きのこ会議

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/31 📚 シリーズ: JJ 現代落語帳 📝 1,424文字 ✅ 全年齢

あらすじ

深夜2時、明かりの消えたきのこ専門店のショーケース。パキッという小さな音とともに、ライトがうっすらと点灯し、「第42回・美味しく食べていただくための事前対策会議」が始まりました。議長を務めるのは、パックの中でいつも中央に座っているしめじです。「えー、みなさん。明日も開店と同時に多くのお客さまが来られます。我々の使命は、ただ選ばれるだけでなく『最高の形で調理されること』。主張のある方からどうぞ」

本文

深夜2時、明かりの消えたきのこ専門店のショーケース。 パキッという小さな音とともに、ライトがうっすらと点灯し、「第42回・美味しく食べていただくための事前対策会議」が始まりました。

議長を務めるのは、パックの中でいつも中央に座っているしめじです。

「えー、みなさん。明日も開店と同時に多くのお客さまが来られます。我々の使命は、ただ選ばれるだけでなく『最高の形で調理されること』。主張のある方からどうぞ」

真っ先に手を挙げたのは、数本が肩を寄せ合って震えているえのきたちでした。

「あの! 私たちはとにかく束で扱ってください! 一本になると急に個性が消えて、汁物の隅っこで迷子になるんです……! できればベーコンできつく巻いていただくか、鍋の真ん中でスクラムを組ませてください!」

「よろしい。えのき群は『巻く』か『まとめる』で議事録に残しましょう」 しめじが淡々と頷きます。

すると、パックの隅から優雅な香気を漂わせながら、舞茸がフワリと身を乗り出しました。

「フッ……余計な調理法など不要ですわ。私が少し熱を帯びるだけで、この店全体が私の香りで満たされるのですから。素揚げか、せいぜいバター醤油のソテー。主役の座は譲りませんの」

「相変わらず華やかですね、舞茸さんは」 しめじが当たり障りのない相槌を打っていると、奥の黒い影から、静かだが確信に満ちた声が響きました。

きくらげです。

「フン、見た目の派手さや香りに惑わされるのは素人だ。料理の神髄は『食感』にある」

みんなが静まり返ると、きくらげは自分のツヤツヤとした身を誇らしげに揺らしました。

「私は卵と組む。豚バラは少量でいい。」

えのきたちが「おお……! 完全に『木須肉(ムースーロー)』の黄金比を理解している……!」とざわめきました。無駄のない引き算の美学に、舞茸も少し悔しそうに香りを強めます。

その時、ひらひらとした白いヒダを揺らしながら、少し不安そうにハナビラタケが発言しました。

「あの……私は、どうすればいいでしょうか。お惣菜コーナーのお客さんにも『あら、このお花かわいい』って言われるんです。私はお花として生け垣に並ぶべきなのか、それとも中華炒めに入ればいいのか……自分のアイデンティティが分からなくて……」

「ハナビラタケさん、落ち着いて」

しめじが優しく声をかけます。

「あなたのその美しさとシャキシャキ感は、白いスープや出汁に浮いた時に一番映えます。お花であり、同時に最高のきのこなのですよ」

「まあ……! スープのお花……! それなら頑張れそうです!」

ハナビラタケがパッと明るくなったところで、えのきの一本がふと疑問を口にしました。

「そういえば、しめじ議長ごご自身は、どんな料理になりたいんですか?」

しめじは少し考え、いつもの無難で完璧なスマイルを浮かべました。

「私ですか? 私は炊き込みご飯でも、パスタでも、お味噌汁でも、シチューの具でも構いません。主張しすぎず、かといって邪魔にもならず、どこにでも馴染んで見せますよ」

「さすが……どんなレシピ本にもとりあえず名前が載る男……!」

きくらげが感心したように呟きました。

「よし、明日の開店に向けて準備は万全ですね。みなさん、各自のベストな調理法をイメージして床に就いてください」

しめじの合図でショーケースの明かりが消え、きのこたちは静かに目を閉じました。

明日の朝、一番最初に買われていくのがどのきのこであっても、きっと最高のひと皿になる予感がします。

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JJ

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