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2-4 抜け出した聖女

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/1 📚 シリーズ: アストラリア大陸事変 📝 2,965文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王亡き世界で、再び魔の時代が動き出す。 魔王ゼルヴァディスが討たれてから、六百二十八年。 平和を取り戻したアストラリア大陸では、三つの主要勢力が微妙な均衡を保ちながら共存していた。 しかし、今なお人の立ち入れない旧魔王領では、魔物たちが静かに活動範囲を広げ始めていた。 各地では怪しい薬が出回り、魔王を崇める新興宗教も勢力を増していく。 そんな異変をまだ知らず、自由交易都市に暮らす青年レオン・ヴェスタは、見知らぬ世界を求めて旅立つ。 やがて彼は、森の外へ憧れる若きエルフの癒し手フィリアと、その護衛リュシアに出会う。 三人の小さな旅立ちは、やがて国家、宗教、人間、魔物――大陸に生きる者すべてを巻き込む事変へ繋がっていく。 善と悪の境界が揺らぐ世界で、彼らは何を知り、何を選ぶのか。 これは、魔王亡き世界で再び動き始めた、魔の時代を巡る物語。

本文

新暦628年、4月11日。

夜。

食事処での騒動から少し後。

レオンたちは、途中になっていた夕食を無事に済ませ、店を後にしていた。

フィリアは地味な外套を羽織り、フードを目深に被ったまま、

上機嫌で歩いている。

「いや〜、ラッキーだったね! まさか奢ってもらえるなんて」

そう。

三人が食事を済ませ、会計をしようとしたところ、

どこの誰とも知らない客が食事代を出してくれていたのだ。

理由は、面白いものを見せてもらったから。

そして、リュシアが可愛かったから。

そう店主が笑いながら教えてくれた。

「思ったんだけどさ」

レオンは隣を歩くリュシアを見た。

「リュシアも外套を羽織った方がいいんじゃないか?

正直、リュシアもフィリアと同じくらい注目を集めてると思うよ」

「そうでしょうか?」

リュシアは首を傾げる。

「今日のは、たまたまだと思いますけど」

(自覚なしか……)

レオンは心の中で呟いた。

リュシアはフィリアとは違う意味で目立つ。

フィリアが陽だまりのように人目を引くなら、

リュシアは月光のように視線を奪う。

冷静で、凛としていて、近寄りがたいほど整っている。

あれで注目されていないと思っているのなら、なかなかのものだ。

「そうだよ〜、リュシアも被りなよ〜」

フィリアがにやにやと笑う。

「ふっふっふ。リュシアもこっち側に来るのだ〜」

「フィリア様は、道連れにしたいだけでしょう。

適当なことを言わないでください」

「ぶ〜。リュシアだけずるい〜」

「……帰りますよ?」

「すみませんでした!」

フィリアは即座に頭を下げた。

その様子を見ながら、レオンは少し意外に思っていた。

面倒事を嫌うリュシアなら、外套を羽織る案には乗ってくると

思っていたのだ。

(もしかして、可愛いとか綺麗とか言われるのが、満更でもないのか?)

そこまで考えて、レオンはすぐに小さく笑った。

(いや、そんなわけないか)

「なんですか、レオン」

リュシアがこちらを見る。

「何か言いたげですね」

「いや、なんでもない」

レオンは慌てて首を振った。

「本当に?」

「本当に」

「そうですか」

リュシアの視線はしばらく刺さっていたが、やがて前へ戻った。

フィリアはその横で、何が面白いのか小さく笑っている。

そんなふうに宿へ向かって歩いていると、不意に後ろから声がかかった。

「あ、あの……す、すみません」

三人は足を止め、振り返る。

そこに立っていたのは、小柄な人影だった。

フィリアと同じように、地味な外套を羽織り、

フードを深く被っている。

背丈は低く、声もまだ幼い。

おそらく子供だろう。

レオンは少し身を屈めるようにして、できるだけ柔らかく声をかけた。

「どうしたの? 迷子?」

「ち、違います」

フードの子は慌てて首を横に振った。

「あの、さっきのことが凄かったから……声をかけたくなっちゃって……」

「さっきのこと?」

レオンとリュシアは顔を見合わせた。

フィリアはすぐに理解したらしく、ぱっと顔を輝かせる。

「レオンが戦ってたやつでしょ〜! あれ、凄かったよね!」

「はい……!」

フードの子は、少しだけ声を弾ませた。

「凄くかっこよかったです! それに、そちらのお姉様も綺麗で……

我慢できなくて、声をかけちゃいました」

「そうでしょうか」

リュシアは涼しい顔で答えた。

だが、その声には、ほんのわずかに柔らかさが混ざっている。

レオンはそれに気づき、内心で頷いた。

(やっぱり?)

「ねぇねぇ」

フィリアが興味津々で、フードの子を覗き込む。

「ところで、なんでフード被ってるの?」

フードの子は一瞬、困ったように固まった。

それは、あなたもでは。

そう言いたげだったが、口には出さなかった。

「これは……ちょっと、訳があって……」

「ふ〜ん」

フィリアは小さく頷いた。

そして次の瞬間。

「ほいっ!」

「えっ」

フィリアは、その子のフードを軽く取ってしまった。

淡い金色の髪が、夜の灯りの下にこぼれる。

まだ幼さの残る顔立ち。

薄い青の瞳。

白い肌。

そして、どこか儚げな空気。

フィリアは目を丸くした。

「わぁ、すっごい可愛いじゃん!」

フードの子は慌てて両手でフードを掴み、もう一度深く被り直した。

「な、な、何をしているんですか!」

リュシアの手刀が、フィリアの頭に落ちる。

「ふげっ」

フィリアが変な声を漏らした。

「何か訳があって隠しているものを、勝手に取っては駄目じゃないですか」

「いや〜、つい……」

「つい、ではありません」

リュシアは冷たい目でフィリアを見下ろした。

レオンはそのやり取りを聞きながらも、先ほど一瞬だけ見えた少女の顔を

思い出していた。

宿場町で耳にした、幼い聖女の名が頭をよぎった。

「もしかして……」

レオンは小さく呟いた。

「聖女アリアか?」

その名を聞いた瞬間、フードの子の肩がびくりと跳ねた。

彼女は両手でフードの端をぎゅっと握る。

「あ、あの……すみませんでした。私、帰ります」

そう言うと、少女は踵を返して走り去ろうとした。

だが。

「ちょっと待った〜!」

フィリアがその手を掴んだ。

「は、離してください……!」

アリアは焦ったように声を上げる。

だが、フィリアは力任せに引っ張るのではなく、そっと手を握ったまま、

アリアを自分の方へ向かせた。

そして、彼女の目線に合わせるように膝を折る。

フードの奥で揺れる少女の瞳を、まっすぐに見つめた。

「アリアちゃんっていうの?」

アリアは答えない。

けれど、否定もしなかった。

フィリアは柔らかく笑う。

「ねぇ、何かあって話しかけてきたんでしょ? 私、分かるよ。

アリアちゃん、そんな目をしてたもん」

「いや、違くて……ただ、話しかけたかっただけです……」

アリアは小さく首を振った。

フィリアは少しだけ目を細める。

「アリアちゃん、夕方、馬車に乗ってた子でしょ?」

アリアの瞳が揺れた。

「私と目が合ったよね。あの時も、同じ目をしてた」

「同じ、目……?」

「うん」

フィリアは頷く。

「何かから逃げてきたんじゃない?」

リュシアの表情が一瞬で鋭くなる。

「本当ですか? 暴漢ですか?」

「いやいや、そういうのじゃないよ〜」

フィリアは慌てて手を振った。

「きっとアリアちゃんは、不安とか、退屈とか、そういうものから

逃げてきたんじゃない?」

アリアは目を見開いた。

「え……? なんで、そんなこと……」

「分かるよ!」

フィリアは明るく言った。

「私と同じだもん!」

「私と……同じ……?」

その声は、戸惑っていた。

けれど、拒絶ではなかった。

フィリアはにっと笑った。

「うん! よ〜し、そうと決まれば、お姉さん一肌脱いじゃおうかな!」

「え?」

「行こう!」

フィリアはアリアの手を引いて、自分たちが泊まる宿の方へ走り出した。

「ちょっと、フィリア様!」

リュシアが慌てて追いかける。

「相手の事情も確認せずに連れて行かないでください!」

「確認するために連れてくの〜!」

「順序がおかしいです!」

レオンもその後を追いながら、頭をかいた。

「これはまた、随分なことになったな……」

アリアは、フィリアに手を引かれたまま走っていた。

本当に付いていっていいのだろうか。

父に見つかったら、きっと叱られる。

母も心配する。

教団の人たちも騒ぐかもしれない。

帰らなければいけない。

そう思うのに。

なぜだろう、抵抗する気にはなれなかった。

フィリアの手は温かく、まるで、窮屈な場所から少しだけ

引っ張り出してくれるような手だった。

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