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第七話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/3 📚 シリーズ: 魔王倒して、無職になった英雄たちがノーパンメイド喫茶で働く話。 📝 2,909文字 ✅ 全年齢

あらすじ

次の瞬間、何が起きるか、誰にもわからなかった。ミレディアの問いかけが空洞に反響し、消える。その沈黙を破ったのは、リナの放った矢だった。愛想のない顔のまま、彼女は弦を引き絞り、ミレディアの胸元を狙う。だが、矢は届かない。ミレディアの周囲に透明な障壁のようなものが展開され、矢先が弾かれて床に転がった。「粗い」

本文

 次の瞬間、何が起きるか、誰にもわからなかった。

 ミレディアの問いかけが空洞に反響し、消える。その沈黙を破ったのは、リナの放った矢だった。愛想のない顔のまま、彼女は弦を引き絞り、ミレディアの胸元を狙う。だが、矢は届かない。ミレディアの周囲に透明な障壁のようなものが展開され、矢先が弾かれて床に転がった。

「粗い」

 ミレディアが呆れたように言う。その声には怒りではなく、失望の色が滲んでいた。

「三年前、魔王城で私を追い詰めたときとは違うわね。あの頃は、もっと殺気があった」

「俺たちはもう英雄じゃない」

 カインがトレイを握り直し、前に出た。足元のフリルが揺れる。下着がないという事実が、今の彼には重荷ではなく、むしろ枷を外されたような軽さを感じさせていた。

「ただの、無職の男だ」

「ええ。だから、私はあなたたちを雇ったのよ」

 ミレディアが歩みを進める。そのハイヒールが石畳を叩く音が、心臓の鼓動のように聞こえた。

「平和になった世界で、あなたたちに居場所はない。王都の貴族も、教会も、ギルドも、あなたたちを忘れつつある。だが、ここなら忘れない。ここでなら、あなたは『天罰』を受ける存在として、確かに存在できる」

「意味がわからない」

 エリナがロイドの背中から降りようとするが、ロイドが支えて静止させる。

「オーナー、ビジネスの話はいい。だが、この地下施設は何だ? ガラス容器の中の生物は?」

 セレスティアが杖を突きつけ、周囲を見渡す。多数の人間型の影が浮かぶ容器。それらは眠っているのか、死んでいるのか判別つかない。

「実験体よ」

 ミレディアが淡々と答える。

「魔力を吸収し、擬態する生物。これは私が作り出したものではない。かつて魔王軍が開発しようとして失敗した技術の残滓。でも、あなたがたのおかげで、完成させたわ」

「私たちのおかげ?」

 カインが眉をひそめる。

「三年間、あなたがたが路頭に迷い、恥をかき、空腹に耐え続けたこと。その感情——屈辱、絶望、そしてそれでも生き延びようとする執念。それが、この生物たちの成長に必要な栄養素だったのよ」

 ミレディアはニヤリと笑う。その笑顔は、店で見せる接客用よりもずっと本物だった。

「ノーパンメイド喫茶『天罰』。それは単なるカフェじゃない。あなたの感情を抽出し、精製するための装置なの」

「……最悪だ」

 ロイドが呟く。冷徹な彼でさえ、この論理には嫌悪感を隠せないようだ。

「つまり、俺たちが働けば働くほど、こいつらが強くなるってことか」

「ええ。そして今、あなたたちがここに来たことで、最終段階が始まる」

 ミレディアが手をかざすと、背後の王座から黒い霧が噴き出し、洞窟全体を満たしていった。

 霧の中で、ガラス容器が次々と割れていく。中から現れたのは、人型をした、しかし顔のない生物たちだった。彼らはミレディアの前に跪き、彼女を崇拝するように頭を垂れる。

「灰!」

 ミレディアが叫ぶと、瓦礫の上に立っていた灰が跳躍し、ミレディアの隣に着地した。

「承知しました、オーナー」

 灰の声は低く掠れている。彼は兜を外し、傷だらけの顔を晒しながら、カインたちを見た。

「英雄様方。悪いが、ここで終わりです。あなたたちの感情は、すでに十分に抽出されました。後は、消費されるだけです」

「消費?」

 カインが問う。

「この生物たちは、あなたたちの生命力を吸い取り、ミレディア様の力となる。それが、この店の真の目的です」

 灰が両手を広げると、彼の革鎧の下から、紫色の紋様が浮き上がった。それは魔導文字であり、カインたちは見覚えがあった。三年前、魔王城で対峙したときの魔法陣の一部だ。

「お前……本当に魔王軍だったのか」

 エリナが震える声で言う。

「私は、魔王の側近だった。だが、敗北後、生き残り、ミレディア様に拾われた。彼女こそが、新たな魔王になるべき存在だと信じている」

「ミレディアが魔王?」

 セレスティアが驚愕する。

「いいえ、違うわ」

 ミレディアが首を横に振る。その表情は、どこか寂しげだった。

「私は魔王じゃない。だが、魔王を超える存在になりたいだけ。この世界を支配するためではなく、あなたたちが二度と私を忘れられないようにするために」

 その言葉は、奇妙なほど切実だった。

 その時、リナが弓を構え直した。

「長話は終わりです。オーナー。あなたは嘘つきですね」

「あら、なぜそう思うの?」

「だって、もし本当に支配したいなら、最初から力ずくで捕らえればいい。わざわざカフェを経営して、時間をかけて感情を抽出する必要はないはずです」

 リナの指摘に、ミレディアは一瞬目を閉じた。

「……鋭いわね」

「つまり、これはゲームです。あるいは、テスト。私たちは、何を試されているんですか?」

 リナが問うと、ミレディアは微笑んだ。

「試しているのは、私自身よ。三年間、平和の中で暮らすあなたたちが、本当に変わってしまったのかを。剣を捨て、プライドを捨て、それでもなお、仲間のために戦えるかどうかを」

 ミレディアが手を打ち鳴らす。

 すると、襲いかかってきた生物たちが、一斉に止まった。

「……え?」

 カインが戸惑う。

「答えが出たわ」

 ミレディアがゆっくりと近づいてくる。

「カイン、あなたはトレイで盾を作った。ロイド、あなたはエリナを守った。エリナ、あなたは光を放ち、敵を困惑させた。リナ、あなたは冷静に真相を見抜いた。セレスティア、あなたは協力者として留まった」

 ミレディアは四人の前で立ち止まり、紫煙を吐き出す。

「あなたたちは、まだ英雄よ。少なくとも、私の目にはそう映る」

「……どういうことだ」

 カインが尋ねる。

「この実験は終了。生物たちは、これ以上あなたたちを害しない。代わりに、報酬を支払うわ」

 ミレディアが懐から袋を取り出し、地面に投げた。ガチャリと金属音が響く。金貨だ。

「今回の調査依頼に対する報酬よ。十分すぎる額でしょう?」

「待て、話が見えない」

 ロイドが眉をひそめる。

「見えない方が面白いでしょ? これが『天罰』のスタイルよ」

 ミレディアが振り返り、灰に指示を出す。

「灰、帰還準備。全員、地上へ戻るわ」

「了解」

 灰が頷き、生物たちを従えて奥へと消えていく。

 ミレディアもまた、王座の方へ歩き出す。

「カイン。エリナ。ロイド。リナ。明日のシフトは通常通りよ。遅刻しないように」

 その背中は、もう魔王軍の将帥ではなく、ただの美人オーナーだった。

 洞窟に残された四人は、互いを見合わせた。

「……結局、何だったんだ?」

 カインが項垂れる。

「わからない。でも、金はもらった」

 ロイドが金貨を拾い上げる。

「聖女としての証は、得られたかしら」

 エリナが自分の手を見る。先ほどまで暴走していた力は、今は穏やかに脈打っている。

「指導係としては、不合格かな」

 リナが肩をすくめる。

「でも、面白かったわ」

 セレスティアが苦笑しながら、右腕の包帯を巻き直す。

 四人は、暗い洞窟の中で、それぞれの思いを抱きながら、地上への階段を上り始めた。

 ノーパンメイド喫茶『天罰』の日常は、まだ終わっていない。

 いや、むしろ、本当の意味での日常が、今から始まろうとしているのかもしれなかった。

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あ゙あ゙あ゙あ゙

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