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アルの気遣い

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/1 📚 シリーズ: 貴族社会の婚約日記 📝 1,387文字 ✅ 全年齢

あらすじ

アルバルト王国 貴族たちが多く住むとても華やかなこの王国 でもその裏にはたくさんの闇がある そんな王国で暮らす少年少女のちょっとした暮らしを描く日記 どうぞ最後までご覧ください

本文

廊下は、広間の灯りが届かないぶん、かえって静かだった。天井の高い窓に夜が貼りついて、擦りガラスの向こうで馬車の灯がひとつ、またひとつと動いている。

ユノはシリルに手を引かれたまま、絨毯の柔らかい足ざわりを踏んでいた。指先はまだ、彼の手のひらの冷たさを覚えている。

「あ」

シリルが、不意に足を止めた。

廊下の突き当たり、柱の陰から、黒い髪がひと房のぞいていた。ゆるふわのセンターパート。レッドダイヤモンドの瞳が、灯りを拾って、こちらを見ている。

「お兄様」

「やあ」

アル・ローズマリーは、壁にもたれた姿勢のまま、片手を軽く上げた。その手には、湯気の立つ紅茶のカップが二つ。片方をユノへ差し出して、もう片方は……少し迷ってから、シリルのほうへも向けた。

「迎えに来た。遅いからな。……で、これ、飲むか?」

「お兄様、こんなところで何を」

「待ってたんだよ。広間のほうは、なんか妙に静かになったり、急に音が戻ったりしてただろ。あれ、たぶん妹が何かやらかした音だなって思って」

ユノは、カップを受け取る手が止まった。

「やらかして、おりませんわ」

「うん。わかってる。……たぶん、ちゃんとやったんだろ」

アルはそう言って、目を細めた。笑い方に、棘がない。第1話の庭園で紅茶を差し出したときと、同じ笑い方だった。

シリルが、差し出されたカップを受け取った。

「悪いな。助かる」

「どういたしまして。……で」

アルの声が、ほんの少しだけ低くなった。軽さは残したまま、その下に、別のものが沈んでいる。

「うちの妹を、広間の真ん中に立たせたのは、どこのどいつだ」

「俺だ」

シリルは、隠さなかった。

「そっか」

アルは、うなずいた。それきり、何も言わなかった。紅茶を一口飲んで、それから、シリルの肩を軽く叩いた。叩き方に、力は入っていなかった。けれど、手を離すのが、少しだけ遅かった。

「まあ、いい。あの子が自分で立ったなら、それでいい。……俺が前に出ると、あの子が嫌がるからな」

ユノは、カップを両手で包んだ。湯気が、鼻の奥をくすぐる。庭園で飲んだのと同じ香りだった。

「お兄様」

「なんだ」

「わたくし、言いましたの。自分の口で。望んでおります、と」

アルは、しばらく黙って妹を見ていた。それから、カップの縁に口をつけて、短く息を吐いた。

「……そりゃ、よかった」

それは、祝いの言葉というより、確認だった。確認して、安心して、それから少しだけ寂しそうだった。兄というのは、そういうものなのかもしれない、とユノは思った。

「じゃあ、俺は帰る。……ああ、そうだ」

アルは、柱の陰から一歩出て、シリルのほうを向いた。

「シリル。馬車、うちのを使え。こっちのほうが近い」

「いいのか」

「妹を送るのに、他家の馬車に揺られて帰られるのは、さすがに兄として格好がつかないんでな」

そう言って、彼はもう振り返っていた。ひらひらと手を振る背中が、廊下の奥へ消えていく。最後に、こちらを見ずに、声だけが残った。

「ユノ。紅茶、冷める前に飲めよ」

廊下の突き当たりで、黒い髪が角を曲がった。それきり、足音もしなくなった。

シリルが、隣で小さく笑った。

「いい兄貴だな」

「……はい。少し、過保護ですけれど」

「うちも大概だよ。母さんが平民だから、余計にな。……行くか」

彼はカップを片手に、もう片方の手を差し出した。さっきまで冷たかった指先が、今は少しだけ温かい。

ユノは、その手を取った。

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作者について

Kokone

Kokone

だいたい闇系と病み系ばっか書いてます! 友達に言ったら共感されましたw ハッピーエンドにしようとするともっと闇系とか病み系になるのはなんでw? ついでに私、学生です!

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