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第三話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: 魔王倒して、無職になった英雄たちがノーパンメイド喫茶で働く話。 📝 2,397文字 ✅ 全年齢

あらすじ

元魔王軍の”灰”が、メイド服に着替えると、古い写真と革の日記帳をポケットに大事そうにしまう。「おはようございます」もう昼に近いのに朝の挨拶が聞える。

本文

 元魔王軍の”灰”が、メイド服に着替えると、古い写真と革の日記帳をポケットに大事そうにしまう。

「おはようございます」

 もう昼に近いのに朝の挨拶が聞える。

 カランと鈴を鳴らし新しい客が入ってきた。

 それは一人の少女だった。金髪をツインテールにまとめ、背丈はエリナよりも頭一つ分低い。しかし、その瞳には年齢不相応な冷めた光が宿っていた。彼女は店内を見渡し、カインたちの姿——特にフリルの下着無しのメイド服を見て、眉をひそめるでもなく、ただ小さく溜息をついた。

「……遅刻だよ」

 少女はカウンターへ歩み寄り、ミレディアの前に立つ。

「オーナー、契約書を持ってきました。今日からシフトに入ります」

 ミレディアは紫煙を吐き出し、ニヤリと笑った。

「あら、新入りさん。名前は?」

「リナです。元・勇者パーティの弓使いです」

 その言葉に、カインとエリナ、ロイドが一斉に振り返った。

「勇者パーティ? 俺たちは英雄パーティーだぞ」

 カインが食いつくように言う。

「知ってます。だから、あなたたちより後輩です。先輩方、よろしくどうぞ」

 リナは愛想のない笑顔で会釈した。その手つきは軽快で、どこか挑発的だった。

 リナは制服を受け取り、バックヤードへ消えていった。数分後、彼女もまた、同じフリルのミニスカートと白いブラウスを纏って現れた。ただし、彼女の動きは三人とは明らかに違っていた。慣れているのか、それとも最初から羞恥心など持ち合わせていないのか、堂々と歩を進め、客席へ向かう。

「いらっしゃいませ、ご主人様」

 リナの声は澄んでおり、客席の男性たちが一瞬息を呑む。だが、リナはその視線を完全に無視し、注文を取ると、トレイを器用にバランスさせて運んだ。

「……こいつ、何者だ」

 ロイドが低く呟く。

「元勇者パーティなら、魔王城攻略にも参加していたはずだ」

 カインが疑いの目を向ける。

 その時、灰が立ち上がり、リナの背後に忍び寄った。彼はリナの肩に手を置こうとしたが、リナは振り返ることもなく、肘打ちで灰の手を弾いた。

「触らないでください。お客様へのサービス精神とはいえ、スタッフ同士の接触は禁止されています」

 リナが冷静に言い放つ。

 灰は鼻で笑い、自分の席に戻った。

「面白い。君も、この店に適応しているようだな」

「適応? 違います。私はここで稼いで、次の冒険資金を作ります。それだけです」

 リナは灰を一瞥し、再び接客に戻った。

 そのやり取りを見ていたエリナは、複雑な表情でカインに近づいた。

「カインさん……私、あの子みたいになれません」

「無理にする必要はない。お前はお前のペースでやれ」

 カインが優しく言ったが、内心では焦りが募っていた。リナのような新人が次々と現れれば、自分たちの存在意義が薄れていく気がするのだ。

 そこへ、ミレディアが割って入った。

「いいえ、大丈夫よ。むしろ、あなたたちがいることで、この店は成り立っているの」

 ミレディアは四人のスタッフを見渡す。

「英雄、聖女、影、そして灰。さらに今、勇者の後継者が加わった。これで『天罰』の陣容は完璧に近いわ」

「完璧?」

 カインが呆れた顔をする。

「ノーパンでコーヒーを出すだけの店ですよ」

「だからこそ、完璧なの。世界を救った者たちが、最も屈辱的な場所で、最も真摯に働く。その対比こそが、お客様の心を掴む魔法なのよ」

 ミレディアはそう言って、リナに目配せした。

「リナ、あなたには特別業務を頼みます。この子たち(カイン、エリナ、ロイド)の指導係として、接客のコツを教えてあげて」

「承知しました」

 リナは無駄のない動作で頷き、カインたちの前に立った。

「まず、歩き方です。重心を下げて、膝を柔らかく使う。スカートの揺れは計算に入れて、足を組まないこと。次に、視線。お客様の目を見すぎない。見返されると、お客様は緊張して注文を間違えます。最後に、声。明るく、しかし押しつけがましくない音量で」

 リナの実践的な指導に、カインたちは戸惑いながらも従おうとした。

「ほら、カインさん。もう一度、いらっしゃいませを」

 エリナが促す。

「い、いらっしゃいませ……」

 カインが言うと、リナは首を横に振った。

「弱いです。腹筋を使って、声を張ってください。それと、腰を引いて。お尻が見えすぎています」

「うっ……」

 カインは顔を赤らめ、姿勢を直した。

 その時、店の入口が開き、また別の客が入ってきた。今度は女性客だった。OL風のグループではなく、一人の老婦人。彼女は杖を引きずりながら、ゆっくりと席に着いた。

「お茶を……温かいものを」

 老婦人が静かに言った。

 カインが対応しようとしたが、リナが先んじた。

「はい、お待ちください。すぐにお淹れします」

 リナは老婦人のそばに跪き、丁寧に注文を確認した。その姿は、かつて勇者として戦った面影を微塵も感じさせない、純粋なメイドのものだった。

 カインは自分の不器用さを痛感し、拳を握りしめた。

「……くそ」

 小声で悪態をつく。

 ロイドが隣に立ち、低く囁いた。

「焦るな。お前の剣術の基礎体力は、接客の持久力になる。利用しろ」

「お前は何を言ってるんだ」

「事実だ。魔王を倒した脚力を使えば、長時間の立ち仕事も楽勝のはずだろ」

 ロイドの冷徹な分析に、カインは思わず吹き出しそうになった。

 エリナが二人の間に入り、微笑んだ。

「カインさん、ロイドさん。仲良くしてくださいね。私たち、仲間なんですから」

 その言葉は、今の状況において最も重い意味を持っていた。

 ノーパンメイド喫茶「天罰」。ここでの戦いは、剣ではなく、羞恥心との戦いだった。

 リナが老婦人に抹茶を届けた瞬間、店の照明がわずかに揺れた。灰が窓の外を見て、何かを察したように眉をひそめた。

「……来たか」

 灰が呟く。

 カインが振り返る。

「何が?」

 灰は答えず、ただ店の入口を見つめていた。

 その先に、見覚えのある人影があった。

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