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夜会の裏のバルコニー

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/31 📚 シリーズ: 貴族社会の婚約日記 📝 1,771文字 ✅ 全年齢

あらすじ

アルバルト王国 貴族たちが多く住むとても華やかなこの王国 でもその裏にはたくさんの闇がある そんな王国で暮らす少年少女のちょっとした暮らしを描く日記 どうぞ最後までご覧ください

本文

ざわめきは、波のように広がった。

シリルの言葉を聞いた瞬間、庭園の空気が変わる。遠巻きにユノを見ていた令嬢たちが扇子を口元に寄せ、子息たちが目配せを交わす。誰も声には出さない。だが、その視線の全部が同じことを言っていた。

(オーカー公爵家の次期当主が、あのローズマリーの令嬢を?)

ユノはうつむいた。薄金髪が頬の線を隠す。

「……シリル様。ここで、その話をなさるのですか」

「あれ、まずかった?」

シリルは悪びれもしない。薄紫の髪を夜風に遊ばせたまま、アメジストの瞳を細めて笑ってみせる。

「隠すようなことでもないだろ。君は俺の婚約者だ。堂々としてればいい」

「堂々と、できる立場ではありませんわ。私は」

「そういうところだよ」

軽い口調のまま、シリルは一歩近づいた。その動きに、周囲の視線がさらに強くなる。

高い位置にいたレオンが、グラスを置いた。音は小さかったが、なぜかその場の全員が聞きつけたように静まった。サファイアの瞳が、庭園の隅の二人をまっすぐに見下ろしている。その視線に感情はない。ないはずなのに、見られている側は肌が粟立つ。

「シリル」

短く、冷たい声だった。

「なんだい、レオン」

「話があるなら、場所を選べ。ここは夜会だ」

「場所を選ぶのは得意だよ。今から選ぶところだった」

シリルはひらりと片手を上げ、ユノのほうへ顔を戻した。声を落とす。さっきまでの軽さが、ふっと薄くなる。

「少し、抜けない?」

「……どちらへ」

「バルコニー。あそこなら、俺たちを見てる連中も届かない」

ユノは迷った。断る理由なら山ほどある。兄が心配する。噂になる。この婚約は、彼にとっても得のない話のはずだ。平民の血を引く自分を、純血の貴族たちが陰で笑うように、ローズマリーの名を背負う自分もまた、彼の足枷になる。

それでも、ユノはうなずいていた。

「……お兄様に、一言だけ」

「ああ。アルなら、俺が話を通しておくよ」

アルは離れた場所から、妹の姿をじっと見ていた。ユノが目を向けると、彼は少しだけ眉を下げて笑い、小さくうなずいた。行っておいで、と。その仕草が、なぜか胸の奥に沁みた。

バルコニーへ続く石段は、夜露で冷えていた。手すりに触れると、ひやりとした感触が指先に伝わる。下ではまだワルツが続いている。ここまで来ると、音楽は遠い水音のようだった。

「寒くない?」

「平気ですわ」

「嘘。手、冷たい」

シリルが指先をかすめるように触れて、すぐに離した。それだけのことに、ユノの心臓が妙に跳ねた。

彼は手すりに背を預け、夜空を見上げる。ふわふわの薄紫が、星の光を受けて淡く光った。

「さっきの、怒ってる?」

「怒ってなど」

「でも、嫌だったろ。ああいうふうに、見せ物みたいに」

ユノは答えなかった。答えられなかった。当たっていたからだ。

「ごめん。わざとやった」

「……わざと」

「そう。あの場で言えば、レオンが黙ってない。アイツは俺の婚約の話を、たぶん一番気にしてる。何しろ、ローズマリーとオーカーが組むのを、王家が一番嫌がるからね」

ユノは顔を上げた。

「でしたら、なおさら」

「なおさら、隠す必要がある。そう思う?」

シリルは笑っていなかった。初めて見る、笑わない顔だった。アメジストの瞳が、夜の闇のほうを向いている。

「俺はね、ユノ。この婚約を、なかったことにしたいと思ってる人間が、この国に何人いるか数えたことがある。片手じゃ足りなかった」

「……シリル様」

「だから、今日みたいに堂々とやる。隠せば隠すほど、連中は面白がって嗅ぎ回る。だったら最初から、日の下に放り出しておくほうがいい」

風が吹いた。ユノの薄金髪がふわりと浮き、肩に落ちる。彼はそれを見ていた。

「それに、さ」

声が、少しだけ戻った。軽さが、戻ってきた。

「君が誰の許嫁か、はっきりさせておきたかったんだ。俺の我儘」

「……我儘、ですの」

「そう。悪い?」

ユノは答えに詰まって、手すりに指を絡めた。冷たい石の感触が、火照った頬にはちょうどよかった。

そのとき、バルコニーの入口のほうで、衣擦れの音がした。振り返ると、淡い灯りを背にした人影がある。肩下までの茶髪、イエロートルマリンの瞳。完璧な微笑みを浮かべたまま、アリス・ロナートが立っていた。

「ごめんなさい、お二人とも。迷子になってしまって。……でも、よかった。シリル様とユノ様でしたのね」

その声は、どこまでも甘かった。

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作者について

Kokone

Kokone

だいたい闇系と病み系ばっか書いてます! 友達に言ったら共感されましたw ハッピーエンドにしようとするともっと闇系とか病み系になるのはなんでw? ついでに私、学生です!

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