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新作落語「きのこ会議」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/31 📚 シリーズ: JJ 現代落語帳 📝 3,088文字 ✅ 全年齢

あらすじ

SFも不思議も、まとめて落語で。

本文

新作落語「きのこ会議」

(軽く一礼)

えー、お運びいただきまして、ありがとうございます。

スーパーの野菜売り場というのは、よく見ておりますと、人間が真剣になる場所でございます。

トマトを手に取って、くるっと回して、戻す。もうひとつ取って、くるっと回して、戻す。結局、最初のを買う。

あれ、トマトの方は、たまったもんじゃございません。「なんだ、俺でよかったのか」と。

売られる側にも、売られる側の言い分がある。夜中にこっそり、そんな相談をしていたらどうなるか。今日は、そんなお噂を一席。

本編

深夜二時。明かりの消えたきのこ専門店のショーケースで、パキッと小さな音がして、ライトがぼんやり点きまして。

「第四十二回、美味しく食べていただくための事前対策会議」

これが始まります。

議長は、パックの真ん中にいつも座っているしめじ。

(扇子をすっと立てて、穏やかな声で)

「えー、みなさん。明日も開店と同時にお客さまがお見えになります。我々の使命は、ただ選ばれることではございません。『最高の形で調理されること』。ご主張のある方から、どうぞ」

真っ先に手が挙がった。えのきでございます。数本が肩を寄せ合って、ぶるぶる震えている。

(扇子を小刻みに震わせ、早口の高い声で)

「あの! あの! 私たち、とにかく束で扱ってください! 一本になった途端、個性が消えるんです! 汁物の隅っこで迷子になるんです! ベーコンできつく巻いてくださるか、鍋の真ん中でスクラムを組ませてください!」

「よろしい。えのきの皆さんは『巻く』か『まとめる』で、議事録に残しましょう」

「ありがとうございます! あっ、でもスクラムが緩んだら、どうしましょう!」

「そこは、お客さまの腕次第です」

「そんな! 不安です! 不安で、また震えてきました!」

「もう震えておられますよ」

えのきは、常にこの調子で。静かなのは、茹でられたあとだけでございます。

するってえと、パックの隅から、ふわりといい香りが漂ってくる。舞茸が、優雅に身を乗り出した。

(扇子を口元にかざし、気取った声で)

「フッ……余計な調理法など不要ですわ。私が少し熱を帯びるだけで、このお店全体が、私の香りで満たされますのよ。素揚げか、せいぜいバター醤油のソテー。主役の座は譲りませんの」

「相変わらず華やかですね、舞茸さんは」

「当然ですわ。ほら、お隣のえのきさん、もう少し離れてくださる? 香りが混ざってしまうでしょう」

「す、すみません!」

「それに、鍋の真ん中でスクラムなんて、野蛮ではなくて? お行儀の悪い」

「ひどい! ぶるぶる」

「震えないでくださる? 揺れるとわたくしの香りが散りますの」

自慢というのは、聞かされる方に迷惑なもんで。

そこへ、奥の黒い影から、低い声がした。

(扇子を膝の前に下ろし、ぐっと低く、ゆっくりと)

「……フン」

きくらげでございます。

「見た目の派手さや、香りに惑わされるのは素人だ。料理の神髄は、食感にある」

しん、と静まり返りまして。きくらげ、ツヤツヤの身を、ゆらり。

「私は卵と組む。豚バラは、少量でいい」

えのきたち、ざわざわ。

「おお……完全に『木須肉』の黄金比を理解している……!」

「引き算だ。足せば足すほど、料理は濁る」

「く……」

舞茸、悔しそうに香りを強めまして。

「わ、わたくしだって、引き算くらい……」

「香りで押してる時点で、足し算だ」

「ぐぬぬ」

職人というのは、無口なようで、ひと言が重い。

さて、そのやりとりを、不安そうに見ていたのが、白いヒダをひらひらさせているハナビラタケ。

(扇子を胸の前で小さく持ち、おずおずと)

「あの……私は、どうすればいいでしょうか。お惣菜コーナーのお客さんにも、『あら、このお花かわいい』って言われるんです。私は、お花として生け垣に並ぶべきなのか、それとも中華炒めに入ればいいのか……自分のアイデンティティが、分からなくて……」

「花屋に行けと言われるきのこは、初めて聞きましたな」

「しめじさんまで!」

「失礼しました」

しめじ、咳払いをひとつして、やさしく。

「ハナビラタケさん。あなたの美しさとシャキシャキ感は、白いスープや出汁に浮いたとき、一番映えます。お花であり、同時に、最高のきのこなのですよ」

「まあ……! スープのお花……! それなら、頑張れそうです!」

ぱっと明るくなりまして、場がほっこりしたところで、えのきの一本が、ふと手を挙げた。

「そういえば、しめじ議長ご自身は、どんな料理になりたいんですか?」

(間)

しめじ、ちょっと考えて、いつもの無難で完璧な笑顔。

「私ですか? 炊き込みご飯でも、パスタでも、お味噌汁でも、シチューの具でも構いません。主張しすぎず、かといって邪魔にもならず、どこにでも馴染んでみせますよ」

「さすが……どんなレシピ本にも、とりあえず名前が載る男……」

(きくらげの低い声で)

「うむ。あれは、ひとつの才能だ」

「いえいえ、それほどでも」

「議長、いちばん得をしてません?」

「どうでしょう。得をしているというより、争う気がないだけで」

「それを世間では、得と言うんです!」

(扇子をぱちんと閉じて)

「さあ、これで準備は万全。みなさん、各自のベストな調理法を思い描いて、床に就いてください」

パチン。ショーケースの明かりが消えまして、きのこたちは静かに目を閉じた。

えのきは束でスクラムを夢に見る。舞茸はバターの香りの中で拍手を浴びる。きくらげは卵とそっと寄り添い、ハナビラタケは白いスープに、ぷかり。

しめじは、なんにも夢を見ない。どこへでも行けますので。

(間)

さて、明くる朝。

開店の鐘が、からんからん。

最初のお客さまは、背広のおじさん。ひとり暮らしの風情で、買い物かごを下げて、ショーケースの前にすっと立った。

きのこたち、息を呑んだ。

「き、来た……」

「落ち着いて! 整列!」

「わたくし、身だしなみは……」

「香りが、すでに十分です」

おじさん、しばらく眺めてから、ぼそり。

(扇子を口元に寄せて、やや低く)

「……このきのこ、全部ください」

(間)

「ぜ……」

「全部!?」

「全員だ! 全員選ばれたぞ!」

えのき、ぶるぶる。舞茸、うっとり。きくらげ、ふっと満足そうに。ハナビラタケは、嬉し泣き。

「議長! これは、大勝利では!」

「ええ……ええ、そうですね。みなさん、これまでの努力が実を結びました」

しめじも、さすがに目頭が熱くなる。

「えのきは巻かれ、舞茸は揚げられ、きくらげは卵と、ハナビラタケはスープに。ああ、会議の成果が、すべて叶う……!」

ところが、おじさん、にっこり。

「今日は寒いから、鍋にしよう」

(間)

「全部、入れちゃおう」

(扇子をぱたり)

……。

全員、絶句。

えのき、震えが止まる。舞茸、香りが引っ込む。きくらげ、ツヤが消える。ハナビラタケ、白いヒダがしおしおとしぼむ。

「……なべ」

「……ぜんぶ」

「同じ鍋に」

「バター醤油は……」

「卵は……」

「木須肉は……」

「スープの、お花は……」

「ねえ、議長」

しめじが、遠い目で、ぽつり。

(穏やかな声で)

「……ええ。どこにでも馴染む、と申しましたが」

「はい」

「鍋は、想定しておりませんでした」

「議長ーーッ!」

そのまま、きのこたち、レジへ、かごへ、お家へ。

ぐつぐつ煮えるお鍋の中で、えのきは結局スクラムを組み、舞茸の香りは湯気に混ざり、きくらげはこりこりと存在を主張する。

そして、お鍋のふたをそっと開けたおじさん、ひとこと。

「うん。いいダシが出た」

きのこたち、湯の中で、顔を見合わせまして。

しめじ、ゆらゆら浮かびながら、静かに申しました。

「みなさん、昨夜の議題……見事に、煮詰まりました」

お後がよろしいようで。

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JJ

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