第一話
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔王倒して、無職になった英雄たちがノーパンメイド喫茶で働く話。
本文
魔王の討伐から三年。世界は平和になり、英雄たちは路頭に迷っていた。
カインが最初に気づいたのは、自分の剣がもう誰にも必要とされていないという事実だった。鍛え抜かれた銀の刃は、今はただの重い鉄塊だ。隣で同じく呆然としているのは、聖女エリナ。かつては闇を浄化する光を放っていた彼女も、今やその輝きを失い、コンビニのレジ打ちバイトすら雇ってくれないという現実の前に立っている。そして最後尾には、元盗賊ギルドの首領にして「影」と呼ばれた男、ロイド。彼は無言のまま、自分の指先を見つめていた。あの指先で、王都の金庫を開け、魔王の心臓を抉り出したはずなのに。
「……どうする」
カインが低く唸る。財布の中身は、最後の晩餐代で消えた。家賃は滞納し、大家からの督促状は毎日ポストに届く。英雄として扱われる待遇は、引退した瞬間に消滅した。
そんな時、街角の掲示板に貼られた一枚のチラシが目に入った。派手なピンク色の背景に、黒字で太く書かれている。
『ノーパンメイド喫茶「天罰」 急募! 高給保証!』
三人の視線が交錯する。
「……ノーパン?」
エリナが眉をひそめた。彼女は清純の象徴だった。だが、腹の虫が鳴った。
「条件を見ろ」
ロイドが冷たく言い、指で紙面をなぞる。
「時給一万円。食事付き。寮完備。ただし、制服は指定のもののみ着用。下着類の着用は禁止」
「正気かよ」
カインが吐き捨てるように言ったが、足はすでにそのカフェの方向へ向いていた。
翌日、彼らは「天罰」の裏口から潜入した。オーナーは、魔王軍の残党だと噂される謎の美女、ミレディアだった。彼女は紫煙をくゆらせながら、三人の履歴書——いや、武勲書を眺めている。
「ふん、魔王を倒した英雄様方が、私の店に来るとはね」
ミレディアの声は甘く、しかし底知れぬ威圧感を伴っていた。
「仕事内容は簡単です。お客様にコーヒーを提供し、笑顔で接客すること。それだけです」
「下着なしで?」
エリナが震える声で確認する。
「ええ。それがこの店のポリシーです。お客様の視線を釘付けにし、売上を伸ばすためなら、羞恥心など捨ててもらう」
ミレディアはニヤリと笑う。
「拒否権はありません。契約書にサインすれば、今日から住み込みで働けます。生活保護より遥かにマシでしょう?」
カインが拳を握りしめる。プライドが許さない。だが、空腹が勝る。彼はペンを取った。エリナも、涙目でロイドを見た。ロイドは無表情のまま、自分の分だけ先に署名していた。
「……行くぞ」
カインが呟いた。
最初のシフトが始まった。
店内は薄暗く、ジャズが流れている。客席には、なぜか近所のオジサンや、OL風の女性たちが座っている。全員が入口付近の「特別席」——つまり、英雄たちの立つ場所を見ているわけではない。だが、空気は重かった。
英雄達が着ているのは、フリルのついたミニスカートと、白いブラウス。そして、当然のように、その下は何もない。布一枚隔てたところに、風が吹けば肌寒さを感じ、視線があれば灼熱を感じる空間がある。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
エリナが硬い声で言う。彼女の頬は真っ赤に染まり、膝がガクガクと震えている。
「お、お茶を持ってくる」
カインが慌てて立ち上がり、トレイを持った。彼の動きは不自然にぎこちない。スカートの裾が揺れるたびに、彼は自分の股間を気にして足を閉じがちになる。
「おい、カイン。姿勢を正せ」
背後からロイドの声が飛ぶ。ロイドだけは冷静だった。彼は堂々と胸を張り、自信満々に歩いている。まるで、「これが俺の新しい戦場だ」とでも言わんばかりに。
「うるさい! お前だって……」
カインが振り返ろうとした瞬間、バランスを崩した。トレイからカップが滑り落ちる。
「あ」
エリナが悲鳴を上げた。
カインは反射的に両手を広げ、転倒を防ごうとした。その拍子に、彼のスカートがめくれ上がった。一瞬、店内の時が止まった。
客席の男性二人が、固唾を飲んで見守っている。一人は新聞を顔の前で隠したが、目が動いているのがバレバレだ。もう一人は、メガネを外して拭き始めるという定番の動作を取った。
「……っ!」
カインは顔を紅潮させ、慌ててスカートを押さえ込んだ。だが、遅い。その姿は、確かに目撃された。
「いい加減にしろ、カイン」
ロイドが近づいてきて、カインの肩を叩く。
「ここで失敗したら、俺たちの生活は終わりだ。魔王を倒した時よりも、集中しろ」
「お前が言うな! 変態!」
カインが叫び返す。
「変態? 違う。これはビジネスだ」
ロイドは冷徹に言い切った。
その時、カウンターからミレディアが出てきた。彼女は満足そうに微笑んでいる。
「あら、初回にしては上出来じゃない。お客様の反応も良かったわ。特に奥の席の御仁、嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたもの」
「……最悪だ」
カインが項垂れる。
「でも、チップが入ってる」
エリナが小声で言った。テーブルの上を見ると、カインが落としたカップの代わりに、何枚かの紙幣が置かれていた。
「これが……仕事の報酬?」
カインは驚いた顔で紙幣を見つめた。屈辱と、金銭。二つの感情が混ざり合い、彼の頭の中で複雑な方程式を組み立てようとしていた。
「次は私たちがやる番よ」
エリナが勇ましく宣言した。だが、彼女の手は依然として震えている。
「大丈夫、エリナ。俺がついている」
カインが、少しだけ柔らかい声で言った。
「……本当に?」
エリナが不安そうにカインを見る。
「ああ。ノーパン同士、団結だ」
カインが真面目な顔で答えると、エリナは吹き出し、ロイドは小さく溜息をついた。
この奇妙な日常が、まだ始まったばかりであることを、誰もまだ知らない。