アムステルダムにて赤毛連盟
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
横浜港を出た豪華客船「アストラル・クイーン」は、大西洋を越え、アムステルダムの運河に停泊した。最上級スイートで目を覚ました蔵馬の植物製サラシは、妖力の緩みでいつもより薄く、肌に張り付いている。隣では武威がすでに起き、窓の外の運河を睨んでいた。船長からの手紙が届く。
本文
横浜港を出た豪華客船「アストラル・クイーン」は、大西洋を越え、アムステルダムの運河に停泊した。
最上級スイートで目を覚ました蔵馬の植物製サラシは、妖力の緩みでいつもより薄く、肌に張り付いている。隣では武威がすでに起き、窓の外の運河を睨んでいた。
船長からの手紙が届く。
>「アムステルダム、赤レンガ倉庫街142番地。赤毛の者だけが集う秘密結社『赤毛連盟』が、蔵馬嬢の植物の力を求めている。潜入せよ。報酬は、新婚旅行の続きを保証する」
武威「行くか」
蔵馬「ええ。でも、あそこは”視線”の街よ。覚悟して」
二人は変装する。武威は黒いロングコート、蔵馬は妖力で生んだ深緑のベルベットのドレス。胸元は植物の蔦で編まれ、動くたびにきゅっと締まり、緩む仕掛けだ。
倉庫の扉を叩くと、赤毛の男が二人。「合言葉を」
蔵馬が一歩前に出て、微笑む。
「合言葉はいらないわ。あなた方が本当に集めているのは、”赤毛”ではなく”赤い魔草”でしょう?」
男たちは動揺する。蔵馬は妖力で手のひらに小さな赤い花を咲かせる。幻の花『ルビー・ローズ』だった。
「……その花を、私の身体で育ててみる?」
第一章 - 赤毛連盟の真相
倉庫の奥、暖炉の前。武威に見守られながら、蔵馬はドレスの蔦を緩める。
男の一人が悔しそうに呟く。「だから我々は失敗したのか……」
武威が真相を解く。
「赤毛連盟の謎は解けたな。お前らは”赤毛”という条件で人を騙して集め、地下室で魔草を栽培させていた。だが、植物は持ち主の心を読む。お前らの欲だけで育つはずがない」
蔵馬は武威の胸に背を預ける。
「この子は……私が愛されてると感じた時だけ、咲くの」
奥の扉が開く。そこには枯れかけた大量の魔草の鉢植えが。
蔵馬「かわいそう。あなた達、もっと優しくしてあげなきゃ」
二人は手を取り合い、鉢に触れる。蔵馬の妖力が、武威の体温を通して伝わっていく。
枯れていたはずの魔草が、一斉に小さな赤い花を咲かせ始めた。倉庫全体が甘い香りで満ちる。
「……咲いた。5年探して、初めて見た」
緊張が解けた瞬間、蔵馬の身体から力が抜ける。妖力を大量に使った反動で、ドレスの蔦がぷつんと音を立てて緩む。武威は自分の黒いコートを脱ぎ、蔵馬の肩にかける。
男たちは気を利かせて倉庫の外へ出ていく。扉が閉まり、パチパチと薪のはぜる音だけが残る。
蔵馬はコートの中で、武威のシャツの裾をきゅっと握る。
「さっき、”愛されてると感じた時だけ咲く”って言ったでしょう?証明して。私が、どれだけ愛されてるか。花に、見せつけてあげて」
武威は蔵馬のコートの合わせ目から手を滑り込ませ、背中のサラシの結び目をゆっくりと解く。蔵馬の吐息が少しずつ熱を帯びる。
蔵馬「ん……武威の手、熱い……」
武威「お前の方が熱い」
二人は毛皮の上に倒れ込む。コートが二人を包む小さなテントになる。外からはもう何も見えない。暖炉の光が隙間から差し込み、二人の影だけが重なって揺れる。
武威「愛してる。任務でも、契約でもない。お前自身を」
蔵馬「私も。あなたに、全部あげる。だから、もっと……私を、あなたの妻にして」
倉庫の中の赤い花たちが、一斉に満開になる。まるで二人の体温に共鳴するように。
その夜、赤レンガ倉庫は、外からは鍵がかかっているのに、中からは甘い香りと、誰にも聞かせない二人の囁きだけが、一晩中漏れ続けていた。
第二章 - 花市場デート
翌朝。運河沿いの花市場は貸し切りになっていた。
武威は人混みが苦手で不機嫌そうに立っている。だが、蔵馬が現れた途端、表情が変わる。白いニットのワンピース。妖力のサラシは薄いベージュで、寒いので武威のコートを借りている。大きすぎて手首まで隠れているのが愛おしい。
店主のおばあちゃんが言う。「新婚さんかい?好きな花を持っていきな」
蔵馬が一輪の白いチューリップを手に取った瞬間、武威が後ろからそっと抱きしめる。
武威「白いチューリップの花言葉は”失われた愛”。だが、俺がお前に渡すなら意味は変わる。”お前を失ったら、俺は終わりだ”って意味になる」
蔵馬の頬が真っ赤になる。「ずるいわ、そんな言い方」
次に武威が手に取ったのは、深紅のバラ。「これは”情熱的な愛”。そのままだな。お前への」
蔵馬は耐えきれず、武威のコートの中に顔を埋める。
「もう、花言葉はいいの。直接、言って」
武威は公衆の面前で、蔵馬の顎を持ち上げ、深くキスをする。長いキスの後、蔵馬はふらつき、武威にしがみつく。
「早く帰りましょう?花はもう、十分」
最終章 - 帰宅後、貸し切りスイートで
船長のはからいで、最上階スイートは窓の外まで花で飾られていた。ドアが閉まった瞬間、蔵馬の方から仕掛ける。
蔵馬は買ってきたチューリップをベッドにばら撒き、その上に自ら倒れ込む。白いニットが花びらの中で乱れる。
「ねえ、武威。この花の上でなら、もっと綺麗に咲けるかしら?」
武威はベッドの端に膝をつき、蔵馬の足首を取る。
蔵馬「自分で解けないの。あなたに、解いてほしい」
合意の言葉だ。武威はニットの裾の下から手を滑り込ませる。見えないところで、二人だけが分かる方法で。
サラシが解ける感覚と同時に、蔵馬の背中が小さく反る。
「ん……武威……そこ、弱いの、知ってるくせに」
「知ってるから、触るんだ」
ベッド中に散らばったチューリップの花びらが、二人の動きで舞い上がる。白い花びらが、蔵馬の肌に張り付く。
蔵馬は武威のシャツを握りしめ、囁く。
「もっと、近くに来て。花言葉じゃなくて、あなたの声で」
武威は蔵馬の額に額を寄せる。
「愛してる。世界で一番、お前が綺麗だ。お前は俺の妻だ」
その言葉を聞いた途端、蔵馬の中で何かが弾ける。昨日倉庫で咲いたのと同じ、赤い小さな花が、今度は二人のベッドのあちこちで、妖力の光と共に咲き始める。
蔵馬「武威……このまま、朝まで……離れないで」
武威「離れるわけないだろ。一生だ」
二人の影は、花びらの中で一つに溶け、朝日が運河を照らすまで、ずっと離れなかった。
アムステルダムでの「赤毛連盟」事件は、こうして”世界で一番花が咲いた新婚旅行”として、船の航海日誌に記録された。
- 完 -