松茸さんのひとり事
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
それは、彼方から届いた、ちょっと不思議な物語。ショートショート
本文
……やれやれ、今夜も隣のパックから舞茸さんの「私が主役よ」と言わんばかりの強い香りが漂ってくるな。若いねぇ。
あちらのえのき君たちは「一本にしないで!」なんてキャーキャー騒いでいるし、きくらげ君は「豚バラは少量でいい」などと、相変わらず玄人好みのシブいこだわりを語っている。しめじ君に至っては「私はどこでも馴染みますので」と、八方美人の模範解答だ。
みんな、自分の魅力をどうアピールするかで大忙しだね。
だがね、ふと思うのだよ。
私はこの「きのこ専門店」の奥、桐の箱に納められてガラス越しに外を眺めているわけだが……
私を買いに来る人間たちの、あの独特な目つき。
値段のラベルを見て二度見し、ゴクリと唾を飲み込み、時には溜め息をついて通り過ぎていく。
「松茸様だ……」
そう崇められるのは、悪い気はしない。
だがね、私だってたまには思うのだよ。
『たまには私だって、うどんの具として気楽にドボンと煮込まれてみたい』とね。
人間たちは私を買うと、まるで国宝でも扱うかのように腰をかがめ、おがくずをそっと払い、薄切りにして「松茸ご飯」だの「土瓶蒸し」だの、緊張感ただよう料理にしてしまう。
網の上で焼かれる時なんて、周囲の人間全員が息をのんで私を見つめているんだよ?
焦がしたら大変だ、焼きすぎたら風味が逃げる、とね。……いやぁ、肩が凝るのなんの。
本当はね、もっと肩の力を抜いて楽しんでほしいのだよ。
香り? ああ、確かに自慢だがね、私の一番の望みは香りを誇ることじゃない。
私を一口食べた人間が、目をつむって「はぁ〜……秋だなぁ……」と幸せそうに脱力する、あの瞬間を見ることなのだから。
おや、東の空が少し白んできたな。そろそろ開店の時間だ。
今日私を連れて帰るのは、どんな人間だろうね。
年配のご夫婦か、それとも奮発した若者か。
まあ、誰に買われるにしても、私にできることはひとつだけだ。
——極上の香りで、その家の食卓を「一瞬で秋の京都」に変えて見せること。
さあ、今日も高嶺の花として、どっしりと鎮座するとしようかね。