしにも、すっかり馴染んでいた。
ただ、一つだけ問題があった。
休暇中だというのに、みみはついつい店の手伝いをしてしまうのだ。
みみ「だって、みんな忙しそうだったから」
その話を聞いたカミルは、仕事へ出る支度の手を止めた。
カミル「……当たり前だ」
みみ「え?」
カミル「休暇中だと言ったはずだ。なぜ店の仕事をしている」
少し眉間にしわを寄せている。
怒っているというより、どうにも納得がいかない様子だった。
みみ「でも、少し手伝っただけだよ?」
カミル「少しでも仕事は仕事だ」
みみ「お皿を運んだり、お客様に注文を聞いたりしただけなのに」
カミル「それを仕事と言うんだ」
みみは思わず小さく笑った。
カミル「手伝いたい気持ちは分かる。店の連中とも顔なじみになったんだろう。だが、休んでいる間くらい、ゆっくりしていろ」
そう言って、カミルはみみの頬に手を添えた。
カミル「お前は客でも従業員でもない。休むときくらい、俺に甘やかされていろ」
みみ「……甘やかされるの?」
カミル「そうだ」
みみ「ふふ。それなら、ちょっと嬉しいかも」
カミル「それとも、俺がいないと退屈か?」
口元がわずかに緩む。
みみ「うーん……。お店にいるのも楽しいけど、カミルと一緒にいるのも好きだよ?」
その答えに、カミルの表情がほんの少し和らいだ。
けれど、その目はまだみみをじっと見つめていた。
実は、カミルにはもう一つ気になることがあった。
店を手伝っているみみには、客たちがよく声をかけていた。
親しげに話しかける者もいれば、用もないのに注文を重ねる者もいる。帰り際に、また会いたいと声をかける客までいた。
みみはそんなことを特に気にする様子もなく、いつも自然に笑顔を返している。
それが彼女らしさだと分かっている。
分かってはいるのだが。
カミル「みみ。店の客に愛想よくするのは構わん」
みみ「うん?」
カミル「だが、困るような誘いまで受ける必要はない。断りにくければ、俺を呼べ」
みみ「誘い?」
カミル「食事に行こうだの、店の外で会いたいだの……そういう話だ」
みみ「ああ。そういうことね」
みみは少し考えてから、カミルを見上げた。
みみ「カミル、もしかして心配してる?」
カミル「……俺の店で、お前に余計な気を遣わせたくない」
みみ「ふふ。ありがとう」
カミル「礼を言うことではない」
みみ「でも、ちゃんとカミルに言うね。困ったら」
カミル「そうしろ」
みみ「それに、私はカミルのところに帰ってくるよ?」
その言葉に、カミルの手が一瞬止まった。
カミル「……そうか」
いつもより少し低い声。
けれど、頬に添えられた手は優しかった。
みみ「うん」
カミル「……まったく」
小さく息をつくと、彼はみみの頬を指先で軽く撫でた。
カミル「昼飯にするぞ。今日は俺も時間を取った」
みみ「わあ。何を食べるの?」
カミル「お前の好きなものを用意させてある」
みみ「本当? 楽しみ!」
カミル「だから、今日は店のことは忘れておけ」
みみ「はーい」
せっかくの休暇なのだから、ゆっくり過ごしてほしい。
それはカミルの本心。
けれど、できることなら自分のそばで過ごしてほしいという気持ちも、どうやら隠しきれていないらしい。
みみはそんな彼の手を取ると、嬉しそうに笑った。